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昔話

 ジャックの依頼は俺が普段受ける依頼とほぼ同じ依頼な訳で、森の奥へ奥へと向かっていく。

 本来森の浅い場所に大量にあるとある植物の採取の訳だが、何故なのか理由はすぐに知れて伊達にランクEになった訳じゃないってこったな。


「ふーん、森の奥の方が良質な物が取れるって事ね」


 だが、どうやらミリーヌは理由が分かっていないようで、そんな見当違いな事を口にする。

 さて、どうしたものかとジャックを苦笑いをしつつ見ると、苦笑いが返ってきた。


「アベイルの……アベイルさんの判断に任せますよ」


 ったく、急に丁寧に喋り出しやがって。

 融通が利かないと言うか、まぁそれだけ慕われていると思うと悪い気はしないがな。


「どうしたのジャック、急にアベイルにさん付けしてしかも丁寧に喋るだなんて」


「ははは、まぁ俺達も長年冒険者をやっているし、歴史ありってこった」


 そう言えば、不機嫌そうに俺を睨むミリーヌ。

 うーん、茶化した訳じゃなかったんだが、気に障ったらしいな。


「まあまあ、俺がやっている事は元々アベイルがやってたって事だよ。

 俺の同期付近の冒険者は大抵お世話になったんじゃないかな?」


「それは言いすぎだろ?

 まぁ俺が先輩方から教わった事をより丁寧に教えることを始めたのは事実だが、相手はかなり選んでいたぞ」


「またまたー。そうやってすぐ自分の功績は謙遜しちゃうのって悪い癖ですよ。

 最近の冒険者達がアベイルさんを正しく評価していないのだって、俺は結構不満なんですから」


「だから、逆にお前らが過大評価し過ぎだって。

 俺がやってたのって、結局素直な奴や見込みがある奴、後ギルドに頼まれた奴にお前みたく見るに見かねた奴に最低限を仕込んだだけだし」


 苦笑いしつつ言えば、不承不承にそう言う事にしておきますと返してくるジャック。

 まーったく、こいつもかなり丸くなったかと思えば、こう言う部分は変わんねーな。


「私はギャザインに色々教えてもらったのだけど。

 その時に、ジャックが始めたって聞いたのは違ったの?」


 不思議そうに言うミリーヌ。

 そうか、今はそんな風に伝えてあんだな。


「あー、まぁ一応表向きはそう言う事になっているようだね。

 ってか、アベイルって分かると思うけどめっちゃモテていたんだよね、当時は特に。

 その分問題起こりまくって、アベイルも嫌になってそう言う事止めちゃったし。

 で、一応弟子の中でそう言う真似事していた俺に白羽の矢が立ったって訳」


「ありゃぁ今でもトラウマだな。

 うん、ナイフで刺し殺されそうになるわ男女問わず強姦されそうになるわ。

 男数人に血走った目で取り囲まれたのなんか、最低の思い出だな」


 口にしつつ機嫌が悪くなって行くのを自覚する。

 ジャックもミリーヌも無関係とは言え、これは許してほしいと思う。


「って事は、今は冒険者の女性を遠ざけているのもわざとなの?」


「ん? ああ、それとは別問題だって言うかほら、今は別に俺はそういう意味じゃモテちゃいねーだろ?

 単純に来ないだけさ」


 ミリーヌの質問に本心で答えれば、何故かジャックを見るミリーヌに目を閉じて首を横に振るジャック。

 おいおい、何が言いてーんだよ?


「その反応なんなんだよ?

 知ってるだろ、俺が全然モテいないって事。

 周りに集まるのも男ばっかりだし、女も既婚者ばっかりじゃねーか。

 例外はミリーヌくらいなもんだぜ。

 それもお前が何故か女の冒険者と揉めまくるからだろうが。

 まっ、美人って言うのも大変なもんだよな」


 言葉を重ねれば、何故か2人が顔を見合わせて首を横に振る。

 マジで感じ悪いんだが、なんだ、俺喧嘩売られてんのか?


「前から言ってるけど、アベイルは今もモテてるよ。

 と言うか、今だって出先で困っている冒険者を見たら放っておけない癖に。

 男女問わず慕われているのが証拠だって言っているだろ」


「おいおい、それと恋に発展するかはまた別だろうに。

 そもそも、俺がやっぱり奴隷を手に入れようと再度決意した流れもジャックは知ってるだろ?

 滅多な事は言わないでくれよ」


「何それ、それは知らないわよ」


 どこか噛み付くようなミリーヌ。

 何で不機嫌になってんだか、やっぱり女は分かんねー。


「まぁまぁ、刺されそうになったってアベイルは言ってただろ?

 それ以上詳しく聞くのは冒険者として失礼じゃね?

