5-3 真天先輩と筋トレ
夏休みの日々は穏やかに過ぎていく。
熱中症になるのが怖いのであまり外には出ないようにしていたが、運動不足にならないように毎日の筋トレは欠かさない。それにデスクワークがほとんどの小説家は、いい姿勢を保てるように適度な筋トレが大事だと言われている。
で、どんなトレーニングをしているんですかと真天先輩に聞かれたので、執筆の小休止中に腕立て伏せをしてみせた。
「28……29……30!」
「わあ、すごい! そんなに腕立て伏せできるんですね」
「いやあ、これくらいは楽勝ですよ」
俺は立ち上がって軽く腕を回した。
「真天先輩が作ってくれるたんぱく質たっぷりの料理のおかげです。以前よりもなかなか筋肉が付いてきた気がして」
「もしかして、腹筋も割れてたりします?」
「割れてるとまでは言えないですけど、こんな感じです」
俺はシャツをまくってお腹を見せ、グッと引き締めてみせる。何しろ一緒に風呂に入ったくらいだからこれくらいは恥ずかしくない。
「ふふっ、カチコチです。やっぱり男の子はたくましくないと」
真天先輩はたおやかな指先で、腹筋にそっと触れた。
「あと、下半身もたくましいといいですよね」
「ちょ、な、何を言ってるんですか!」
「ん? 太ももの話ですよ?」
ニマニマと微笑む天使。いや悪魔かも。
「あ、ああ。スクワットもしてますから太もももそれなりには。……ところで真天先輩も何か筋トレしてるんですか?」
上手い具合に話題を切り替えたつもりだったが、真天先輩はまたどこか艶やかに笑う。
「腕立て伏せ、できるようになりたいんですけどね。この大きなおっぱいが邪魔で」
自らのそびえる双峰に手を添え、たゆんと持ち上げた。
「邪魔って……あ、ああ、なるほど」
「やってみせましょうか?」
「やらなくていいですって」
俺の言葉を無視して真天先輩は腕立て伏せを始めようとする。
「んっ、ふううっ……ほら、おっぱいがクッションみたいになって、間に挟まってるでしょう?」
豊かすぎる膨らみが床と密着し、たわんでいく。
想像はできていたが見るからに邪魔になっていて、これではしっかりした腕立て伏せにはならないだろう。
「大胸筋を鍛えれば将来おっぱいが垂れないっていいますから、上手くできるようになりたいんですけど」
「あんまりおっぱい連呼しないでくれますかね」
それはともかく、何か妙案はないだろうか。胸がつっかえないような方法……。
「そうだ、このベッドの縁に手を突いてやってみるのは?」
真天先輩は俺の言うとおりにやってみた。
胸がゆっさゆっさと揺れるのは目の毒だが、どこにも突かず邪魔にはならなかった。
「うん、これいいですね! ちゃんと負荷もかかってますし」
「よかった。これからはしっかり鍛えられますね」
「頑張りますよ。いつまでも張りのあるおっぱいでいたいですもん」
「だ、だからあんまりおっぱい言わないでください」
さて、小休止はそろそろ終わりにしよう。執筆を再開だ。
再びデスクの前に座ったところで、真天先輩が言う。
「ところで唯人くんのデビュー作、少しずつ評価も集まってきてますね」
「うん、今のところ順調みたいで」
最大手のネットショップのページを開く。
カスタマーレビューを見てみると、5段階評価で一番上の評価である★5を入れてくれる人が多い。ありがたいかぎりだ。
SNSでのエゴサーチもちょいちょいしているが、好意的な感想が圧倒的に多い。
「続きが楽しみだっていう人もいて……ますます頑張らなきゃって思います」
「そういえば続刊が出るって、告知されてないですよね? コミカライズのことも」
「ええ、まだです」
発売日に重版、続刊、コミカライズが決定してくれた我がデビュー作。
重版に関しては即日アナウンスされていたけど、他のふたつに関しては実はまだなのだった。
「ネット上の評価が集まってからって、早乙女さんは言ってたんですよね」
「タイミングを見計らっているわけですか。でもそれなら、そろそろじゃないですか?」
その時だった。チャットツールが新着メッセージの通知音を鳴らした。
差出人は早乙女さんだった。さっそく目を通す……。
「おおっ……噂をすれば何とやらですよ」
今日の夕方に『最強英雄は苦悩する』の続刊とコミカライズ決定を発表するので、俺にもその後に告知してほしいという……!
「あはっ、また話題になりますね、唯人くん!」
「うん、テンション上がりますよ!」
予告通り、夕方になると出版社のSNSアカウントで告知された。
【発売直後から話題沸騰、高評価!】
そんな書き出しのポストを、俺も引用してフォロワーに知らせた。
ありがたいことにこの告知がトレンド入りし、ニュースとしても取り上げられ、お祝いのリプライが相次いでくれたのだった。




