3-7 真天先輩と寿司パーティー
まだ明るいが、太陽は徐々に西に傾いている。
帰ったら真天先輩はまた狩谷さんと一緒に料理をしてくれるのだろう。
……いや、最後の夜になるんだからふたりには楽をしてもらいたいな。
「すいません狩谷さん、やっぱり寄ってほしいところがあるんですけど。スーパーとかありますか?」
「スーパーでしたら近くにございますが、何か買われるのですか?」
「夕食はそこで買いましょうよ。今夜は俺のおごりってことで」
「唯人くん、どうしたんですか?」
真天先輩は当然の疑問をぶつけてくる。
「昼も夜も手間暇かけた料理で大変だったでしょ? 遠出で疲れた後にまた料理することもないですよ。それに俺は食べてばかりで悪いなって思ってたし、おごらせてください」
「お嬢様がそれでよろしければ」
狩谷さんが聞くと同時、二の腕にとんでもない柔らかさが密着してくる。
「唯人くん、好きっ♪ 妻を休ませてあげたいだなんて、さすが気遣いのできる旦那さまです」
「はは……どうも」
車は近くのスーパーへと入った。
狩谷さんは車内で留守番するというので、俺と真天先輩のふたりだけで入店する。
「何を買ってくれるんですか?」
「寿司にしましょう! 今夜は寿司パーティーです」
「いいですね! わたしお寿司大好きですよ」
パック寿司のコーナーに行って、適当にあれこれとカゴに入れる。
実家ではたまに食べていたパック寿司だけど、高校生になって一人暮らししてからは米を食べることが激減していたから、たぶん初めてだ。
「デザートにアイスも買いましょうか。ちょっとお高いのを」
「わあ、ありがとうございます♪」
買い物を終えて車に戻った。あとは寄り道せずに別荘へ一直線。
まだ夕飯には早いので、その間に入浴を済ませることにした。
「今日は真天先輩が先に入っていいですよ」
「わかりました。それじゃあお先に」
真天先輩が浴室に向かう。俺はリビングで待つことにして、狩谷さんも一息つく。
「運転お疲れ様でした、狩谷さん」
「どうということはございません。それよりも私などを気遣っていただき、ありがとうございます」
「いや、これくらいは当然というか」
子供の頃はなんとも思ってなかったけど、車を運転するってすごく大変だ。事故を起こさないために、一時も注意を逸らしてはいけないんだから。
「俺は車を運転するの、なんとなく怖いからって免許を取るのは躊躇してるんですけど、そうも言ってられないかな。真天先輩は免許を取るって言ってくれてるけど、片方にばかり負担をかけるのはダメですよね。真天先輩が病気や怪我をしているケースもあるし」
「他にもたとえば、陣痛が始まったお嬢様を早く病院に運びたいというケースが考えられるでしょう」
「またユニークなケースですね……」
「おふたりの人生で何度もあるかと思われます。そういった場合は確かに我和様が運転できた方がよいかと」
さっきの四谷多賀子記念文学館で、良き夫婦の在り方というのを知った。
何事も早いうちから決めつけることはない。いろいろな道を考えておかなきゃ。
「まあその前に、車をポンッと買えるくらい稼がないと」
「大丈夫ですよ。我和様のデビュー作、旦那様と奥様も褒めておられましたから」
「えっ、ふたりして読んでくれてたんですか?」
「自分が高校生の頃はこんな文章はとても書けなかった、この先が楽しみだと、口を揃えて。無論私も同じ気持ちでございますよ」
「あ……ありがとうございます。頑張ります」
真天先輩は三十分ほどで上がってきた。続けて俺もとてもいい気分のまま風呂に入った。
遠出の疲れをしっかり癒やしたら、いざ寿司パーティーの始まりだ。
いつも俺たちの世話をして自分の食事は後回しにしていた狩谷さんにも、今回は同席してもらうことにした。
「ん~っ、どれもこれも美味しいっ♪」
ホクホク顔の真天先輩を見ていると、さらに美味しさが上乗せされるようだった。
「さすがに真天先輩も狩谷さんも、寿司は握れないですよね?」
「ふふっ、さすがに無理です」
「この狩谷、お嬢様のためならば寿司業界で修行することも厭いません」
「寿司職人って、飯炊き三年、握り八年とか言われてますよね。だから気持ちは嬉しいけど、狩谷さんと離れるのは寂しいからダメですよ」
「ああ、お嬢様……なんとお優しい。ええ、やはり私は聖川家に骨を埋める覚悟です」
真天先輩と一緒に食事ができて、狩谷さんも嬉しそうだ。普段はそんな機会がないだろうからな。
「そうそう、手巻き寿司なら我が家でもやることがあって。唯人くんの家ではどうでしたか」
「うちでもたまにやりました。妙に楽しいですよねあれ」
「唯人くんのおうちでも、今度やりませんか? テーブルいっぱいに具材を並べて!」
「うん、それも夏休みのうちには」
俺も真天先輩も食欲旺盛だった。たくさん買ったパック寿司は跡形もなくなり、デザートのアイスクリームもしっかり堪能した。
そうして、最後の夜がやってくる。




