3-9 真天先輩との旅行の終わり
翌朝、朝食を終えたあとはすぐに身支度を調えた。
忘れ物がないことをしっかり確認し、エントランスまで出る。
「唯人くん、帰る前にもう一度海を見ましょうか?」
「いや……大丈夫です。初日に十分すぎるくらい見ましたから」
それに、どうしても真天先輩のスリングショットを思い出してしまう。
「んふっ、わたしの水着姿を思い出しちゃって恥ずかしい?」
「エスパーですか真天先輩?」
「唯人くんの考えていることはすぐにわかっちゃいますよ」
「も、もう行きましょう!」
荷物をトランクに入れ、車に乗り込んだ。
エンジンを吹かしながら狩谷さんが言う。
「お嬢様が車の免許を取られましたら、来年はぜひおふたりだけで訪れるとよいでしょう」
「えっ、いいんですか?」
「今回はおふたりとも未成年でしたから私が監督いたしましたが、お嬢様は来年には卒業して名実ともに成人になりますから。旦那様も奥様も、おふたりだけで滞在するのを許可なさるかと」
真天先輩とふたりきり。
あの刺激的な水着姿も、本当の意味で独り占めを……。
「いえ、もしかしたらお嬢様が身重の体になっているかもしれませんね。旅行どころではないかも」
「うんうん、その可能性もおおいにありますよね♪」
「ちょ、ちょっと!」
「それでは出発いたします」
車がゆっくりと発進する。
俺は窓の外を振り返り、遠ざかっていく別荘を見つめた。
愛しの恋人との、初めての泊まりがけ。一生忘れることのない出来事だった。彼女もきっとそう思ってくれているだろう。
――行きと同じくきっかり二時間後、俺たちは地元に戻ってきた。
聖川家のガレージの前で車を下り、うーんと背伸びをする。
「お疲れ様でした、唯人くん!」
「真天先輩こそお疲れ様でした。狩谷さんも運転ありがとうございました」
「いえ、私にとっても良い休暇になりました」
さて、これからのことを伝えないと。
「俺はこれで帰りますから。真天先輩も今日は家でゆっくりしててください」
「はい。また明日にお宅に伺いますね」
「あ、いや、俺のマンションじゃなくて……よかったら実家に来ませんか」
昨日、動物園で話していたこと。
真天先輩は以前から俺の両親に挨拶したがっていた。なんだかんだと理由を付けて先延ばしにしていたけど、いいかげんに済ませたほうがよさそうだ。
「いいんですか? 嬉しいです!」
「明日は日曜日だから、両親は在宅のはずです。OKが出たらメッセージ送りますんで」
「わかりました。吉報を待ってますね♪」
真天先輩と狩谷さんに別れを告げ、俺は自宅マンションに戻った。
荷物を置いてリラックスしながらスマホを取り出す。
両親には一応、この数日間は旅行で不在だと連絡していた。
もちろん恋人と同伴などとは一言も告げていない。
「……ビックリするだろうなぁ」
息子が何の前触れもなく恋人を……それも結婚を前提にお付き合いしている女性を連れてくるというのは。
とにかく、グループ「我和家」宛に簡潔にメッセージをしたためる。
【旅行から帰ってきました。
ところで明日、会わせたい人がいます。
家に連れて行くのでふたりの都合のいい時間を教えてください。】
少し経ってから父親から返信があった。
【了解しました。
午後三時に来てください。
お母さんがケーキと紅茶を用意すると言っています。】
これは確信してる……かな? 息子にいい人ができたというのを。




