提案
「うん、かなり女将さんの味に近づいたじゃないか。
これ俺の大好物だ」
めきめきと腕を上げているアリシアの料理を、素直に賞賛する。
いや、これはマジで毎回の食事が楽しみでならない。
俺のそんな言葉を受けて、照れた様子のアリシア。
うん、暗い雰囲気もだいぶ薄れてきて、かなりいい感じなのではと自分で思う。
いやはや、それにしても自宅を持っても俺くらい酒好きならそんなに家に帰らないぞとか聞いていたけど、そんな事はなかったな。
アリシアを放っておけないのもあるだろうが、それを抜きにしても普通にこの食事が楽しみで酒場に行く時でも必ず家に帰っているからな。
ベイルやジャック達には、呑んでからでいいじゃねーかとか言われるけど、アリシアが作って待っていてくれるのにそんな真似出来る訳もない。
何より、アリシアと一緒にいると癒されるし真剣に俺の話を聞いてくれるのが嬉しいんだ。
勿論酒場で馬鹿騒ぎするのも大好きだが、好きの方向性が違うし、どちらも俺にとって大切なのには間違いないだろう。
どちらが大事かなんて比べられる訳もなく、どちらも俺に必要不可欠と言える。
とくれば、同じく必要不可欠な仕事に復帰するのも早い方が言い訳で。
予定より少し早いが明日は1人で簡単な依頼を受ける事にする。
幸い勘はほとんど鈍っていなかったし、リハビリはもう十分だろう。
俺個人が依頼を受けるとなれば、同時に必ず受けなきゃいけない依頼をギルマスの爺さんから言い渡されるだろうな。
さて、どんな依頼が言い渡されるだろうか。
予想では、たぶん数ランク下の討伐系の依頼だと思う。
いくら採取系の依頼がメインだとは言え、最低限の実力はなきゃいけないからな。
割りと引退を決意するのも、時折実力を確認する為の討伐系の依頼で苦戦したからって言うのがもっとも多いからな。
衰えをもっとも自覚しやすいし、何より改めて命の危険と言うものを身近に感じられるし。
そう考えると、討伐系をメインでやっている奴らの方が早く引退するのもまた当たり前の話なんだろうな。
ランクを落とせばまだまだ活動出来るとは言え、無理してやる家業じゃねーし。
高ランク冒険者ならば、その後ギルドに好条件で就職だって出来る。
まっ、俺のランク程度じゃ良いとこ後進を育てる為の職員か、もしくは受付ってところだろうか。
つっても、競争率も高ければそもそも俺はなる気はねーけど。
まだ現役で頑張る事を決意したとは言え、続けるにも限度はあるからなー。
いや、幸い借金はねーんだ。
ランクを落とせばたぶん死ぬまでこの家業は出来るだろうし、この仕事以外実際知っている仕事もないとなれば、無理して転職する事もないか。
あー、でも家業を続けるとアリシアと共にいる時間が短くなっちまうな。
いっそ、アリシアも俺が仕込んで一緒に働くか?
それはそれで色々問題はあるのだが、良い方に転べばかなり魅力的な案でもあるし。
別に失敗したからと言って何がある訳でもない。
その上全てが無駄にもならないのは間違いないしな。
元々最低限の護身は仕込もうと思っていたんだ。
アリシアの意思を最優先にするのは当然だが、それ次第で臨機応変に対応していこう。
さて、色々考えたが、とにかく俺が復帰しなきゃ話にならねー。
ジャックの心遣いのお陰で蓄えは減っちゃいないが、増えてもねーし。
やっぱりいざと言う時にのお金は欲しいんだよな。
こう言う考え方が冒険者らしからないのは知っているが、もし怪我をしたらとか色々考えるとお金はあったに越した事はない。
そうそう、学園とかもあったりするんだし、アリシアが望んだ時足を引っ張る真似だけはしたくないからな。
これは俺の意地の問題だし、やっぱ格好付けたいし見栄だって張りたい。
その程度の甲斐性くらい持ちたいってのもある。
そんな感じで食事中珍しく話さず考え込んでしまい、気付いたらいつの間にかご飯を食べ終えたアリシアがニコニコと楽しそうに俺を見つめていた。
そんなに俺面白い行動しちまったのかな?
「すまねぇアリシア、つい考え込んじまった」
「いえ、私ご主人様見ているの好きなので大丈夫です」
嬉しそうにそんな事を口にしてくれるアリシア。
まぁ、俺だけをじろじろ見る分には別に良いか。
気になる時に注意すりゃ、それで済む話だし。
「そっか、ならよかった。
でだ、色々考えたんだけど、アリシア、お前俺と一緒に仕事するか?」
「お仕事ですか?」
小首を傾げて聞いてくるアリシア。
可愛い。
じゃなくて! しっかりしろ俺。
「そうそう、元々護身の為にある程度教えるつもりだったんだが。
お前さえよければ一緒に仕事をするのはありかと思ったんだ。
と言うのも、ハーフエルフならば魔法の適正が高い可能性があるし、それは凄く頼りになるからな。
勿論冒険者って言うのも向き不向きもありゃぁ、そもそも血生臭いものだからそんなに勧められたもんじゃねーんだけどな。
何より、俺が出来ればお前と一緒に居たいって思うんだ。
だから、完全に俺の我が儘だから嫌なら断ってくれ」
「嫌な訳がないです! 絶対やります!
