4-2 真天先輩と俺の両親①
「ところで確認なんだけど、聖川さんはあの聖川グループの?」
父さんが聞く。真天先輩は頷いた。
「はい。父は聖川グループの代表を務めております。母は役員で」
「我々がここに家を建てたのは、ちょうど唯人が生まれたあたりかな。聖川グループは、ここいらじゃそれはもう有名だったからね。あんな御殿を建てたいなんて冗談を言い合ったものだよ」
「そんなとこのお嬢さんが、どうしてうちの唯人と? 早く教えてよ」
ケーキを食べながら急かしてくる母さん。
「うん、順を追って話すから」
小説家デビューが決まり、それが報道されたことで俺が学園内で少し有名になったこと。そこから特別表彰の話が持ち上がったこと。表彰の場に現れたのが生徒会長の真天先輩だったこと。真天先輩はWEB小説が大好きで俺とすぐに意気投合したこと。そして……。
(うーん、ここからどう話せばいいものか……)
逡巡していると、真天先輩が口を開いた。
「わたしは専業主婦になるのが夢なんですけど、その練習も兼ねて、唯人くんとお付き合いしたいなって思ったんです♪」
そうだ、こういうことをストレートに言っちゃう人なのだ真天先輩は。
「専業主婦……ふむ……?」
父さんはどう反応したらいいか困っているようだ。
「素敵ね~。私だってできるならパートなんかしないで家にずっといたかったわ」
母さんはのんきなことを言っている。
「それでわたしは通い妻として、週末になると唯人くんのおうちにお邪魔することになりました。四月からだから、もう何ヶ月にもなります」
「か、通い妻……?」
ますます反応に困る様子の父さん。それはそうだろう。
一方の母さんは身を乗り出さんばかりだった。
「ということは聖川さん、唯人とは結婚を前提にお付き合いを?」
「その通りです。あ、わたしのことはぜひ真天とお呼びくださいね。わたしもお義父様、お義母様と呼ばせていただきたく!」
「きゃあああっ!」
歓喜の悲鳴を上げている。母さんってこんなに騒がしい人だっただろうか?
「わたし、唯人くんが運命の相手だってすぐに気づいたんです。それからのわたしは我ながらグイグイ攻めてしまって。実は唯人くん、うちの両親とはすでに顔合わせしてまして、将来は結婚することを認めてもらっています♪」
「はああっ?」
ついに父さんも悲鳴に近い声を出した。
「ひ、聖川グループのトップに認められたってことか?」
「うん、まあ、いろいろ大変だったけど」
聖川の両親と面談したときのことも話した。
話し終える頃には、もうケーキも紅茶もなくなっていた。母さんが席を立つ。
「真天さん、紅茶のおかわりはいるかしら?」
「はい、いただきますお義母様」
「いい響き♪ もっと言ってちょうだい!」
「うふふっ、お義母様とはとっても仲良くできそうですね」
父さんは腕組みをして唸っている。
「うーん、我々の知らないうちにそんなことになっていたのか……いや、報告しろってそういうことは」
「ごめんって。でもそんなことなかなか言えるわけないじゃないか」
「そうよお父さん。あなただって自分の親に私を紹介したのは結婚直前だったでしょ」
「むぐっ、血は争えないってことか」
新しい紅茶を一口飲むと、真天先輩はますます嬉しそうに語る。
「昨日まで三泊四日の旅行に行ってたんですけど、唯人くんも一緒だったんです」
「っ? 唯人が旅行してたのは知ってたけど、真天さんも? ふたりだけでか?」
「いえいえ、我が家のメイドが責任者として付いてきていたので。何も問題なく旅行は終わりましたよ。ね?」
スリングショットだの逆バニーだの裸エプロンだのについては、もちろん言えるはずもない。
「学校があると平日は無理ですが、この夏休みは毎日唯人くんの家に通わせてもらって、すべての家事はわたしにやらせていただこうかと。お付き合いする前の唯人くんは、食事はいつも簡単なもので済ませていたらしいんですけど、わたしが作った料理はいつも嬉しそうに食べてくれるんですよ♪」
「なあ母さん、高校生がそこまで進んでしまっていいのだろうか?」
「いいじゃないの~。こんな時代なんだから、幸せを早く見つけるに越したことはないわ」
……さて、だいたいのことは説明し終えたかな。
ここで俺はもうひとつの用件を済ませることにした。鞄からそれを取り出してふたりに差し出す。
「少し遅れたけど、これ、俺のデビュー作」
親に自分が出版した小説を渡す。作家の実績をひとつクリアだ。
「ああ、ありがとう。こちらも遅れたけど、デビューおめでとう。よく頑張ったな」
「しかしねえ、自分の子供が小説家になるなんて。しかも高校生のうちに! 夢を継いでもらってよかったわねお父さん」
「えっ……それどういうこと?」
父さんは少し恥ずかしそうに口にする。
「実は父さんもな、若い頃は小説家を目指していたんだ」




