4-4 真天先輩と俺の両親③
真天先輩と両親との会談はそれで一区切りした。
父さんの思わぬ過去を知って驚いたものの、とりあえず和やかムードで終わってくれて何よりだった。
「ねえ真天さん、よかったらうちで夕ごはん食べていかない? もっと話してたいわ」
「ええ、ぜひ! わたしにもお料理、手伝わせてください。我和家の味というものを学びたいです♪」
「あっははは、そんなたいそうなものはないけどね!」
「じゃあ、家に連絡しておかないと」
真天先輩はその旨をメッセージで送信する。彼女もこの家をすっかり気に入ってくれたようでよかった。
「それじゃあ俺は部屋にいるんで……」
「唯人くんのお部屋? それはぜひ拝見しなければ!」
「俺の部屋に入るんですか?」
「ふふっ、別に見られて困るようなものはないでしょう?」
それはそうなのだが、ちょっと恥ずかしい。でも真天先輩だって自分の部屋に俺を入れたことがあるしな……。
「じゃあ真天さん、あとで呼ぶから」
「はい、少しだけ唯人くんとふたりきりにさせてもらいますね」
俺の部屋は二階にある。階段を上ろうとすると。
「なあ唯人」
「なんだよ父さん」
「変なことはするんじゃないぞ?」
「しないから!」
俺の部屋は定期的に掃除してくれているそうで、綺麗に整っている。家を出たときのまんまだ。
真天先輩は楽しそうに部屋全体を見回している。
「本棚、漫画がいっぱいあるんですね。小説じゃなくて」
「小説に夢中になる前は漫画もいろいろ読んでました。ほら、ゲーム機もありますよ」
「実家に置いたままということは、もうこういうのはやらないんですか」
「小説に集中しようって決断しましたから。おかげでデビューできたけど、あいにくもうやる暇はなさそうで。いっそ処分した方がいいかな」
と、真天先輩はニンマリする。
「わたしたちの子供のために取っておきましょうよ♪」
「……お、おう?」
「家族一緒に漫画を読んだりゲームしたり、それってとっても楽しそう!」
真天先輩は何年後かの未来に想いを馳せている。しばしばあることだった。
「一刻も早く、お義父様とお義母様に孫を見せてあげたいですね。一年後とか♪」
「そ、そんなに早くなくてもいいんじゃないかな……」
「真天さん、お料理開始の準備できたわよー」
いきなり母さんが入ってきた。
「ノックくらいしろって!」
「一年後に孫が生まれるとか聞こえたけど?」
「さらっと捏造しないでくれる?」
「うふふっ! それじゃあ唯人くん、お夕飯ができたらお呼びしますね」
真天先輩は一階に下りていった。
俺はベッドに仰向けになって、将来のことはひとまず考えず休むことにした。
やがて空が暗くなる頃、俺は食卓に呼ばれた。
「おっ、肉じゃがか」
「唯人くん、これが一番大好物だったらしいですね?」
俺は基本的に好き嫌いがない。母さんの作る料理もなんでも美味しく食べていたけど、肉じゃがはその中でも特にお気に入りだった。
「真天さんは肉じゃがはまだ作ったことがなかったそうだから、ばっちり教えといたわよ。唯人の好みの味付けもね」
「あ、ありがとう。助かるよ」
夕食が始まった。会話の主導権を握ってくるのはやはり母さんだ。
「それでさ、家族計画とかももう考えてたりするわけ?」
「わたしは最低でも三人は欲しいなって♥」
「きゃあああ! 早く孫をたくさん抱かせて!」
「ふーむ、本当にそれだけ産めたらたいしたものだけど……それは聖川家のバックアップがあるからってことかな」
父さんが聞く。このへんもちゃんと言っておこう。
「いや、基本的にあちらの家に頼るつもりはないから」
「そうか、そのくらいの意気込みでないとな。でも父さんも作家を目指していたから、作家の生活がいかに大変なのか、ちょっとは知ってるつもりだ。少なくとも今のままじゃ厳しい……というか無理だぞ」
何だか緊張感が漂ってきた。
「唯人はコンテストで確か、十万円の賞金をもらったよな」
「うん」
「それは唯人の部屋の家賃と、だいたい同じくらいだ。一ヶ月分がすぐに飛ぶくらいだ」
「ん……」
「これから印税も入るだろうけど、まあ百万はいかないだろう?」
「……初版分はそうだね。もっと重版してくれればいいけど」
俺は去年の今ごろにデビュー作の『最強英雄は苦悩する』を書き始め、二ヶ月ほどで完成させた。
そこから選考を経て受賞して、書籍化作業をして……世に出たのはおよそ一年後ということになる。
賞金と合わせて、どうにか百万円くらい。
高校生にとっては相当の大金と思っていたけど、一年間の労働の成果と考えると……?
少なくとも父さんは、まったく不十分だと言っているようだ。
「お金はな、本当に大事だからな」
その言葉には、現役の働き人の重みが滲んでいた。
「大切な家族を守るために、お金には貪欲にならないといけないぞ。そこは真天さんにも覚えておいてほしいんだ」
「……はい、お義父様。しかと胸に留めておきます」
「まあ少なくとも唯人が高校生のうちは、生活費は我が家で出すから。今のうちに書きまくれよ。ちょっとくらいの無茶はしろ」
父さんは冗談で言っているのではないようだった。
「無茶をしろって、珍しいアドバイスだね」
「合理的なアドバイスだよ。無茶ができるのは若いうちだけなんだから」
「大丈夫です。唯人くんのお体はわたしがしっかり面倒見ますから♪」
「うんうん、お願いね真天さん。唯人、肉じゃがのおかわりいる? いっぱい食べて体力付けないと」
「ああ、もらうよ」
久しぶりの我が家の夕食はただ美味しいだけじゃなく、両親の気持ちがこれでもかと詰まっているようだった。




