1-10 真天先輩とお風呂タイム②
しばらくは背後でタオルの擦れる音とシャワーの音を聞いていた。
その間、俺は煩悩を振り切りながら夕焼け色に染まっていく外の風景を眺めていた。何の穢れもない雄大な自然のおかげで、俺はどうにかギリギリで平常心を保つことができていた……。
「唯人くん、わたしも入りますね」
「……ど、どうぞ」
すぐ後ろで、真天先輩がお湯の中に入るのを感じ取った。
「振り返っていいですよ。バスタオル、着けたままですから」
「あ、はい……」
おそるおそる振り返ると、確かに真天先輩は生まれたままの姿ではなかった。
「バスタオルを着けたまま入るなんて、お行儀が悪いのですけどね」
「今は着けないほうがお行儀悪いですって……」
「それよりどうですか、このジャグジー風呂。気持ちいいでしょう?」
真天先輩は恍惚の面持ちで全身を弛緩させる。
気泡が勢いよく噴き上がるお湯の中で、彼女のたわわがポヨンポヨンされていく……。
「うん……すごく筋肉がほぐれて、血行も良くなりそうで」
「唯人くんはこれから、ますます執筆で忙しくなりますから……デスクワークばっかりで、体のケアをおろそかにしちゃダメですよ」
ピトッと。真天先輩はお湯を押しのけながら俺に引っ付いてくる。
「ほどよいマッサージ、ほどよい運動。これが肝心です♪ ほら、ちょっと肩が強ばってませんか?」
「く、くすぐったい……!」
グニグニと揉んでくる真天先輩。こんな風に密着されたら肩どころか全身が強ばってガチガチだ!
「専業主婦となった妻には、夫に対していろいろな役割があると思います。中でも特に大事なのが……お体をいたわることかなって」
「だ、だからくすぐったいですって……!」
「栄養のあるお料理を作って、時にはこうしてマッサージもしてあげて……そして……」
「そして……何ですか?」
「うふふっ、たくさんのスキンシップ♥」
真天先輩は俺の正面に回り込んできた。
そしておもむろに、唇を重ねてきた。
「んっ、ちゅっ……♥」
「っ……真天先輩……」
「ラブラブなキス、これが旦那さまの、気力体力を保つのに、一番大事……ちゅっ、ちゅうっ……♥」
お湯よりも温かく艶めかしい感覚が口腔に染み渡る。
「唯人くん……あなた……大好き……♥ れろっ、ちゅぱっ、んむっ……♥」
そしてもはや当然のごとく、ふたつの大ぶりの果実をスタンプさせてくる。
バスタオル越しとはいえ、その感触はあまりにも刺激的で。脳の血管が破裂しそうなほど膨脹してしまう。
「ぷはあっ……息が続かない……♥」
唇を離す真天先輩。濡れそぼった顔に夕陽の赤が彩られる。
幻想的に美しく、妖しく、艶やかだった。
「ねえ、唯人くん」
「……」
「唯人くんからも、触ってくれていいんですよ? このおっぱい」
唇は離しても、そこはまだ密着させたままだった。
「い、いや、それは……ダメです……」
「遠慮することないですよ。だってわたしたち愛し合ってるんですから」
真天先輩は俺の手を取った。
そして自ら、その豊満な膨らみに導こうとして――
「お、俺、もう出ますっ!」
「あっ……」
俺は彼女を振り切って浴槽を飛び出した。
「……はああ」
俺はバスローブを羽織った状態で、リビングのソファに体を預けていた。
まだ頭が火照っている……いや、茹だっているような感覚。視界がボンヤリして現実感が危うい……。
「我和様、バスローブ姿もお似合いですね」
狩谷さんがやってきた。俺は問いかける。
「……狩谷さんが、けしかけたんですか?」
「はて、何のことでしょうか」
「真天先輩のアタックが……すごすぎる……!」
それだけ言えば狩谷さんは察してくれたようだった。
「私からは何も申し上げてはおりません。今回の旅行でのお嬢様の行動は、すべてお嬢様のご意志とお考えください」
「……マジですか」
「ご両親に結婚を認めてもらえたのが、よほど嬉しいのでしょう。リミッターが外れるとしても無理からぬこと」
真天先輩は、それほどまでに俺のことを大好きでいてくれている。愛してくれている。
もちろん嬉しいし、それなら素直に受け入れていいのではと思う俺もいる。でも……。
「我和様はお優しい方で、かつ慎重な方とお見受けしております。今のお嬢様のお気持ちと、少々ギャップが生まれているようですね」
「言語化してくれてありがとうございます……」
「ところで我和様、これを渡しておきましょう」
狩谷さんが何か小さなものを差し出してきた。
「興奮に耐えられぬ時お使いください」
手の平にちょこんと乗っかる程度の大きさの、桃色のビニールに包まれた、平べったい袋――
「ここ、これって……!」
実物を見るのは初めてだった。けれど、何に使うものなのかは知っていた。
「奥様から重々言われておりまして。来年の春、お嬢様が大きなお腹で卒業式に出るようなことは、さすがに外聞が悪いと」
「ちょ、ちょっと! そんなつもりは最初からないですって!」
「私個人としては悪くないと思うのですが。学園の皆さんもきっと祝福してくださるでしょうし」
「冗談はやめてくださいよ……」
「ともあれおふたりは、激情に駆られる十代です。もしもの際は、付けるようにお願いいたします」
狩谷さんはそれをしっかりと俺の手に握らせた。
「それでは私は夕食の準備に取りかかりますので。引き続きおくつろぎください」
くつろげるわけがなかった……。




