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5 この店で働くという事

「さあ、つばさはどのタイプがいいんですの? まりあに言ってみなさい」

「えっ? えーと……まあ……」


 急に言われても困る。大体、まだここで働くって決めたわけじゃないし。働く気無いけどっ!

「僕、必ずここで働かなきゃいけないんですか?」

「私!」

「あ、えーと、ワタシはここで働かなきゃいけないんですか?」

「当ったり前ですわ! あなたはまず女としての自覚が無さすぎですのよ! それじゃあこの先、恋が出来なくなりますわ!」

 恋かぁ……。幼稚園のとき以来してないなぁ。

 とかしみじみ思いながら、僕は下を向いて、自分の体を眺めてみる。

 もう高二だというのに、155センチしかない身長、つるぺたな胸……色気もへったくれも無い体つきをしていることは、自負している。

 おまけに部活で走るときに邪魔だから、という理由で、中学生まで肩の辺りまで伸びていた髪を、ばっちり首の根が見えるまでに切ってしまったものだから、女にさえ見えない。髪の色は生まれつき少し茶色がかっているのだが、それだけでは、やっぱりダメなのだ。


「あなたは、女としての技を磨けば、立派なレディになれましてよ。それは私が保障しますわ。ただ、それにはあなたの決断が必要なんですの」

「……」

「どうです? つばさ、ここで私たちと共に女を磨いていきますの? いきませんの?」

 まりあさんが拗ねた子供を慰めるような口調で問いかけてくる。子ども扱いするな、コノヤロウ。

「だって、僕は男女おとこおんななんですよ? こんなのがレディになれるなんて、到底思えません」

 そうだ。

 僕は恋なんてできなくて良い。一生独りで生きていったって良い。男な女は男にも女にも愛されないんだ……。

 僕が俯くと、いきなりまりあさんの平手が頬に飛んできた。

「こんなの、とはなんですのっ? あなたもわたしもこの店で働く人間全てただの人間ですのよっ! 人間を馬鹿にしてはいけませんわっ!」

 まりあさんが怒声をあげる。店内がシンと静まり返った。僕は、体中が硬くなるのを感じた。

 やがて、まりあさんがハッと思いついたように肩を震わせた。

「……ご、ごめんなさいませ、ご主人様方! 私たちの事は気にしないで他のメイドたちとの戯れをお楽しみくださいませ、ですわ!」

 そして、無理に作り笑顔を顔に貼り付け、手をすり合わせる。お客さんたちは不思議そうな目で、また会話に染まっていった。


「まりあ……さん」

「私が悪いんですわ。ごめんなさいませね、つばさ。私、変なところに敏感なのですわ……」

 まりあさんが苦笑する。その笑顔があまりにも寂しそうだった。

「僕……働きます。まりあさんに何があったか知らないけど、それでも、なんかあなたが本気ってことは伝わってきましたし。だから……僕を雇ってください」

 まりあさんは目を丸くする。

「つ、つばさ、強制ではないのですわ。あなたが嫌なら」

「いいんです! 僕が働きたいからいいんです!」

 まりあさんの言葉を遮って、僕は力いっぱいまりあさんを睨んでやった。

「今、僕を叩いて本気にさせてしまったこと、後悔しないでくださいよね! 僕、一人前になって皆さんの人気を掻っ攫いますから!」

 吐き捨てるように言ってやると、まりあさんは形の良い唇の端をニイッと上げ、

「受けてたちますわよ、つばさ! あなたを世の中に出しても恥ずかしくない女に絶対に育てて見せます! 私に精々迷惑をかけないようにしてほしいですわね!」


 まりあさんが背筋をピンと伸ばすのを見て、僕は笑った。










 あれ、なんか働くことになっちゃった……?







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