3-1 真天先輩と動物園へ
翌朝の朝食のメインはプレーンオムレツだった。
その楕円形はとても美しく整っていて、思わず惚れ惚れとしてしまうほど。これは真天先輩が作ってくれたという。
「オムレツ、ネットの動画を見ながらやってみたことあるんですけど、なんかグズグズになっちゃって」
「わたしも覚えるのにはちょっと苦労しました。唯人くんにも教えてあげましょうか?」
「うん、そのうち再チャレンジしてみようかな」
朝食を食べ終え、コーヒーを飲みながら窓の外を眺める。
旅行の三日目。明日は地元に帰るだけだから、実質今日が最終日。
まずは動物園に行くことになっている。かなり楽しみだ。
「これから行く動物園って、どんな感じなんですか?」
「猛獣がたくさんいますよ。ライオンとかトラとか。男子は大好きでしょう?」
「そりゃもう、強いのは憧れます」
それから俺も真天先輩も外出のために着替えた。
驚いたのは、彼女の装いだ。
「露出、抑えてるんですね」
「人の大勢いる場所に行きますから」
涼しさを感じさせる水色の長袖と、ベージュ色のロングスカート。
半袖&ハーフパンツの俺のほうが肌を出しているという逆転現象だ。
「うん、こっちのほうが断然いいですよ」
あの胸の谷間も露わなキャミワンピは、あくまでも恋人の俺だけに見せるスタイルだったのだ。
俺だけがあの刺激的な姿を見られるのだと思うと、妙な優越感も沸いてくる。
「動物園までは車で二〇分ほどです。今から出れば開園の少し前に到着するでしょう」
俺たちは二日ぶりに狩谷さんの運転するベンツに乗り込んだ。
深紅の車体は夏空の下、動物園までの道を軽快に走っていく。
「唯人くんは動物園って、どれくらい行ったことが?」
「子供の頃に一度か二度か……中学以降は全然ですね」
「わたしも同じですよ。別荘には毎年来ていたんですが」
やがて車は動物園の駐車場に辿り着いた。
「パパ、ママ、早く早くー!」
「わかってるってー」
「あんまりはしゃがないでねー?」
まだ開園前だが、家族連れがかなり多い。夏休みだものな。
「見て唯人くん。子供、可愛いですね」
「動物園が初めてって子も多いんでしょうね」
「わたしもあんな可愛い子供が欲しいな♥」
「そういう話題は今日はやめましょう」
チケットを購入し、入場待ちの列に並ぼうとしたところで――
「我和様、ぜひお嬢様と恋人繋ぎをなさってください」
「狩谷さん?」
「超絶美少女であらせられるお嬢様がナンパされるかもしれません。しかし彼氏持ちとわかれば、そうそう声をかける人はいないでしょう」
「はあ……わざわざ動物園でナンパしようなんて男がいますかね」
「念のためでございます。さあさあ」
真天先輩はにっこり笑って手を差し出してきた。
「可能性は少しでも減らしたいです。わたしはもうこの男の子のものなんだって、周りに教えてあげちゃいましょう♪」
「は、はいっす」
彼女の細くて白くて綺麗な指が、俺の無骨な指とそっと絡み合う。
それだけで、無性に心地よかった。
「お待たせしました。開園しまーす!」
職員の声が響き、入場門が開いた。俺と真天先輩はしっかり手を繋ぎながら中へと進んでいった。




