5-4 真天先輩と自宅でPV撮影
そして……いいことというのは重なるものだ。その夜、もうひとつ素敵なお知らせが舞い込んできた。
俺の第二作目となる『勇者は語り継がれたくない』。その版元の編集者から、書籍化の情報解禁日時とイラストレーター決定の連絡があったのだ。
そう、この作品も書籍化は決定していたものの、出版社公式からの告知はまだだった。イラストを描いてくれる人が決まったら告知しますと、最初の打ち合わせの時に聞いてはいたんだけど……。
「マ、マジか……?」
そのイラストレーターの名は俺も知っていた。異世界ファンタジーを中心に描いており、繊細かつ独特なタッチが高い評判を得ている。以前真天先輩と一緒に書店に出かけたとき、この人に俺の小説も手がけてもらいたいなんて言ったことがあった。
いつになるかわからないと思っていた夢が、こんなに早く叶ってしまうというのか……!
「は、早くみんなに知らせたい……!」
情報解禁は明日の昼だという。それまではひとりだけでこの喜びを独占していよう。
すると、編集者から追加のメッセージが来た。
【もうひとつ聖川真天さんについてお願いがございます。
タダヒトさんのデビュー作『最強英雄は苦悩する』のプロモーション活動を拝見して、とてもユニークだと驚かされました。
差し支えなければ、『勇者は語り継がれたくない』につきましても、聖川さんにプロモーションのご協力をいただければと考えております。
よろしければご検討くださいませ。】
「ふむ……」
これは俺もひそかに考えていたが、出版社サイドも同じ考えに至るのは自然なことだろう。それほど真天先輩が顔出ししたPVの威力はすさまじかった。
ひとまず彼女に電話して事情を説明すると――
『ぜひともご協力させてください!』
ものすごく喜んで即承諾してくれた。
『またわたし一生懸命やりますから! うわー楽しみです!』
「ありがとうございます! まあ今は夏休み中ですし、二学期に入ってからになりますかね」
『いえ、情報解禁は明日のお昼なんですよね? そのタイミングでやりましょうよ』
確かに公式と同じタイミングでやれたら、それが一番だとは思うけれど……。
「でも生徒会の人たちがいないと」
『夏休みの特別編を作りたいって言えば、秋口さんたちも時間を作ってくれると思いますよ。今から連絡してみましょうか』
真天先輩はいったん通話を切った。
五分くらいしてから、折り返しの電話がかかってくる。
『OKをもらえました! 明日のお昼に集まろうって。あと、前にお話ししていた唯人くんのデビュー作発売の打ち上げも一緒にやっちゃおうって』
「あ、ああ。そんな話もしてましたね。……それで撮影はどこで? 夏休み中の学校に入るんですか」
真天先輩はスマホの向こうで微笑んでいる。
『秋口さんがいいアイディアを出してくれたんですけど、唯人くんのお部屋で撮影しませんか?』
「へっ? 俺の部屋?」
『タダヒト先生の仕事部屋はどんななのか、多くの人が知りたいはずだって。私は考えもしていませんでしたけど、妙案だと思います。どうでしょう?』
あの人もまた妙案というか、珍妙なことを考えるものだ。
しかし別に見られて困るようなものはないし……わざわざ制服を着て学校まで出かけなくて済むのは助かるかな。
「わかりました。皆さんによろしく伝えてください」
『はーい。それじゃあ今日はこれでおやすみなさい。また明日!』
翌日の正午前。生徒会の面々が我が家にやって来た。
「ほほう、ここがタダヒト先生の仕事場ですか」
生徒会副会長の秋口先輩は執筆部屋に入ると、デスクやら壁やら本棚やらベッドやらをじっくりと見渡した。
「エロ漫画とかもあるの? あるんでしょ? ベッドの下とか」
「んなもんありません!」
「ちょっとエッチなライトノベルなら、ここにありますね」
