2-3 真天先輩とチェス勝負
「さ、白の唯人くんが先攻ですよ」
「あ、そうか。白はなんとなく選んだんですけど」
駒の動き以外はルールが曖昧だな。まあ教わりながらやればいいか。
「ポーンは最初だけ二マス動かせるんですよね」
「ええ、一マスか二マス、どちらでもいいです」
とりあえず中央あたりから動かそう。左から四列目、クイーンの前にいるポーンを二マス進める。
「いいですね! それは初手でよく使われるオープニングですよ」
「オープニング?」
「体系化された序盤戦術、定跡というやつですね。今のは中央の支配が目的で、理に適っているんです」
俺は適当に動かしただけなんだけど、知識のある人が説明すると深遠な狙いがあるように聞こえるからすごいな。
「ではわたしも同じ狙いで」
真天先輩は優雅な手つきで、同じくクイーンの前のポーンを二マス進める。
そのわずかな動きに釣られてバニーの豊満バストがぷるんと揺れて……いかん、盤に集中しなければ。
さて、お互い動かしたポーンが向かい合う形になっている。
「ポーンって、相手の駒が真正面にいると進めないんですよね」
「そうです。将棋の歩だとそのまま駒を取りながら前に進めるんですけど。斜め前に相手の駒がいる場合は、それを取りながら進めます」
「じゃあ、今度は……ナイトを」
他の駒だと初期配置のポーンが邪魔になるが、ナイトはどんな駒でも飛び越えられる特性を持つので、いきなり動かすことが可能だ。
ひょいっと、真天先輩がさっき進めたポーンを狙える位置に動かす。
「なるほど。じゃあこちらもナイトでポーンを守りましょう」
そうやってじっくりと駒組みを進めていった。
ルークもビショップもクイーンも入り乱れて、最初はシンプルだった盤面がどんどん複雑になっていく。俺は完全にこんがらがってきた。
「おふたりとも、ロイヤルミルクティーをお淹れしました」
「ん、ありがとうございます」
狩谷さんが運んできたカップに口を付けながら、慎重に落ち着きながら考える。
「よーし、これでどうだ!」
「ふふっ、それだとタダで取られてしまいますよ?」
「あっ? 本当だ。待ったありでいいですか?」
「ええ、いくらでもどうぞ」
俺は何度も待ったをしながら軌道修正していったが――
「では、申し訳ないですけどチェックメイトです」
「ぐうっ……やられた!」
俺のキングはもう行き所がなく、あえなく討ち取られてしまった。
「真天先輩、全然本気じゃなかったんですよね?」
「指導対局モードでございました」
ずっと側で見ていた狩谷さんが言う。
「お嬢様はその気になれば、日本一のプレイヤーにもなれる素質があるかと」
「はあ……頭がいい人はこういうボードゲームも強いんですねやっぱり」
「唯人くん、もう一局くらいやりますか?」
「うーん、だいぶ手を緩めてもらっても負けるくらいの実力差みたいですし……」
普通にやってたら永遠に勝てないだろう。
「それなら、駒落ちでやるのはどうですか?」
「っていうと……そっちの駒を最初からいくつか取り除くってことですか?」
「ええ。わたしはクイーンと……そうですね、ナイトをふたつとも落としましょう。これならいい勝負ができるかなと」
最強の駒であるクイーンと、トリッキーな動きで初心者を混乱させるナイトをふたつも落とす。確かにそれならやれるかもしれない。
「じゃあ、もう一局お願いします!」
駒を並べ直すと、真天先輩はクイーンとナイトを取り除いた。それからニコニコと口にする。
「負けたほうは相手の言うことを何でも聞くというのはどうですか?」
「……エッチなのはダメですからね?」
「えー……」
そんなあからさまにガッカリしなくても。
「わかりました。ギリギリでエッチじゃないのを考えておきますから。覚悟してください」
二回戦が始まった。
だいぶ大きなハンデをもらっているのだ。これなら勝てる見込みもあるのでは?
――と思っていた五分後には、勝負は終わってしまった。
「つ、強ええ……」
圧倒的敗北だった。絶対有利だったはずが、気がつけば俺の駒はどんどんと召し上げられて、キングは早々と孤立無援に追い込まれてしまったのだ。
「むふん、どうですか」
得意そうに剥き出しのおっぱいを張ってたゆんたゆんさせる。
「もう二度と真天先輩とはチェスやらないです!」
「あーん、ごめんなさい。つい力が入り過ぎちゃって」
よっぽど俺に言うことを聞いてもらいたかったみたいだな……。
「まあ、約束は約束なんで。俺に何をしてもらいたいんですか?」
「んー、それはまた後ほどということで。今はもっともっと遊びましょ♪」




