リベンジ
前回の屈辱から1ヶ月。
冒険者仲間達に飲み仲間達からさんっざんに笑われまくった日々を乗り越え、やっと待ちに待った奴隷売買の日がやってくる。
相応の商品を仕入れたり教育を施す事を考えれば、そのくらいの期間は寧ろ月1はかなり早い方だと言える。
それで王家の許可を得ているのだから、本当にやり手なのだろう。
ともかく、意気込んで再び足を運べば前回と同じ黒服の男がいて、俺の姿を見るや口を開いた。
「ああ、旦那、お陰様でガッツリ稼がせて貰いましたぜ!」
一瞬頭が真っ白になり、ゆっくりと理解していく。
どこまでも嬉しそうに言いやがって!
本当にどれだけ儲けたのだろうか。
負けた奴らが相当キレてましたけど、こうやって代わって上げたんだから機嫌直して下さいよとか知るか!
とは言え、確かに助かるのは事実な訳で、内心で悪態を付きながらも再び前回と同じ金額を払う。
うん、逆恨みは本当に面倒だからな。
何だかんだ今回も的確なアドバイスをしてくれたし、案外根は良い奴かもしれない。
なんて思うとでも思ったか!?
お前今回は俺が買う方に賭けてるだろう? 間違いなく!
あーもー、おりゃぁ自他共に認めるほどに頭が悪いが、それくらいは分かるぞ。
ただ、だからと言って怒る訳にもいかない訳で、心の中に怒りを押しとどめる。
これも全部計算の内なんだろうな。
ったく、ずる賢い奴はこれだから余計に腹が立つぜ。
ついついブツクサと文句を言い続けそうになるが、早々に切り上げて本題にへと気を向ける。
そう、今日こそは失敗しないぞ。
あの程度はすぐに取り戻せるとは言え、もう笑われたくないからな。
ただ、散々に言ってくれた奴らの鼻を明かす為にもあまりに早く手を打つ真似は出来ない。
本当にタイミングが重要だな。
前回のように男ばかりが続くとかなければいいが……、今回は女も徐々に上がりますのでとか言う辺り、やっぱりあいつは確信犯だろう。
また儲けさせるのは悔しいが、そんなちっぽけなプライドより情報を信じるとするか。
2度目だが、意外と前回と顔ぶれが変わっていた。
それも当然か、特別席に座る奴らには事前にどんな奴隷が来るかとか間違いなく伝えられているだろうし。
前回とか高額奴隷の数と同じだったからな。
それにすら考えが至らないあたり、どれだけ空気に飲まれていた事やら。
本当に情けない。
サクサクと売買は進み、いよいよ白金貨がスタート値となる。
前回はまだまだとか思っていたが、競売相手が居ると想像以上に値が上がる事もあるし、タイミングは見計らうべきだろう。
「続いて、ヒューン族の娼婦奴隷でございます。値は白金貨5枚から!」
そんな考えをしていると、丁度良い感じの奴隷がステージに上がっているじゃないか!
うんうん、ちょっと気が強そうな感じを受けるが、十分美人と言えるだろう。
年齢はまぁ多少いっているだろうが、それでも俺より若干は若い感じを受けるし、寧ろ好都合かもしれないな。
「白金貨100枚!」
って、ええええ!?
値段釣り上げすぎじゃないか!?
大声を上げた隣の若い男をガン見してしまう。
その意志の強そうな瞳から訳ありな気がする。
うん、これは手を出さないのが正解だな。
元値から考えると高くなりすぎだし、何よりリスクがでかい。
こいつは多分間違いなく限界までお金を突っ込んでくるだろうし、下手に競り落とすと逆恨みされかねん。
うん、スルーだな。
多分会場に居る者全てが俺と同じ思いだったのだろう、結局その奴隷はそいつが落札し、案の定と言うか何と言うか熱い抱擁なんてしてやがる。
うん、場違いと言うか何と言うか……、ああ、でも流石に上に話は回してる……んだよな?
