1-3 真天先輩とドライブ中にイチャイチャ
晴れ渡る夏空の下、鮮やかな深紅の車体は市街地を抜けて国道を走る。
狩谷さんのドライビングは、真天先輩が言ったとおり丁寧で上手いものだった。メイド服での運転というのは道端から見たらギョッとするだろうが。
「はい、あーんしてください」
「あーん……おっ、このチョコ美味しいですね」
「ベルギー産のチョコです。ほら、わたしにも食べさせて♪」
俺と真天先輩はおしゃべりをするだけでなく、お菓子を食べさせ合ったりしていた。
運転席の狩谷さんは、俺たちのイチャイチャにも平然とした様子だ。
「お嬢様、口移しで食べさせるというテクニックもございますよ」
どういうアドバイスだ。そもそもどこで覚えたんだそんなの。WEB小説のラブコメでもそうは見ないぞ。
「あらあらまあ、そんなテクニックが。……もう一個、食べます?」
「は、恥ずかしいですって、人前で」
「おふたりとも、私のことは空気と扱ってくださいませ」
「ほら、こう言ってくれていますし♪」
「……わ、わかりました」
真天先輩が新たなチョコをぷるんとした唇に咥える。
それからゆっくりと俺の唇に近づけて、親鳥が子鳥に食べさせるみたいに……。
「んっ……あぁむっ……ちゅぱっ……♥」
「っ……ふううっ……真天先輩……」
とろけるような味わいが口腔全体に広がっていく。
チョコレート以上に真天先輩の唇がとてつもなく甘い。そして押し付けられる魅惑のマシュマロふたつが、その甘味を増幅させていく……。
「ごくっ……も、もう十分です。ごちそうさまでした」
「どういたしまして。唯人くんの唇、美味しかったです♥」
俺たちのファーストキスはつい先日だったんだけど、何だか三段飛ばしくらいのことをしてしまったぞ……。
「そういえば唯人くん、車の運転に興味はありますか?」
真天先輩はすっぱりと話題を切り替えてきた。
「んー、情けない話なんですけど……ちょっと怖いなって気持ちがあって」
「怖い、ですか……いえ、情けないということはありませんよ。下手をすれば大きな事故になってしまいますものね」
「実は昔、母親の運転する車が事故を起こしたことがあって。人身事故じゃなくてガードレールにぶつかるってものだったんですけど」
幸い、母にも俺にも怪我はなかった。車の修理代は高く付いたようだが、その程度で済んだ。
しかし母はそれ以来、すっかり車の運転が怖くなってしまったようで、めったに乗らなくなってしまった。父も運転できる人だったので日常生活には困らなかったが……車の運転は怖いものなんだと、幼心に刻まれてしまったのだ。
「車を運転できたほうが、いろいろ便利なんでしょうけどね。どうしようかな」
「無理して免許を取ることはないですよ。わたしがいるじゃないですか」
真天先輩は張り詰めた胸の前でグッと両拳を握ってみせる。
「わたしもそろそろ免許を取れる歳ですけど、決めました。唯人くんの足になります!」
「ほ、本当に?」
「狩谷さんの運転する姿を見て、カッコいいなって前々から思っていたんです。学園を卒業したら時間もできるでしょうし、すぐに免許を取りますよ」
「ありがとう真天先輩! すごく助かります」
やがて車は海沿いの道に出た。
「ほらほら、綺麗ですよ唯人くん!」
陽光を受けてきらめく蒼海が、車窓いっぱいに展開されている。日頃街中で暮らしている俺にはとても刺激的で、体の内側に爽やかな風が吹き込むような気分だった。
「俺、海にはほとんど行ったことがなかったんです。ガキの頃の旅行で一度あったくらいかな……」
「そうだったんですね。唯人くんはこれから海辺の景色もたくさん書くでしょうから、しっかり取材しておかないと!」
そうだ、異世界ファンタジーに海の描写は付きものだ。その色、音、匂いに至るまでこの旅行中にしっかりと――
「でもまあ、一番は真天先輩との時間を過ごすことですから。取材はほどほどにしますよ」
「……きゅんっ」
わざわざ言葉にして言うケースは初めて聞いた。
「唯人くん、好きっ♥」
「うわっと!」
「唯人くんは理想の恋人ですっ! 大好きっ! ちゅっ、ちゅっ♥」
そして再び大きなたわわを押し付け、キスをねだってくる。
しかし俺はこのとき知らなかったのだ。彼女からのスキンシップは、この程度まだまだ序の口であることを……。




