5-8 真天先輩と花火大会へ③
そんなこんなで夕食も済ませて、あとは花火の打ち上げ開始時間を待つだけだ。
「パパ、花火まだー?」
「もうすぐだよ。あと少し待とうな」
「ママ、花火ってどれくらいやるの?」
「一時間だって! すごいわよね」
広場に移動すると、そんな声が聞こえてくる。カップルも多いけど親子連れも同じくらい多いな。
「浴衣着ているお子さん、可愛いですね」
真天先輩はあちこちの子供に目を向けている。普通の服の子が多いけど、浴衣の子もそこそこいて微笑ましい。
「わたしも早く、あんな可愛い子供が欲しいな♪」
むにゅっと胸を押し付けてくる。和装ブラで押さえつけているそうだけど、それでもやはり相当のボリュームで……。
「ちょ、ちょっと真天先輩」
「ひそかな夢なんです。親子で打ち上げ花火を見上げるっていうの」
「気が早すぎますって」
「同じこと思ってるカップル、結構いると思うんですよね。それでこのあと計画を実行に移したり」
「何ですか計画って!」
「これが男の打ち上げ花火だーとか言っちゃうんですよ! きゃっ♡」
ますますテンションが加熱しているみたいだ。夏の魔力恐るべし。
その時だった。泣きそうな顔で歩いている男の子が目の前を横切ってきた。
「おとうさん……」
もしかしなくても、迷子か? 俺はその子に近寄り、膝を屈めて話しかけた。
「君、お父さんとはぐれちゃったのか?」
「ふええええええ」
思いきり泣き出してしまった。俺がトドメを刺したみたいじゃないか。
真天先輩も隣に来て、男の子を慰めようとする。
「大丈夫です! あなたのお父さんはわたしたちが見つけてあげますから」
「ぐすっ……ホントに?」
「本当ですとも。というわけで唯人くん、助けてあげましょう!」
「でもこういうのは運営の人に言ったほうがいいのかな」
「その運営本部がどこにあるのかわからないですし……」
「ああ、だったら直接俺たちが探してあげたほうが早いですかね」
とりあえずこの子が見つかりやすいように、目立ってみよう。
「肩車してあげるよ。ほら」
俺はさらに屈んで、彼を肩に乗せてあげた。これで少し離れていても見えるはずだ。
「あはっ、唯人くん素敵!」
「肩車しただけですって。お父さんの名前は?」
「ムラマサ」
「カッコいい名前だな! よし、お父さんじゃなくてムラマサって大声を出すんだ」
「ムラマサー!」
「ムラマサさーん! お子さんが迷子ですよー!」
真天先輩も声を張ってくれる。すると周りの人たちも何事かと目を向けて、同じように叫んでくれる。
「ムラマサー!」
「ムラマサー!」
怒濤のムラマサコールである。
そこへ、慌てた様子で駆けてくるおじさんの姿が。
「おおお、マサムネ!」
「おとうさん! わーん」
「ムラマサさんですか?」
「そうです! いやあすいません」
男の子は俺の肩から下りて、その人に抱き着いた。
ムラマサにマサムネか。揃ってカッコいい名前の親子だなぁ。
妖刀の雰囲気など微塵も感じさせないお父さんは、ペコペコと頭を下げてくる。
「トイレに行くから待っててくれって言ったんですが……ずいぶん込んでて、それで遅くなっちゃって」
「ぜんぜんもどってこないんだもん!」
それでマサムネくんは次第に不安になっちゃって、待ちきれなくてお父さんを探し始めたってところか。小さい子供っていうのはそういうものなんだろう。
「こんなことなら、この子も一緒に連れていけばよかった。うかつでした」
「まあまあ、過ぎたことはしょうがないですよ」
「よかったですね、マサムネくん!」
真天先輩も我が事のように喜んでいた。
「本当にありがとうございました。それじゃあこれで……マサムネ、お兄さんとお姉さんにお礼を言いなさい」
「おにいさん、おねえさん、ありがとう!」
「どういたしまして。もうはぐれるんじゃないぞ」
「マサムネくん、ばいばい!」
親子はしっかり手を繋ぎながら、笑顔でこの場を離れていった。
「唯人くん、よくあんな機転が利きましたね? お父さんの名前を呼ばせるなんて」
「普通にお父さんじゃ目立たないと思ったので……あんな特徴的な名前とは思いませんでしたけど」
「ああ、本当にいいな子供って」
そう言ってから、真天先輩は俺をまっすぐに見てくる。
「赤ちゃんの名前、今のうちから考えておきません?」
「ほら、あと一分ですよ。おとなしく待ちましょ」
「はーい♪」