嫌な予感がする、関わらない事にしよう。
苦笑いを浮かべる司会者に案内されて消えていく。
思わず合掌しようとしてしまった。
まぁ、とは言えあの程度なら強迫されて終わる程度だろうし、はよ忘れよう。
その後も続けて女奴隷が出てくるのだが、気が抜けた事も手伝い落札し損ねてしまう。
まぁ、前の女とだいたいレベルは同じだったが、単純に俺のタイプ的に劣っていたから良いか。
なんて思っていると、また男連発が始まり内心で焦り始める。
おいおい、騙されたんじゃないだろうな?
不安ばかり募っていく中、ふと小柄な女の子が出て来た。
ヒューン族より明らかに長い耳、そしてとんでもなく整った容姿。
その特徴から、美貌に名高いエルフ族とひと目で分かる。
ただでさえ人気のエルフ族の上に少女とは。
その手の趣味がある奴からすると、喉から手が出るほど欲しくなるだろう。
ああ、また終わった。
今日もまた笑い者にされなければならないのか。
心の中を絶望が覆っていくなら、天を仰ぐ。
何やら司会者が喋っているが、もう俺には関係な――。
「――白金貨50枚です。さぁ、いかがでしょう!?」
はぁ!? なんだって!?
格安すぎるにも程があるだろう?
エルフ族ってだけでも前回は大トリでスタートが白金貨1000枚だったぞ!
なんだ、呪いでも掛かっているのか?
えーい、何だって良い!
ここで落札せねば笑い者は必死だし、多少の悪い点は目を瞑ってやる。
もし呪いが掛かっているなら解くお金くらい払ってやるさ。
「白金貨100枚!」
考えを巡らせる間誰も手を上げなかった事を深く考える事もなく、勢いに任せてそう叫ぶ。
すると、一気に俺に視線が集まる?
な、なんだ?
そんなにやばい奴隷だったのか?
つっても、今更引き返せないし。
ええい、ならば突き進むのみよ!
「ほ、本当に宜しいのですか?」
「構わん、男に二言はない!」
困惑した表情の司会者に、まずったと言う思いが再び湧き上がるが、それを押さえつけて叫ぶ。
まぁ、格好つけているようで心臓バクバク言わせているあたり、やはり根っからの小心者だな、俺は。
だからこそここまで生き抜けたのだが。
結局そのまま落札した俺。
司会者から、冒険者の方は100と言う数字が好きなようでなんて言われてしまう。
なんのこっちゃ? っと思っていたら……被ってるじゃねーか。
恥かしいにも程がある。
落札したらすぐに契約を済ませるか、それとも奴隷競売を続けるか問われ、お金もないしそれ以上にその場に留まりたくなくて契約の方を選択した。
そして、顔を真っ赤にさせつつ半ば逃げるように案内人の後を追う。
「やぁやぁ、アベイル君。
まさか君がそんなもの好きとは思わなかったよ」
案内された部屋に入れば、満面の笑みを浮かべるオーナー。
やたら親しげに話してくるが、ぶっちゃけ面識は知り合いレベルでしかない。
ただ、それでもこう言う事が出来るのがやり手たる所以……なのかもしれないな。
何にしろ彼に話を通していたとは言え、一度目は苦渋の飲まされたのだからし、やはり裏の世界は怖い。
出来ればこのまま当たり障りのないくらいのレベルの関係で行きたいぜ。
「いえ、それほどでも」
きっと俺は引きつった笑を浮かべている事だろう。
本当にウィークポイントは何だ?
少女ってだけじゃ物好きなんて言われる訳もないし、これは本当に早まったか?
「いやいや、ハーフなのに買ってしまうとは。
てっきり私の予想だと次のヒューン族を買うと思ったのだがね」
「えっ?」
「またまた、ハーフ族がどれだけ嫌悪されている存在か知っているだろう?
