5-7 真天先輩と花火大会へ②
最寄り駅に到着すると、どっと乗客が吐き出されていく。大部分は同じ目的地なんだろうなというのが容易にわかった。
「唯人くん、はぐれないようにしないと」
そう言って右手を差し出してくる真天先輩。
俺は左手を差し出し、彼女の細く綺麗な指を絡め取った。
「俺から離れないでくださいね」
「わっ、男らしい♪」
肩を寄せ合い、恋人繋ぎしながら、国立公園までの道を歩いていく。
初めて履く下駄だけど、特に歩きにくくはない。真天先輩の足取りもスムーズだ。
「わたしたちみたいなカップル、たくさんいますね」
俺たちと同じ浴衣姿の若い男女を何組も見かける。
誰もが一夏の思い出を作ろうと張り切っているんだ。みんな見も知らぬ人たちだけど、なんだか志を同じくする仲間のように感じられた。
「ね、もっとくっつきましょうよ」
真天先輩がさらに密着してくる。
そういえば……いつも凶悪な存在感の双子の膨らみが、今はさほど目立ってないな。かなり押さえつけている感じがするが。
「ちなみに今は、和装ブラというのをしてまして」
俺の考えを読み取ったかのように真天先輩は言う。
「和装ブラ……そういうのがあるんですか」
「和服って基本的に、胸が大きい女性には不利なんですよね。帯の上にたぷんと乗っかるのは不格好になっちゃって。だからなるべく平坦になるように補正してあげるんです」
「へえ、便利ですね」
「唯人くんのために、最高の浴衣姿を見せたかったですから。……それともあえて補正しないほうが好みでした?」
一瞬それを想像してしまった。二次元コンテンツだと、むしろそのあたり考慮していないケースも多いよな……。
「ま、まあ、機会があったらそれも見てみたいかな……」
「唯人くんのエッチ♪」
「言わせたのはそっちでしょ!」
国立公園の入口に着くと、ますます大勢の人で賑わってきた。
「あ、そうだ。浴衣の写真を撮っておきたいです。お義母さまにも見せてって言われてましたし」
「そういや母さん、そんなこと言ってたっけ。じゃあ俺のスマホで撮りますね」
明るい外灯の下に立つ真天先輩。白い生地と赤い花柄がいっそう美しく映えている。
「写真だったら撮ってあげようか?」
ふと声をかけてきたのは、大学生くらいの年頃の男性だった。傍らには恋人らしき女性もいる。
「どうせなら一緒に写ったほうがいいっしょ? 遠慮しなくていいって」
「あたしの彼、こういうお節介が好きなのよー」
「いいんですか? じゃあお願いします」
俺は男性にスマホを渡し、真天先輩の隣に並んだ。
「いくよー。はい、チーズ!」
パシャリパシャリと撮って、写り具合を見せてくれる。
「これでいい?」
「わあ、ありがとうございます!」
俺と一緒の浴衣写真に、真天先輩はいたくご満悦だった。
「じゃあね。彼氏くんと頑張って!」
女性はエールを送ると、男性と腕組みして公園の中に入っていった。
「親切な人だったな……」
「楽しい日は、多くの人が親切になるんですよきっと。さ、わたしたちも行きましょ」
俺たちも園内に入った。
花火の打ち上げの時間までにはもう少し時間がある。となれば……。
「唯人くん、屋台で何か食べましょうよ」
「うん、それも楽しみのひとつだったんで」
夏祭りといったら屋台の食べ物。ラブコメ小説でも大定番の展開だけど、まさか自分がやることになるとは思いもしなかった。
ずらっと並んだ屋台のあちこちから、景気のいい呼び声が飛んでくる。
「そこの兄ちゃんと姉ちゃん、どうだいうちのたこ焼きは?」
「兄ちゃんと姉ちゃんじゃないですよ。旦那さんと奥さんです!」
真天先輩、テンション高いなぁ。
「はっはっは、そいつはいいや。サービスするから買ってってよ」
その言葉にまんまと釣られた俺は、六個入りのパックを購入する。おじさんは紅生姜に青のり、おかかをたっぷりと乗っけてくれた。
「はむっ……んんっ、美味い! この大雑把な味がいいですよね」
「たこ焼き器も欲しくなっちゃいますね。そのうち買いませんか?」
「真天先輩が焼いてくれるんですか? いいですね、買いましょう」
「あっ、ソース付いてますよ。ペロッ♥」
不意打ちで俺の唇の端を舐め取る真天先輩。まるで周りに見せつけるように堂々と。
「は、恥ずかしいですって」
「これくらいで? この夏はもっと過激なことしたじゃないですか」
「それはそれです!」
食事はどんどん進む。焼きそばに唐揚げにわたあめに……普段低糖質の食事を心がけている俺も、今夜はチートデイの限りを尽くしていく。
「ああむっ、んんっ、甘ぁい……♪」
真天先輩は今、チョコバナナを食べている。
ふっくらした唇が、絶妙なカーブを描くバナナをねっとりと咥え込んで……。
「んふっ、唯人くんはチョコバナナ、買わないんですか?」
「いや、そろそろお腹いっぱいなんで……」
「それじゃあわたしは、締めにきゅうりの一本漬けを食べちゃいます!」
また長いのを買う真天先輩だった。




