3-4 真天先輩と俺の両親の話
猛獣エリアを抜けたところでお昼時になったので、レストランに向かった。
子供が喜びそうな動物をテーマにした料理もあったが、普通のハンバーガーとドリンクを頼んだ。真天先輩と狩谷さんも同じメニューだ。
「ねえ唯人くん。そのうち水族館も行きたいなって思うんですが」
「ああ、いいですね。今年中には行きましょう」
「唯人くんも執筆に集中したいでしょうけど、わたしとのデートも忘れないでくださいね。他にもいっぱい行きたいところがあるんです」
「真天先輩の行きたいところなら、俺もどこでも行ってみたいですよ」
「んふっ、どこかのホテルでお泊まりも大歓迎ですよ?」
「お父さんとお母さんが許可するはずないでしょ……」
ふむ、と狩谷さんが俺を見る。
「そういえばお嬢様は、我和様のご両親にはお会いになったのですか?」
「いえ、実は一度も。唯人くん、うちの両親のことは後回しでいいって言うものですから」
ここで俺の親の話題になるとは思わなかった。
もちろんそのうち真天先輩を紹介しなければとは考えているのだけど……。
「いや、何だか照れくさくて」
「聖川グループのトップ相手にあれほどの演説をぶったのですから、怖いものはないでしょうに」
狩谷さんの言うことももっともだ。
しかしそれはそれ。身内に……自分の恋愛のことを伝えるなんて、恥ずかしくてしょうがない。真天先輩にはそれをさせておいて、こんなことを言うのはどうかとも思うのだけど。
「唯人くん、ご両親には近況報告とか全然ですか?」
「小説関係のことでちょいちょい報告するくらいで……プライベートのことはまったく」
「決めました。この旅行から帰ったら、ぜひご両親にご挨拶させてください」
真天先輩は口元を拭くと、きっぱり言った。
「今までのこと、余さずお伝えしたいです。もちろん今回のお泊まり旅行のことだって」
「ん……真天先輩がどうしてもって言うなら」
「ちなみに唯人くんの親御さんは、いわゆる普通の?」
「そうですね。父親は普通の勤め人で、母親はパートタイマーです」
息子が聖川グループの大事な一人娘とお付き合いしている――そう聞いたら、まあぶったまげるだろうな。
「うちの親は、本当に平凡なんで……」
「そんなことはないと思いますよ。唯人くんという才能ある作家さんを一人前に育てたんですから。ぜひお礼を言わなきゃ」
真天先輩の目は真剣だった。
「そりゃ、高校に行かせてもらうくらいに育ててもらいましたけど」
「普通じゃないことだと思いますよ。作家になれるくらいの国語力を自分の子供に身に付けさせるっていうのは。学校の勉強だけじゃ、とても無理なことです」
「ん……」
今までこれといって意識したことはなかった。
しかし自分の家庭環境を思い返してみると……。
「うちの家は……真天先輩の家みたいに教育熱心とまではいかないですけど、本はいろいろありました」
「それを子供の頃から読んでいたんですね。小説ですか?」
「いや、ノンフィクションや偉人の伝記が主でした。読みたいなら勝手に読んでいいよって、何かをおすすめするようなこともなくて」
「子供の自由意志に任せる。素敵なことじゃないですか」
「割合で言ったら、漫画やゲームやアニメのほうが高かったですけど……とにかくそうして本を読むことに慣れていって。そしたらある日、こんなのがあるぞってWEB小説の投稿サイトを教えてくれて。無料で読めるってのは親にとっても大きかったのかなと」
そこから一気にWEB小説の世界にのめり込んでいった。
自分でも書きたいと思うまでには、そう時間はかからなかった。たまたま父親のお古のノートパソコンがあったから、それをもらい受けて……。
「特別なことは、なさらなかったかもしれませんね。でも、とても立派な教育だと思います」
真天先輩は俺の話を噛みしめるかのように、何度もうんうんと頷いていた。
「普通に学校に行かせて、勉強させて、本を読ませて、もちろん娯楽も適度に与えて……動物園に連れてってくれたこともあるんですよね。劇的ではないかもしれないけど、これといった不自由はないように。それに勝る子育てはないんじゃないかって、最近思っています。わたしも自分の子供を育てる時は、参考にさせていただきたいです♪」
「す、少し大げさなような?」
「ふふっ……とにかく俄然、唯人くんのお父さんとお母さんに会いたくなりました。セッティング、お願いしますね」
話はそれで終わった。食器を返却してレストランを出る。
「さ、あと少し見て回りましょうか!」