あの子がいる限りヒューン族はともかくエルフ族とは仲良く出来ないだろうからな。
それを押してでもととは、やるなぁ。
しかも君は冒険者だろう? エルフ族は魔術に長ける者が多いのに、なおさら豪気じゃないか」
ああ、そう言う事だったのか。
ハーフだと両方の種族から嫌悪される存在だったけ。
言われて思い出したぜ。
例外はヒューン族くらいか? それでも、田舎に行くと場所によっては迫害されているそうだが。
違う、そう言う問題は後でいいんだ。
俺にエルフ族の仲間や友人は……、顔を合わせば挨拶をする程度しかいないな。
ああ、それじゃぁ何も問題はない。
確かにエルフ族とパーティーを組める立場だったら拙かっただろうが、所詮20年掛けてランクDの冒険者じゃ望める筈もないからな。
そして、他では接する機会は少ないだろう。
これは思わぬ優良物件だったんじゃないだろうか?
特別席の奴らはそんな厄介な奴より純粋なエルフ族を手に入れれば良いだけだしな。
もしかすると変わり者がいるかもしれないが、ならば金額を上乗せしてきただろうし、こちらも問題なしと。
唯一の難点は2桁にも行ってないかもしれない年齢だが、そんなもん数年待てば追いつくんだ。
20年待った事からすればそんなに長い時間ではない。
それに、自分好みの色に染められると考えれば、寧ろ良いくらいかもしれないな。
うん、今後エルフ族とは仲良くなれないデメリットを考えても、十分だと言える成果だ。
内心でガッツポーズを作り、しかし、それが表情に出ないように苦心しながら口を開く。
「色々とご教授頂き誠にありがとうございます。
とても勉強になりました」
「なんだ、知らなかったのか?
とは言え、1度落札したものを無しは困るなぁ」
「いえ、私にとってはとても良い買い物でした。
本当にありがとうございます」
いつものおべっかと違い、心からの感謝の気持ちを伝える。
それが伝わったのか、一瞬厳しい顔つきになったオーナーの表情が明るくなった。
「おお、私としても金払いの良い客は好きだよ。
ただ、アレは別に金額を釣り上げずとも落札できただろうし、次また便宜を図るから新しい奴隷が欲しくなったら来るといい」
「承知致しました」
お互いご機嫌にやり取りをし、無事に契約を終える。
最低限の衣服を付けてくれたのは……、多分本当に金を出しすぎていたからだろうか。
奴隷の首輪もかなり質の良い物をデフォルトで付いて来たし、どのくらい儲けた事やら。
ともかく、注意事項なども色々聞いて、準備もあるから受け渡しは後日と言う約束を交わして店を出る。
前回と引き続きかなり遅い帰宅だが、今日は何と胸の内が晴れやかな事か。
革袋はかなり軽くなってしまったが、今はそれすら心地よい。
そのまま上機嫌に酒場に向かい、気分よく戦果を話すと顔を見合わせる冒険仲間に飲み友達達。
直後また爆笑されて固まってしまう。
「はははは、このロリコン、良かったな!」
「いやー、少女を買ってそんなにニヤニヤしているとか、お前マジ鬼畜だな」
「サイテーです、アベイルさん。
そんな人だとは思いませんでした」
好き勝手に口にする皆に、中々再起動出来ない俺。
いや、まさかそんな反応だとは思わなかった。
ただ、完全に父親と娘だな、頑張れと言われた瞬間、あっと口から溢れてしまったり。
……、俺も奴隷もお互いにその感情を抱かないとは言い切れないし、ああもう、今日もヤケ酒じゃねーか!
そんな感じで、折角奴隷を買ったと言うのに弄られまくってしまう。
まぁ、流石冒険者と言うか、ハーフに特に反応しなかったのはありがたかったな。
裏で何て言うかまでは分からないけど。
ふと、ドンっと酒が目の前に置かれる。
「さぁ、ともかく長年の夢を叶えた友に祝福を!
1杯奢ってやるから今後も頑張れ」
……、何だかんだ仲間って良いもんだなと思う瞬間の1つだな。
その後、結局朝まで飲み倒した俺。
二日酔いから免れなさそうだが、こう言う日もたまには良いもんだな。




