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酒場相談場

「頼む、皆! 知恵を貸してくれ!」


 今の俺には恥も外聞もない。

 平伏し、頭を床に擦りつけながらそう大声を上げる。

 多分皆吃驚している事だろう、だか、本当に切羽詰っているんだ。


 何とかしてやりてぇ。

 でも、どうすりゃいいか分からねぇ。

 それかこんなにももどかしいとは……いや、知っていたが、今まで以上に自分の感情を持て余しているのを自覚している。


「おいおいアベイルよぉ。俺らの中じゃねーか。

 水くせェ奴だな。

 で、その前に結果を教えてくれないか?」


「は? 結果だと?」


 最初に声を掛けてきたベルドの言葉にそう返す。

 全く意味がわからねーんだが。

 困惑する俺をよそに、何故か真剣な表情のベルド。

 一体マジでどうしたんだよ?


「いや、嬢ちゃんと仲直り出来たのか?」


「ああ、お前達のお陰で仲直り出来たぞ。

 だけど――」


「おい聞け! 仲直り成功だとチクショー!

 何で失敗しやがらねーんだよ。

 俺はお前が失敗する方に掛けてたのによー」


 頭を抱えるベルドの姿に思考が止まる。

 しばらくそのまま固まった後、そんな場合じゃないと視線を動かせば一喜一憂している馬鹿どもの姿。

 おい、オヤジまで何金受け取ってニヤニヤ嬉しそうにしてんだよ!

 流石元冒険者様だなぁったく。


「オメーら! 俺を賭けの対象にしてくれやがったんだ。

 きっちり落とし前は付けてくれるんだよな?」


 大声を上げる俺に、怖い怖いとふざけるように返す酒場の皆。

 まぁ、実際本気で怒っちゃいないが、全く怒ってない訳でもねーぞ?

 それ以上に大事な事があるから捨てておいてやるけどさ。


「ははは、で、そんなに慌ててどうしたよ?

 また嬢ちゃんと揉めたのか?」


 あっけらかんと笑うベルドにイラっとしながらも、事実なので口を紡ぐ。

 おい、お前ら何嬉しそうに騒いでやがる。

 俺は真剣なんだぞ!


