表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

家事のお勉強

「それじゃぁ宜しく、女将さん」


「あいよ、任せとくれよ。

 それにしても可愛い子だね、宜しくね」


「よ、宜しくお願いします」


 どちらにも事前に話しておいたおかげか、比較的すんなりと初顔合わせが出来た。

 うん、何事も準備が大切ってこったね。

 アリシアが俺の後ろにまだ隠れているが、なんとか顔を出して女将さんの様子をうかがっているし、女将さんも事情を話していたので優しい顔で見てくれる。


 とりあえず、しばらくは俺が一緒じゃないと厳しいだろうか。

 慣れてきたら俺が仕事に行っている間アリシアの事を女将さんにお願いしようと思っているのだが、果てさて上手く行けばいいが。


 思惑を胸に秘めつつも、キュッと俺のズボンを握るアリシアを見たら、それよりも徐々に人に慣れてくれると良いなと思う。

 ここに連れてくる間も、子供らしい好奇心はなりを潜め俺の影にずっと隠れていたからな。

 ビクビクと周りに怯え、あんまりの姿に途中から有無を言わさず抱っこしてしまったのだが、いずれのびのびと歩いてくれるようになれば良いのだが。


 ともかく、先ずはここからだな。

 それに、何気に俺も楽しみだ。

 旦那にも色々教えて貰いたかったんだが、あの強面でじゃぁまだ早すぎるだろう。

 逆に言うと、ここで段階を踏んで人に慣れると言う事が出来るからありがたいが。


 2人とも人がいいのは間違いないし、後はいずれは冒険者仲間達の所にも連れて行ってと、少し先走りすぎだな。

 目の前の事に集中するとしよう。


「さっ、早速お料理からやろうかね。

 こっちだよ、ついておいで」


「おう、行くぞアリシア」


「は、はい!」


 腰が引けているアリシアと共に女将さんに付いて行く。

 後は主に女将さん任せになるだろうが、俺も可能な限りサポートしないとな。





「うん、だいぶ上達したし筋も悪くない。

 このまま頑張ればすぐにアベイルの胃袋を掴めるさ。

 頑張ろうね、アリシアちゃん」


「は、はい!

 宜しくお願いします」


 なんとか俺を抜きにしても会話の成り立つようになった2人。

 非常に感慨深いものである。

 まだ腰が引けているものの、アリシアの成長に感動した。


 いやはや、年を取ると寧ろ感受性は上がるのだろうか?

 思わず涙ぐみそうになっちまったぜ。


「それじゃぁ明日も宜しく頼む」


「ああ、任せな。

 アベイルだけならゴメンだが、こんな可愛い子となら寧ろ宿屋に戻ってきて欲しいくらいだよ」


 女将さんの軽口に笑う。

 と、アリシアが口を尖らせている事に気が付く。

 そんな表情もするのだと驚きつつ、どうしたんだと聞けば俺と女将さんを交互に見て、意を決するように口を開いた。


「ご主人様は、とても素敵な人なんですよ!」


 ああ、俺だけならゴメンだと言う言葉に反応したようだな。

 寧ろ親しいからこその言葉な訳だが、今日初めてあったアリシアには分からなかったのかもしれない。


「ああ、アリシアちゃんは本当にアベイルの事が好きなんだね。

 私がアベイルに軽口を叩くと毎回不満そうだったし、今まで言うの我慢していたんだね。

 ふふふ、仲が良いからこそこうやって軽口を叩いているんだよ。

 それに、こうやって教えるのも仲が良ければってもんさ。

 まだ難しいかもしれないけど、私とアベイルの関係はこう言うもんだって思ってもらえるといいねぇ」


 女将さんの言葉に瞳を揺らすアリシア。

 何てこったい、俺は間近にいたのに気付かなかったと言うのに、女将さんは気付いていたのか。

 その事実に情けない思いをしながらも、俺も色々成長しなければと気を引き締める。


「ふふふ、すぐには納得行かなくとも仕方ないわ。

 ゆっくり仲良くなって行きましょうね」


 そう締めくくる女将さんに、最終的に小さく頷くアリシア。

 俺が思うより距離は詰めれていなかったのかもしれない。


「まぁ、女将さんとは長いからな。

 それに、俺の方が若造だし色々あるんだよ、アリシア。

 少しずつ慣れていけば良いさ」


 そう言うと、迷ったような表情を浮かべた後、何故か俺に抱きついてくるアリシア。

 不思議に思っているいたが、女将さんの方を見れば仕方のない奴と言う風に俺を見ていたので、なんかやらかしたかズレてたらしい。

 いや、これでも頑張ったつもりだったんだがな。


「さ、それじゃぁまた明日だね。

 2人とも気を付けて帰るんだよ」


「ああ、ありがとう女将さん。

 さっ、帰ろうアリシア」


 俺の足に抱きついていたアリシアを胸に抱き、そう挨拶をしてその場を後にする。

 しっかし、女の心の機微とは難しいものだな。

 多分後で俺は女将さんに叱られるのだろうなと思いつつ、でも、色々教えて貰える事に感謝しながら足を早めた。


 うん、何だかんだ充実した時間が過ごせて良かったな。

 それにしても、あの1手間をするだけであんなに美味しくなったり、綺麗になったりするだなんて、家事も奥深いもんだ。


「ご主人様、私の1番はご主人様です」


 ふと、道中でアリシアが真剣な表情で俺に言ってくる。

 ああ、もしかして女将さんと仲が良い事に嫉妬していたとかか?

