4 メイド・タイプ
「メイド・タイプというのは、その名の通り、メイドそれぞれの得意技ってやつですわ。まあ、見て学ぶのが一番良いですわね。じゃあ、まずあずきを見てくださいませ」
まりあさんがカウンターにつき、ミネストローネ・スープをのせたトレイを危なっかしく持っているあずきさんを指差した。
「あずきさん、大丈夫なんですかあれ……」
「そこが狙いなんですのよ」
「え?」
あずきさんがお客さんに近づく。
「お、お待たせしましたぁ! こちら、当店おすすめのミネストろ……うわわぁっ」
がくんとよろける。お客さんが「あ、あずきちゃん!」と声を上げた瞬間に……
がしゃん。
派手にこけた。
そこら中にスープをぶちまけ、またそれが赤なわけだから、なんだか殺人事件みたいだ。
「あずきさん、こけましたけど」
「しっ! ここからが見ものなのです!」
僕が無気力な声で言うと、まりあさんは真剣な顔をして、僕を制した。
と、あずきさんがムクリ起き上がる。
「ふっふっふえぇ〜ん! 痛いですぅ〜!」
そして、スープまみれのまま泣き出した。あ、なんかいい図だ。
まりあさんが僕に向かって力強く、
「いいこと、つばさ。あれはあずきのメイド・タイプである『ロリ萌え落とし』ですわ。あれにあてられれば、ロリ好きのご主人様はイチコロですのよ!」
ご主人様に『イチコロ』なんて言葉使っていいんですか……。まあいいけど。
「彼女は当店で二番目に人気が高いのですわ。それでは、次にひかりの方を見てくださいませ」
まりあさんは次に、楽しそうに接客しているひかりさんの方を指差した。……あれ? ひかりさん、ポケットなんかに手を入れて、どうしたんだろう。
「ふふ、まぁ見ていなさい」
まりあさんが不敵な笑みを見せる。……期待していいんだろうか。
「ひかりちゃん、シャンプー変えた? 良い香りがするなぁ」
「か、変えてませんよ、別に! 気のせいです!」
「ふぅん、じゃあ、そのポケットの中は何? あ、その中から良い香りがするのかぁ」
ひかりさんの肩がビクッとなる。ポケットの中には一体何が入ってるんだろう。
「あ、の……あ、別にプレゼントなわけじゃないんです! でも、なんかポケットの中に偶然入っていたからあげます! ほんと、偶然なんですからね!」
彼女はそのまま真っ赤になって俯いてしまった。あ、これはもしや……。
「もう気づいたようですわね、つばさ。そう、あれはひかりのメイド・タイプである『ツンデレ殺し』なのですわ。人気は最も低いですが、根強いファンが多いんですの」
「へぇ……。ところで、あのポケットの中はなんだったんですか?」
「あれはひかりが常備している香水ですわ。100円ショップで買えますわよ」
以外に腹黒いんだなぁ。お客さんに100円ショップで買ったものをプレゼントするなんて……。あ、いいのか。だって偶然なんだもんね。
「さ、つばさ。今度はありさの方を見てくださいませ」
「あ、はい」
まりあさんはありささんを指差す。彼女もまた楽しそうに接客していた。
と、お客さんがジャケットに刺していたペンを床に落とした。カン、と枯渇した音が辺りに響く。すると、ありささんは「あら」と言って床にしゃがみこんだ。
「落としましたよ、ご主人様。はい」
おぉっ、こりゃすごいや。
ありささんは胸の谷間を作って強調しつつ、自慢の眼鏡をちょっと下げて、完璧な上目遣いを作り出していた。ちなみに彼女は肩までくらいの髪を三つ編みにしているので、真面目な子が無意識にやっているような感じになって、実にセクシーである。
「素晴らしいでしょう、彼女。あのメイド・タイプは『パーフェクト上目遣い攻め』と言うのですわ」
「うわぁ、お客さんメロメロじゃないですか。すごい……」
一通り見終わって、僕は正直とても吃驚していた。ここまですごいのか、という感じだ。
「ちなみにありさはこの店で一番人気がありますのよ」
「すごいですね。結構影薄いと思ってたのに」
「まあっ、影薄くありませんわよ! つばさ、見かけで人を判断するのはいけない事ですわ」
「すみません」
まりあさんに注意された。
ちょっと不服な気もしたが、それはこの際放っておこう。
「……僕もあんなふうになりたいなー……なんて」
死んでも思わないけどさっ!
メイド・タイプは私が独自に考えたものですので、実際には存在しません!