私、ご主人様と仕事します!」
大げさなリアクションを取りながら、元気よく言ってくれるアリシア。
その姿にとても嬉しく思いつつ、自分にも言い聞かせる為言葉を返す。
「ありがとう、お前の気持ちはとっても嬉しいぞ。
ただ、先に言っておくが冒険者の適正が合っても俺とは合わない可能性もある。
と言うのも、お互いに甘くなる関係は絶対上手く行かないからだ。
無論その判断は難しいだろうが、場合によってはこの話はなかった事にするかもしれないから覚えておいてくれ。
俺から言い出した事なのにすまないな」
その言葉を聞いて、1度は口を開いたもののすぐに閉じて考え出すアリシア。
うん、良い子だ。
感情が先に立つのは誰にでもある事だが、訓練する前からそれをコントロールする術を見に付けているとはな。
こりゃぁ俺なんかより遥かに有望株に違いない。
性格的にも臆病で慎重なのは、寧ろかなりプラスだしな。
勿論運動神経が高いとか魔力が強いとかも大事だが、俺はそんなものより性格などの方を重視する。
単純な話、どんな強い力があろうと扱う者次第だからって事だ。
あっと言う間にランクを駆け上がっていった前途有望な冒険者が、だからこそ1度のミスで命を失うなんてよくある話しだし。
「分かりました、お心遣いありがとうございます。
ご主人様とずっと一緒に入れるよう精一杯頑張ります」
俺が考えを巡らせている内にアリシアの決意は固まったのだろう、真剣な表情と声色でそう伝えてくる。
「そうか、まぁあんまり力みすぎるなよ。
駄目だったとしても、別に仕事が一緒に出来ないってだけでずっと一緒にいるって事には違いないんだ。
正直無理されて倒れられたりした方が、心配するし迷惑だってすると思うぞ」
釘を刺す為にそう言えば、神妙に頷くアリシア。
まっ、そのくらい本人も分かっちゃいるだろうけど、頭で分かっているのと心から知っているかはまた別だからな。
意外と頭でなんとなく理解しているけど、実感をした事がないって言う方がまずかったりするし。
今回は俺がちゃんと見てあげれば良いだけの話しだから、気をつけるとしよう。
「はい、全身全霊で頑張ります!」
うん、元気な返事だが、たぶん本当の意味は分かっちゃいないな。
これは寧ろ1度失敗させてあげた方が良いだろう。
経験しなきゃ分からない事だって多いからな。
自然と苦笑いが浮かぶのを自覚しつつ、無駄だと思いながらも本当に肩の力を抜くんだぞとだけ言っておく。
やっぱり本人は気付いてないようで、大丈夫ですと言う元気な返事がまた不安を誘うな。
……絶対に目を離しちゃ駄目な気がするし、幸い今日は酒場に必ず行かなければならない予定もない。
なら、今日はとりあえずアリシアと色々話す事にしよう。
失敗する経験をさせるのを決めたとは言え、見守るのと傍観するのは別だと俺は思うからな。
以前俺が教えてた冒険者達は過保護すぎると口を揃えるだろうが、相手によって対応を変えるのは当たり前の話しだし。
何より前提にてめーの勝手で冒険者になった奴と、俺が頼んで冒険者になってもら奴との対応は変わって当然だろう。
うん、ジャックはともかくベイルが色々言って来そうだが、迎撃する準備もオッケーっと。
さて、怪我とかは絶対させたくないから、刃物とか植物によってはうかつに触ると痛い目に見る事とかを事前に教えておくかね。
他にも教える事は山のようにあるし。
ああ、なんだか久しぶりの感覚に気分が高揚しているな。
何より、多分だけど失敗するのは頑張りすぎて倒れるとか、その方面だろうし。
やりすぎて本当に危険にならないようにだけは、本当に気をつけるとしよう。
特に、ギルマスの爺さんから受けるだろう依頼が終わるまでは、下手に倒れられたらフォロー出来ない部分もあるだろうしな。
それさえとりあえず終われば、また1~2日くらい付きっ切りで看病するくらいは出来るだろうし。
食事を終え、意気揚々と片づけを始めるアリシアの姿を見ながらそうやって色々と考えを巡らせておく。
冒険者たるもの事前にどれだけ準備して、そして予測を立てておけるかがカギだからな。
杞憂になる事の方が圧倒的に多いとは言え、それで油断して命を落とす奴らがベテランにすら居るのを知っていれば、少なくとも俺はそこで手を抜こうなどとは思えない。
代わりになー、ずっと黙って感じ悪いだの、すぐに答え出せないの? だの緊急時でもないのに急かす奴も居るんだよな。
勿論すぐに結論を出す大切さも身を持って知っているし、時と場合を瞬時に把握する能力の大切さも知っている。
その上で、ここは慎重に答えを出そうと判断してそういうんだから始末に終えない。
説明しても中々言う事聞かない奴ばっかりだし。
「ご主人様! 洗い終わりました!」
「おお、ありがとうアリシア」
元気よく報告してくれるアリシアにそう伝える。
うん、考えすぎていたようだ。
いくら慎重にとは言えやりすぎたな、俺もまだまだだ、これを反省して次に活かすとしよう。
内心でそう思いつつ、早速仕事の心得を聞いておくかたずねてみる。
すると、元気よく頷くアリシア。
さて、20年間で培った知識や持論を教えてやるとしますかね。