 やっとあの女将さんの視線の意味が理解出来た気がして、やっぱり俺は鈍感なんだなぁと反省しなおす。


「ああ、ありがとう。

 俺の1番も当然アリシアだから、相思相愛だな」


 そう返せば目を見開き、キョロキョロと挙動不審気味に視線を彷徨わせた後、俺の胸に顔を押し付ける。


「う、嬉しいです」


 必死な声色に自然に笑みが浮かんでくる。

 いや、もしかすると色々言いたい事はあったのかもしれない。

 何か言いたげに口を上下させていたし……、まぁでも時間とかに関してならこれからな話だ。

 それに、アリシアを今1番に思っている事には間違いない。


 多分その思いはアリシアにとって望んだものではないだろう。

 いや、俺にとってすらまだ俺の望む思いではない。

 そりゃ出会った瞬間に相手が全てにおいて1番になるような、1目惚れと言う事もあるのは知っている。

 ただ、それをするには俺はいささか年を取りすぎているように思えるし、俺にとってアリシアはまだ若すぎた。


 アリシアも俺に対して1目惚れと言う事はないだろう。

 それこそ状況や環境に流されている面の方が大きいに違いない。

 それは俺の望むところではないし、何だかんだ育む為の時間と言うものも大事だよな。


 本当に俺達の関係はまだまだ始まったばかりなんだ。

 急がず焦らずにやっていければなと、少なくとも今はそう思った。





「おおっ、アリシア、本当にお前料理上手くなったな」


 女将さんの所に通いだして早10日。

 勿論まだまだ習う事ばかりなのだろうが、全てにおいてアリシアの手際が良くなったように感じる。

 その証拠に、今日ついに1人で料理を作ってくれたのだが、2人で作る時ともう遜色ないほど美味い。


「ありがとうございます」


 俺の横で一緒に食事を取っていたアリシアが、恥ずかしそうにそう口にする。

 うん、やはり食事は共にとってこそだよな。

 実は女将さんに、外では奴隷と共に食事を取っていると嫌な顔をされたりする事がままあるよと忠告されているのだが、それは教えるのはまだまだ先にしようと思う。

 まぁ、俺の冒険者仲間とかに紹介する直前くらいで良いか。


 そう考えつつ改めて料理へと手を伸ばす。

 味もまだ遠いものの女将さんの作る物に近づいているように思えるし、うん、流石アリシアだな。

 この分なら俺が料理を作ったり、他の家事をする事は減りそうである。

 勿論、俺の料理を食って笑顔になってくれるアリシアを見たいから、完全に作らないって事にはならないだろう。

 ただ、命懸けの家業をしていると、家事なんてやる余裕は間違いなくないだろうから。


 そう言う意味で、どんなに稼ぐようになっても所帯を持ったり奴隷を買ったりしなければ、冒険者は基本宿屋住まいなのは当然と言うものだ。

 商売道具の手入れだって、相応の時間を取られるしな。

 その上家事までする時間を取ろうとするなら、週の半分は休みに当てなければならないだろう。


 そして、週の半分も休みにする冒険者等居ない。

 勿論、きっちり休みを取る事も大事なのだが、信用問題にすらなるからな。

 いつも休んでばかりと言う印象が付いてしまうと、割りの良い仕事は絶対に振ってもらえなく。

 そればかりか、それとなく大変な仕事ばかりを押し付けられる事になるだろう。


 冒険者ギルドなんざ、口減らしや厄介者払いの部分もかなり大きいからな。

 色んな意味で乗り越えれる者以外生き残れない、かなりシビアな職業でもある。

 年間かなりの人数が新たに冒険者になり、引退者の方が少ないのに全く総数は増えない所からも知れると言うものだろう。


 無謀者やただただ楽観視する奴は当然あっと言う間に淘汰されるし、実力者でも無理をしていれば先が見える。

 慎重かつ臆病とも言える判断が出来るものの方が、間違いなく生き残れるだろう。

 ただ、それだといつまで経ってもランクを上げる事は出来ない。

 相応のリスクを背負う覚悟と、それを乗り越えられる能力がなければ未来は暗いと言える。


 ある程度ランクが上がっていれば昇格を勧められる事もなくなるのだが、低いランクで年数が過ぎてしまえば、最終的に昇格するか辞めるかの強制的な判断を求められるだろう。

 新人が出来る仕事は、人手が寧ろ余っているのが現状だからな。





 アリシアの料理に舌鼓を打ち、食器を一生懸命運び洗っているアリシアの背中を見つつぼんやりと思考を続ける。


 アリシアが不安だし、俺はまだまだ家業を休まねばならないだろう。

 ランクDまで上り詰めているお陰で、多分早く再開しろとは言われないだろうが。

 間違いなく相応の実力を示せと言う依頼が来るだろうなと確信している。

 達成しなければならない期間も比較的短めに設定されるだろうか。


 この辺り冒険者の辛いところだな。

 無論まだカンが鈍ると言うほどのブランクではないが、ブランクはブランクに違いない。

 出来れば数回程は感覚を取り戻す為に依頼をやって、万全な状態で臨みたいのが本音である。


 ってこたぁ、数回は無償で仲間の仕事を手伝うところからかな。

 その後多分1~2回は他の依頼をやる余裕はあるだろう。

 そこで最終調整をやって、休み明けの指名依頼をこなそうと決める。


 幸いアリシアの事は順調に進んでいると思うし。

 いい加減働かないと貯金は減る一方だからな。

 かなり軽くなった貯金用の革袋の事を思い出しつつ、この先の予定を少しずつでに立てるのを決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