 皆いろんな事情がある訳だし」


 いらいらしていると間に入ってくるジャック。

 正直助かった。

 ったく、ミリーヌの奴はどうしたんだか、いつもはもう少し引き際を知っている奴のはずだが。


「……それじゃ、もう恋人とか作らないの?」


 ポツリと呟かれるミリーヌの言葉。

 いつもなら違う言葉を返したかも知れないが、つい本音で返してしまう。


「だから奴隷を買ったんだろうが!」


 訪れる沈黙。

 ジャックはあちゃーっと言いながら顔を手で覆っているし、ミリーヌは目を見開いて俺を見ている。

 って、しまった! これでは俺は幼女趣味ですって言ったようなもんじゃねーか。


「ご、誤解するなよ。

 俺は成熟した女がちゃんと好きだからな。

 だから、アリシアが成長するまで待つつもりだし、その間でちゃんと愛を育むつもりだ」


 言葉を重ねてみたものの、なんだか墓穴を掘っているような気もする。

 ジャックは未だ頭を抱えてやがるしな。

 くそっ、まさかこんな失態をするだなんて。


「どうして?」


 俺も頭を抱えるかと悩んでいると、呆然としたままミリーヌが聞いてきる。

 もー、こうなりゃやけだ。


「そりゃさんっざん女で痛い目見てきたからに決まってるだろうが。

 7~8年前くらいまではかなり噂になってたくらいだし。

 今でこそ残念な奴を見る顔で聞かれちゃいたが、当時は奴隷を手に入れると言ったら分かるわとか言ってもらってたほどだしな。

 そりゃいい女がいりゃ別だろうが、そうでもなきゃ考えはかわんねーよ」


「何それ、私がいい女じゃないって言いたいの?」


「何でそうなる?

 お前はいい女だし、好きな奴さえ居なければ口説いても良いくらいだぞ。

 まっ、今の俺にはアリシアが居るし、そもそも応援するっつってるだろうが。

 どうでも良い奴なんておりゃぁ応援しねーぞ?」


 俺の言葉を聞いていったん黙り、何かを決心するように口を開くミリーヌ。


「そっか、うん、それじゃぁ頑張るわ私」


「おう、お前も幸せになってくれ」


 言いつつ、何でこんな会話になったんだかと悩む。

 全然当初の予定と話の流れが変わっているんだが。

 まあいい、このまま続けてても良い事はないだろうし、キリもいい感じだし話を戻そう。


「それは良いとして話を戻すぞ。

 何故森の奥へ来るかと言えば、初心者達の仕事を奪わないようにと、単純に技術を奪われない為だ」


「そうそう、まぁミリーヌなら知られても良いかなってのはあったんだけど、後の判断はアベイルにお願いしようと思っていたんだよね。

 なんだかんだ実力はミリーヌが一番だし、採取する時だけ見られなければ平気だからね」


 俺達の言葉に1度ため息を吐き出し、それで切り替えたのか興味深そうに口を開くミリーヌ。


「つまり、討伐と同じでコツって物があるのね」


「そうだな、意外と偏見を持たれているが単純な難易度は採取の方が高いと思うぞ。

 命の危険と言う意味じゃ討伐の方が遥かに高いが、俺達クラスの依頼だと鮮度や状態が命だし、信頼問題はギルドにまで及ぶからな。

 そうなると当然審査も厳しくなる訳だ。

 報酬の金額が載っていなかったのもその辺が影響していて、今回のだって初心者向けだと1束銅貨15~20枚が相場だが、俺達だと1つで大体銀貨20~30枚って所か。

 つまり1束で金貨2~3枚ってこったな」


 俺の言葉に目を見開くミリーヌ。


「それって討伐依頼と比べても破格の報酬じゃない!」


「ははは、その代わり少しでも問題があると価値が10分の1なんて良い方だったりするんだよ。

 そう考えると、難易度も分かるでしょ?

 討伐だと命の危険を感じられたからと撤退しても罰則は基本ないし、期限内に達成さえすればきちんと報酬があるじゃない。

 でも、採取だと最悪の場合2度と依頼を受けさえて貰えないのもよくあるはなしだからね。

 だから、アベイルに早く復帰して欲しいのは、俺達同業者も同意見なんだよね。

 ぶっちゃけ才能あふれる奴らは大抵討伐ばっかりに特化していくし、寧ろその手の奴らは採取の本質を知らないからとてもじゃないけど仕事を引き継がせる為に仕込んでやろうとも思えないから、慢性的に人手不足なんだ」


「そうそう、ミリーヌもそう言う意味じゃ仕込もうとは思えないけど……、ただ、信用は出来る奴だからな。

 つーか、討伐系ばかり好んでやる奴を誘ったのは今回が初めてだぞ?

 いや、まぁお前から言ってきてくれたから誘ったのとは少し違うだろうが、そう言うのも皆無じゃないし。

 あー、それ以前に仕込もうと思った奴以外で、仕事姿を見せても良いかと思ったのはお前が初めてだな。

 ん? どうした、急にニヤニヤしだして」


「べ、別にどうでも良いでしょ!

 さ、急ぎましょう!」


「お、おい。

 本当にどうしたんだよ?」


「さぁ、どうしてだろうね。

 まぁ、俺達も急ごうよ」


「何だよジャック、急に意味深に笑いやがって。

 全く、何がどうなってんだか」


 そんなやり取りを終え、無事に依頼を達成する俺達。

 妙に熱心にジャックの仕事姿をミリーヌが見ていたのは意外だったが、なんか思うところがあったのかもしれない。

 うん、本当に慢性的に人手不足だからこっちに来てくれると助かるな。

 ああ、でも討伐系でもミリーヌクラスになると人手不足だからな、ギルドが許すかはまた別か。


 そんな事を考えつつ、久しぶりに酒場に顔を出す事にする。

 依頼を終えて打ち上げをしないなんて、そんなの冒険者の楽しみの大半を失うようなもんだからな。

 ただ、アリシアは心配だし1度家に帰ってからにする事にする。


 ベイルが居るなら茶化されたかもしれないから、そう言う意味でも人選は恵まれていたな。

 何でかやたらミリーヌが連れて来て欲しがったが、あいつ子供好きだったとは少し意外だった。

 まっ、まだ今のアリシアには早いのでそのうちなとだけ伝えておいたが。

 うん、同性のミリーヌが好意的ならかなり助かる。

 酒場に連れて行くのは、結構早めでも良いかもしれないな。

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