真天先輩がニヤけながらそれを本棚から抜き出してしまう。
「そ、それは別に18禁じゃないですし!」
本を素早く棚に戻す。……一応これは背表紙が見えないように後ろ向きに差しておこう。
「それで我和くん、新作の告知はそろそろかな?」
書記の大野くんが聞く。
「うん、正午に情報解禁っていうから」
パソコンの前に座ってSNSを開き、出版社の公式アカウントを表示させておく。
……十二時になった。すかさずページを更新する。
「おおーっ!」
秋口先輩が歓声を上げた。『勇者は語り継がれたくない』の書籍化、そして担当イラストレーターが決定したこともドンと大きな画像で告知されたのだ。
「このイラストレーターって有名なの?」
「いま一番勢いのあるイラストレーターのひとりですよ。だから本当に嬉しくて」
「うふふっ、ますます唯人くんに注目が集まりますね!」
俺も引用リポストして、フォロワー向けに告知をした。するとどんどん通知が届いてきて。
《待ってましたー!》
《これも書籍化してほしかったので嬉しいです!》
《イラストレーターめっちゃ売れっ子じゃん。楽しみだ》
次々に殺到するお祝いメッセージを見ながら悦に入っていると、秋口先輩が言った。
「よーし! それじゃあ真天と我和くん、PVを撮ろうか」
機材がテキパキとセッティングされていく。秋口先輩と大野くんはわざわざ学園の生徒会室に寄って機材を持ってきてくれたのだ。
「唯人くんはPCの前に座ったほうが、雰囲気出ていいんじゃないでしょうか? わたしはその隣に立ちますから」
「こんな感じですかね?」
秋口先輩がビデオカメラの写り具合を確認し、頷く。
「うん、オッケーよ。それにしても真天の私服姿やばいわね」
撮影場所が学園じゃないので、今日の真天先輩は当然というか私服だ。比較的おとなしい長袖ブラウスを選んでくれたのだが……。
「制服の時より胸が目立ってこれまた話題沸騰、万バズ確定よ!」
「……すいません真天先輩。学園内ならまだしも、プライベートの姿まで大勢に見せることになって」
「大丈夫ですよ。わたしがやりたいって言ったんですから」
真天先輩はそっと俺の肩に手を置く。
「唯人くんの小説が注目を浴びて、売上に繋がってくれて……将来の結婚生活にも繋がるなら、わたしにとってそれが一番の喜びです。胸のことでちょっと何か言われたとしても気にしませんから」
実際はちょっと何か言われるというレベルの話ではないのだけど……真天先輩は俺のパートナーとして、自らを武器にする覚悟をしてくれている。
彼女の献身に、全力で応えなければ。本を出せたので満足というのではダメだ。
自分にも出版社にも利益をもたらす、売れる小説家にならなければ。それが商業の道を選んだ者の使命なんだ。
「じゃあ、スタートするよ!」
秋口先輩の合図で撮影が開始した。
俺は顔を引き締めて言葉を紡いでいく。
「皆さんこんにちは。タダヒトです。えーと、今は夏休みなんですが、特別編として急遽、生徒会の皆さんに協力してもらって、新しい動画を公開することになりました。今日公式に告知されたんですが、『勇者は語り継がれたくない』という作品がこのたび書籍化します!」
「わー! パチパチパチ!」
真天先輩がとびきりの笑顔を作って拍手してくれる。
「そしてわたし、聖川真天は! この作品でもプロモーションをお手伝いさせていただくことになりました。この生徒会アカウントでまたいろいろとお知らせしますので、どうぞ続報にご期待ください!」
「よ、よろしくお願いします」
「ところでここはどこかというと、唯人くんのご自宅の執筆部屋です。ここでいつも素晴らしい小説が生まれているんですね~」
それから真天先輩はかなり長くおしゃべりして、俺はひたすら相づちを打っていった。
まさか誰も、彼女が通い妻として毎日のようにこの部屋に入っているとは思わないだろうな……。