「っかー、しょうがねぇな。

 まぁ話聞いてやっからとりあえず酒ぇ頼んで来いよ」


「ああ、今注文してくるから待ってろ」


 ったく、俺は賭け事か嫌いで手を出して来なかったが、そこまで楽しんでこそ冒険者だよな。

 だが、本気で相談に乗ってくれるのもまた事実なので、感謝する気持ちと憤る気持ちとでかなり複雑だ。

 くそっ、これは酒が入らないといけないな。


 そんな思考の元、強めの酒を頼んだら何故か弱い麦酒が出てくる。

 びっくりしてオヤジを見れば、真剣な悩みなんだろ? と諭される始末。

 あーもー、テンパってんのは分かったよ。

 本当に情けないな俺。


 オヤジの気遣いに感謝し、1度深呼吸をし気持ちを落ち着けてベルド達の待つ席に移動していく。

 どうやら今回は前回のように酒場の全員が参加すると言う感じではなく、物好きが数人相談に乗ってくれるようだな。

 どうせ今回のも賭け事のタネに使われるだろうが……、背に腹は代えられん。


 開き直って席に座り、とりあえずその場に居る全員とコップを重ねて先ずは酒を一口。

 っはぁ、うめぇ。

 さて、本題に入るか。


「アリシア……、ああ、俺の奴隷の名前なんだがよ。

 アリシアがどうやら何と言うか、色々と暴力に合ったようでな。

 凄く怯えられているんだ」


「まぁ、お前見た目からして怖いもんな。

 男前だけど目つき悪いし」


「うぐっ」


 ベルドに気にしている事を突っ込まれて、思わず唸ってしまう。


「まぁまぁ、もう見た目は変えられないんだし、何か手を考えようぜ」


 場の雰囲気を和ませるように言うのはジャック。

 こいつぁ気配り屋だからな。

 かなり心強いぜ。


「サンキュー、ジャック。

 でだ、ぶっちゃけ俺のチンケな頭じゃただただ優しくしてやる事くらいしか浮かばねーんだ。

 どうか、具体的な知恵を貸してくれないか?」


 真摯に告げると、表情を改めてくれるベルドにジャック。

 その横からミリーヌが口を挟む。


「しょうがないから私も混ざってあげるわ。

 どうやら他の面子は今回は傍観するようだしね」


 他にも数人テーブルの周りには居たが、座っているのはベルドとジャックだけだった。

 なるほどな。

 そして言いながら席に着くミリーヌに、深く頭を下げる。


「……驚いた。

 あんたあれだけ年下の、しかも女なんかにゃよほどの事がなきゃ頭なんか下げられるかって言っていたのに、そこまでの事なのね」


「……、そりゃぁ長年の夢だからな」


 驚くミリーヌにしみじみと告げれば、納得したように頷いてくれた。

 俺の頭を下げる程度で知恵を貸してくれるならお安い御用さ。

 今まで軽く下げて来なかった事が、寧ろここで活きてくるとは思わなかったが……。


 それにしても、長年の夢とは言え何でここまでと一瞬考え。

 アリシアのあの怯えた姿を思い出したら、自分の中でも腑に落ちたように感じる。


「とにかくだ、怯え方が尋常じゃねーんだ。

 皆の助言のお陰で何とか普通に話す事は出来るんだが、1度怯えてしまうとそれすらままならなくなってしまう。

 これがどういう状況なのかすらよく分からねーから、上手い対処法も浮かばねーんだ」


 なるべく簡潔に情報を提供する。

 この辺りも冒険者に必須な能力だからな。

 グダグダと詳しく伝えるのは、必ずしも良いわけじゃない。

 寧ろ、長くなればなるほど要所が伝わらないもんだからな。


「それはトラウマって奴だな。

 ある事で俺の身に……じゃねぇ、俺の知り合いの身にも起きているから間違いねえぜ。

 元嫁に合うだけで具合が悪くなっちうからな。

 ……って言ってたぞ」


「ふむ、お前も大変だな」


「おいアベイル、だから俺の知り合いだっつってんだろ!」


「まぁまぁ、ベルド、抑えろって」


 変なとこでプライドを出すベルドを抑えてくれるジャック。

 うむ、そんなんだから出て行かれちゃったんだななんて勝手に決めつけつつ、何か言いたげなミリーヌへと視線を向ける。

 俺の意識が向いた事を確認し、ミリーヌは言葉を紡ぎ出す。


「虐待ってやつかもね。

 医者の友人に来たんだけど、親が子供を殴る蹴るしたりするそうよ。

 まぁ、親じゃない場合でも力の勝る相手に一方的に攻撃される事を指すそうだけど、この場合はそこは問題じゃないかしらね。

 それがトラウマとなっているのかもしれないわね、そこのおっさんのように」


「おいおいミリーヌ、お前まで言うんじゃねーよ」


 女にはとことん甘いベルドは、ジャックの時は結構暴れていたのにあっと言う間にシュンと小さくなる。

 分かりやすい奴め。

 それも出て行かれた原因じゃねーのか?

 まぁ、このおっさんの事はどうでもいい……いや、俺より若いからこの兄ちゃんと言った方が良いのか?

 ……見た目は俺のが若いから、やっぱこいつはおっさんだな。


 さて、一瞬浮かんだ疑問も解決したし、アリシアの事に集中しよう。


「ってこたぁ、結局具体案はなくじっくり腰を据えて解決するしかないって事か?」


 若干落胆しつつそう言えば、3人とも頷く。

 うーん、ここで医者ばりの知恵があれば違うのかもしれないが、俺らはただの冒険者だしな。

 だが、小さい頃に殴る蹴るされた奴なんざごまんと居るんだ。

 それでも今や仲間と上手くやれている奴も多いし、となれば今期が大事って事だろう。


 幸い何も収穫が無い訳ではない。

 それに、どういう状況かしれただけでも上出来か。


「ああ、忘れるところだったが、エルフって何が苦手だっけ?」


「ばっか、おめー。

 そりゃぁ……何が大事なんだ、ジャック?」


 ベルド、お前何で口を開いたんだよ?

