交渉の義
ここで状況を整理したいと思う。オレは現在、家の居間で初対面のオッサンに猛烈なラブコールを受けている。ラブコールと言っても勿論バスケットボールの事だがハッキリ言って1ミリも嬉しくない。
そもそも、帰宅部のオレに目を付けるとか正気の沙汰とは思えない‥‥。それも日の丸を背をう奴のする事じゃないだろうに。もしや新手の詐欺なんじゃねーか?
片桐 「実を言うとね。此処にお邪魔する前に神崎高校に行かせてもらったんだ。」
「それにしても大活躍だったじゃないか。流石神崎中のチーター!伊達じゃないね。」
オレ 「‥‥残念ながらチーターってのは足‥‥」
片桐 「知ってるさ!チートシューターだろ?」
「さっき初めましてと言ってしまったが、実は2年前に1度顔を合わせてるんだけど‥‥覚えてないんだろうね。」
なるほど。
2年前って事は、オレが最後に出場した県大会を観てたってところか‥‥。
片桐 「正直に言うとね‥‥。2年前、私は大会の優秀選手を選考する役員の一人だったんだ。そしてグループリーグのうちから神崎中に目を着けてたって訳さ。しかし、実は私の本来の目的はキミでは無かったんだけどね。」
オレ 「藤宮 誠ですか?」
片桐 「その通り。藤宮君を追いかけてキミたちの試合を全部観させてもらった。そしてグループリーグ2試合目だったかな?試合終盤でのキミの突然の覚醒。まるで別人の様な動きだったね。最後のパスには私も見とれてしまったよ。」
オレ 「‥‥」
片桐 「そして次の試合から明らかプレースタイルが変わったね?おそらくあの最後のパスでチームメイトとケンカでもしたんじゃないかい?」
オレ 「記憶に有りません‥‥。」
片桐 「そうかい?あれだけ目立った活躍をしているのに、全く楽しくなさそうだったから私はハッキリ覚えているよ。」
「そして私は確信したんだ。キミは全国でも間違いなくトップに君臨すると‥‥。」
オレ 「買いかぶり過ぎです。」
片桐 「そうかな?しかし、キミは全国大会には出場しなかった。最初はケガがと思ったよ。しかし、3年になっても出場しなかった。気になって調べてみたら、突然退部したって聞いて物凄く驚いたよ。そして失望もした。」
オレ 「そうですか?で‥‥勝手に期待して勝手に失望して‥‥オレに今さら用なんて有るんですか?」
片桐 「ハハハ。手厳しいねー。単刀直入に私が創るチームの顔になってくれないか?」
オレ 「お断りします。」
校長 「な!何を言ってるんだ!キミは?日本代表だぞ?オリンピックだぞ?名誉じゃないか!今直ぐ考え直しなさい。」
‥‥
‥‥
うっぜぇ。大方このじじぃは学校の評価を挙げたくて仕方ないってとこだろう。こいつはもう一度倒す必要が有りそうだな。
オレ 「ハァッ?名誉?何ですかそれ?美味しいんですか?お高いんですか?そんなもん興味も無ければ帰宅部のオレには必要も無いものですね。」
父親 「おい!いいかげ‥‥」
片桐 「ハハハ。いいじゃないですか。これくらい自己主張が無ければ大物にはなれませんよ。」
「裕貴くん。確かに美味しいくは無いかも知れないけどお金にはなるんじゃないか?日本代表になるだけでもそれなりの収入にはなるし、名前が売れれば就職にも困らないだろう?キミは大学にいくつもりなのかな?そうなった時に出席日数や遅刻なども大分有利に働くんじゃないかな?」
むむむ。痛い処を突いてくる奴だ‥‥。確かに進学するにしても就職するにしても既に致命的と言える程に遅刻と欠席を量産してしまっている‥‥。
オレ 「‥‥一理有りますね。だけど仕事量と天秤に掛けたら割に合わないのも事実です。せっかくですがオレでは無く誠に声を掛けて下さい。アイツも天才なんで日本代表に成れる器だと思います。」
片桐 「アイツも‥‥ね。確かに藤宮くんも天才と言って良いだろうね。スピード、フィジカル、テクニック、メンタル、シュートセンス全て平均値以上だ。しかし仮に1or1をした時に彼に負けると思えるのかい?」
‥‥
‥‥
意地の悪い言い方だな。まぁ確かにその通りだ。誠は全てにおいて弱点らしい弱点なんか存在しない男だ。‥‥しかし相手にして嫌か?と聞かれれば、オレにとってはむしろやり易い相手だろう。特にオレの場合は点の取り合いに持ち込んだらまず負けないし、アイツは正確が真っ直ぐ過ぎて読みやすい。
オレ 「さぁ?いい勝負になるんじゃないんすかね?」
片桐 「‥‥悪いね!私は今からキミに酷い事を言うよ。お父さんもすみません。気を悪くしないで下さい。」
「キミは自分が天才だと自覚しているみたいだね?」
オレ 「‥‥文句でも?」
片桐 「いいや!それは間違っているよ。」
オレ 「自惚れるな的なやつっすか?くだらないっすね!」
片桐 「あー!違う違う!キミは天才なんかじゃないのさ‥‥。私からしたらキミは最早バケモノだね。突然変異したとしか思えないレベルさ。キミは自分がバケモノと理解して生きるべきだ。さっきのリレーを見せてもらって確信したよ。現段階でキミのポテンシャルに勝てる日本人は存在しないさ。さぞかし退屈な日々なんだろうね‥‥。」
「そこで!世界に目を向けてみないか?って提案なのさ!国内に敵は居なくても他の国にはキミを越えるバケモノがいっぱいいるかも知れないよ?」
オレ 「‥‥オレが熱血くんに見えます?そんなのただ面倒なだけじゃないですか?本当に興味無いんでお断りします。」
「それじゃあシャワー浴びるんで失礼します。」
片桐 「うーん。鉄壁なディフェンスだね。今日のところは帰るよ!また来るから、少しは考えといてくれると助かるな。」
「お邪魔しました。」
校長 「‥‥お邪魔しました。」
父親 「力不足ですみません。」
てめえもそっち側か!
オレが日本代表の顔ってか‥‥。あり得ないわ。
この後、父親と壮絶な親子喧嘩をしたのだがオレの考えは全く変わらなかったのである。




