2-7 真天先輩と狩谷さんとトランプ遊び
――そのきっかり一時間後、アラームの音で目が覚めた。
「んっ……」
「おはよう、唯人くん。子供みたいにぐっすりでしたね」
見上げると、眠った時そのままの大きな膨らみが視界を遮っていた。
「真天先輩……本当にずっと膝枕してくれてたんですか?」
「可愛い寝息でしたよ。微笑ましかったです」
俺はのそのそと体を起こした。
「何か寝言は言ってませんでした?」
「真天先輩、一晩中ヒイヒイ言わせてやるぜ~って」
「絶対ウソでしょ?」
「残念ながらウソです。早く実際にそう言ってくれるのを楽しみにしてるんですが♪」
俺は顔を洗って目をスッキリさせた。
予定ではまた遊戯室で遊ぶことになっているが、どうしようかな。
「そうだ、お次は狩谷さんも誘ってトランプとか」
運転手に始まり、ずっと俺たちの世話しかしていないのだ。ちょっとは息抜きしてもらってもいいと思う。
「トランプはふたりきりだとあまり面白くないですし、それがよさそうですね。声をかけてみます」
狩谷さんは夕食の仕込みをしていたらしいが、俺たちの招きに応じて遊戯室に来てくれた。ちなみに真天先輩はもう妙な衣装を着ることはなかった。
「私のことなど放っておいて、おふたりで愛欲の時間を過ごすほうがよろしいのでは?」
「……あのですね、俺たちのことちゃんと監督するようお母さんから言われてるんでしょ?」
「確かに言われておりますが、十代の若い情熱が燃え盛るならば私に止める権利はございません」
「わたしはずっと燃え盛っているのですけどね。唯人くんがここまで我慢強いだなんて」
「ああもう、始めますよ」
定番のババ抜きをすることになった。カードが三人に配られていき……。
「ふーむ」
ジョーカーは俺の手元にはない。
ということは真天先輩と狩谷さん、どちらかになるが……。
「最初は唯人くんが引いていいですよ」
「はい。どーれにしようかなー」
カードと睨めっこしてばかりもなんなので、雑談を交えていく。
「狩谷さんはもう十何年も聖川家で働いているんですよね」
「ええ。メイドは他にもおりますが、気がつけば私が一番の古株になりました」
「お父様もお母様も、とても頼りにしています。狩谷さんにはまだまだうちにいてほしいですね」
「お許しいただけるならば、生涯勤めさせていただきたいと思っております。聖川家以上の職場があるとは思えません」
「結婚とかは……考えているんですか?」
口にしてからデリケートな問題だよなと思ったが、狩谷さんはすんなり答えてくれる。
「したい気持ちもございますが、あいにくと良縁に恵まれておりませんので。いずれにせよ、おふたりの結婚を見守るのが先なのは間違いないでしょう」
最初に上がったのは真天先輩だった。
「はい、イチ抜けました♪」
「お見事ですお嬢様。さて、ジョーカーを持っているのは私です。小説家の眼力で見抜けるでしょうか」
「そんな眼力があったら苦労しないんですけどね……」
「狩谷さんは見ての通りのポーカーフェイスですから、昔からババ抜きがすごく強くて。一対一になるとわたしも勝てた記憶がないです」
それとなく観察していたが、狩谷さんは一度も表情を変えていなかった。
三人のうちはよかったけど、こうして真正面から向かい合うと妙に圧迫感がある。初めて出会った時のことを思い出した。最近は慣れてきてたんだけどな。
「せっかくですので罰ゲームをやりたいですね。我和様が負けたらお嬢様にキスをするというのはいかがでしょう? もちろん唇に」
「なんですかそれ!」
「あらまあ、素敵♪」
……まあ、キスくらいならいいか。そもそもそれで罰ゲームになるのかわからないが。
「じゃあ、狩谷さんが負けたら何を?」
「一発芸でもいたしましょう」
よし来た。こうなったらめちゃくちゃ恥を掻かせてやるぞ。
――と思っていたのだが。
「ぐぐっ……! も、もう一回勝負!」
俺はジョーカーを手に歯ぎしりした。
「夕食の仕込みがまだ残っておりますので、あと一回だけなら」
「唯人くん、その前にわたしにチューしてください♥」
「わ、わかりました……」
「ぜひベロチューをお見せください」
「そこまでは言ってなかったでしょ?」
俺は普通に、真天先輩の唇に口づけた。彼女は子供のようにはしゃいで喜ぶ。
「んふっ、次も唯人くんにチューしてもらいますから」
「お嬢様、共同戦線を張りましょう」
「くっ、そうはいきませんから!」
しかし次もジョーカーを掴まされたのは俺だった。なんか永遠に勝てる気がしなかった。