 俺は頭を抱え、周りはクスクスと笑いをこぼす。

 ベルドは恥ずかしいのを隠す為だろう、周りにうるせえ黙れとか言っていたが、お前が黙れ。


「とりあえず肉が苦手なのは有名だよな。

 好物は魚で野菜も好き。

 後、自然の力を感じられる場所だとリラックス出来るだったっけか。

 なんか前に一時的に組んだパーティーに居たエルフが、そんな事言ってた気がする」


 おぉ、流石ジャック。

 こいつは性格が良いから色んなパーティーにサポートを頼まれるからな。

 この業界力は勿論大事だが、それと同等くらいには性格も大事だ。

 信頼を高めておくに越した事はねぇってこった。


「ありがとう、助かった。

 お前ら3人の今日の酒代は全額俺が持つから、礼として受け取ってくれ」


 まさか魚が一番だとは、野菜が最も好物だとか思い込んでたからな。

 いや、個体差はあるのかもしれないが。

 ともかくハーフだから何でも食えるとは言え、エルフの食えない物は嫌いかもしれないと思っておこう。

 本当の好き嫌いは徐々に聞き出せば良いとして、食べると具合が悪くなるもんとかあるかもだから、気を配るに越した事はないもんな


 そうやって得た情報を頭で整理しつつ、テーブルの上に銀貨10枚を並べる。

 1夜の3人の飲み代としては多過ぎるくらいだが、まぁ端数はサービスだ。

 そんな事よりアリシアが心配だし、一刻も早く――あっ。


「おお、こりゃ気前がいいな。

 がははは、連日儲けたぜ!」


「……ベイルは金貨1枚も損しているから、寧ろマイナスだと思うけどな。

 賭け事をもう少し自重したら?」


「う、うるさいぞ、ジャック」


「あら、固まってどうしたの、アベイル?」


 漫才を始めるベルドとジャックを尻目に、アリシアの言葉を思い出して固まっていた俺に気付いたミリーヌが声を掛けてくれる。

 この辺り男女の差もあるだろうな。

 ジャックはベルドに絡まれたからかもだけど。


「アリシアが1人にしてくれてありがとうとか言ったのを思い出したんだ。

 なぁ、エルフって1人を好むのか?」


 自分でも思ったより情けない声色だった。

 これは、俺が思う以上に俺はショックを受けていたのだろうか?


「ああ、確かに1人の時間もかなり好むね。

 ただ、心から信頼した人は別らしくて、そうなるとべったりになるのも特徴だとか言ってたかな。

 この辺りはどの妖精族も共通だから、多分合っていると思う」


「そうね、私もそう聞いた事があるわ」


「お、お、俺もだぞ!」


 ジャックとミリーヌのなんと心強い事だろう。

 そしてベルド、お前ただ乗っかっただけなのがもろバレだからな?

 まぁ、いの一番に相談に乗ってくれているんだから、2人と同様に感謝してはいるのだけど。

 こいつ使えねーと思うのは仕方ないよな。


「となれば、もう少し遅く帰るか」


 腰を一瞬浮かしたのだが、座りなおしてちびりと麦酒をあおる。

 本当は一気飲みして行くつもりだったが、ここまで急いで来たしそれではあまりに時間が早すぎるだろう。

 昨日は日が明けて朝帰って感謝されたくらいだし。

 とは言え、俺が居なくて食事を取るとかちょっと想像出来ないし、夕食の時間には帰るか。


 予定も決まり、酒に酔いすぎて不覚を取るのも避ける為に今日はかなりゆっくり呑む事にした。

 まぁ、結局それなりの時間居る流れになったので、銀貨を引っ込めた際ベルドがぶーたれたが、俺が一緒に居る時間に頼んだ奴は奢ってやるからと約束してやって機嫌を直す。

 直後店の高い喰いもんとか酒とか頼みだしたが、加減くらい分かるよな? と釘を刺すのも忘れない。


 うん、凄い勢いで飲み食いしそうだったのに、ゆっくり飲み食いしてやがるな。

 上手いもんはじっくり楽しむものだし、お前の為でもあるんだぜ、けけけけ。

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