3 営業開始なのですわ!
ちょっと待て。
「なんで僕がメイド服着なきゃならないんですか」
僕はあの後なんだか部室のような部屋に連れて行かれ、そこで着替えさせられた。
メイド服に。
「似合っていますわよ、つばさ!」
まりあさんが手を打って喜ぶ。僕は着せ替え人形か。
……でも、まあ、かわいいっちゃあかわいいかもしれない。フリルがたくさんでなんだかむず痒いけど。
「わあ、可愛いよぅ、可愛いよぅ! つばさちゃん、これならちゃんとここで働く素質あるよぅ!」
あずきさんが子供みたいな笑顔で言う。いや、多分あずきさんのほうが可愛いんじゃないかと……。
ていうか、なんだろう。『ここで働く素質』って……。! もしや……。
「このメイド喫茶で働けっていうんですか?」
「メイド喫茶か……。まぁ表向きにはそうだがな」
ひかりさんが意味深に腕を組む。それにちょちょっとありささんが付け足した。
「ここはメイド喫茶って言うよりも、『淑女育成教室』みたいなものなんですよ。メイドをやりながら、女としての態度と行動も磨いていくのです。ですから、先ほどあずきちゃんがそうしていたように、『なっていない女の子』を探し出してここで働かせ、世に出しても恥ずかしくない女性を育てるんです」
ありささんが一気にばーっと喋ったため、僕の頭の中では大渋滞が起こっていた。情報が混雑し、複雑に絡み合っている。
「つばさ、大丈夫ですの? しっかりなさい」
まりあさんが心配した様子で見つめてくる。僕はバッと持ち直し、頭の中を早々と整理した。
「だいじょぶ……ですけど、ていうことは、僕は『なっていない女の子』で、ここで働きながら女を磨いていかなくてはいけないんですか?」
「簡単に言うとそういうことになるな。……まりあ、そろそろ開店の時間だ」
「まあっ! 本当ですわ。では、つばさにも店の様子を見ていただきましょう。さ、こっちですわよ」
「は、はぁ……」
そして、店。
店って言っても、なんかテレビでよく見るようなメイド喫茶とは全然違う。落ち着いた雰囲気のアジア風の部屋で、メイド喫茶という感じは全くしないのだ。
「うわぁ、まりあ様、もういっぱい並んでいますよぅ! 早く開けなきゃぁ」
あずきさんがワタワタと慌てている。たった今気づいたが、この人たちのメイド服は色分けされている。
まりあさんはレモンイエロー、あずきさんは空色、ひかりさんは藍色、そしてありささんは黄緑色である。あ、僕はオレンジみたいだ。
この色が何を表しているのか分からないが、兎にも角にも、まあ、色分けしてあるのには違いない。
「じゃあ、開店しますわよ、皆さん。配置に着いてくださいませ」
まりあさんが戸に手をかけたのと同時に、他のメイドさんたちがぞろぞろと移動する。僕はどこに行ったらいいのか分からなかったので、とりあえず近くにいたひかりさんについていった。
やがてまりあさんが戸を開け放った。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
おおぉー!
僕は本物のメイドさんの決め台詞を聞いて感動していた。そして、本物のオタクさんたちを見て、さらに感動した。
チラリと横を見る。あずきさんが接客をしていた。
「あずきちゃん、今日も可愛いねー」
「そんなことないですよぅ! ご主人様だって、今日は一段とかっこよいですぅっ」
顔を赤らめているあずきさんはとても可愛い。ほのぼのと見つめていると、後ろから手を引かれた。
「ぅわっ」
「ね、きみ新人なの? 名前はなんていうの?」
振り向くと、ビン底眼鏡をかけた出っ歯の典型的なオタクっぽい人が僕の腕を握っていた。ちょっとなんていうか、困る。
「あ、あの……えぇっと」
僕がどう対応したらよいか迷っていると、ひかりさんがそのお客さんの肩を握り、
「そうなんです、この子、新人のつばさちゃんて言うんですけど、今日入ったばかりで……。だから、気にしないでくださいねっ」
とさっきとは全く違う表情でニッコニッコ笑いながら僕を店の奥へと追いやった。
そして、そのまままた戻っていってしまった。
「ちょっ、ひかりさん!」
「つばさ」
ひかりさんを呼び止めようと思ったら、後ろからまりあさんに話しかけられた。
「つばさ、これから『メイド・タイプ』について説明しますわ。さ、来なさい」
彼女はスカートの裾を翻し、店へと戻っていく。僕も渋々ついていった。




