1-2 真天先輩の刺激的なキャミワンピ
そして二日後の朝。聖川家の庭園にて。
「我和様、おはようございます。本日よりしばらく、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします、狩谷さん」
聖川家のメイド、狩谷さん。今日もクラシカルなメイド服が決まっている。
今回の旅行はこの人が俺たちの保護者的な立場、そして運転手も務めてくれるという。
「真天先輩はもう準備、できてますか?」
「いえ、まだ念入りな準備中でございます。もうしばしお待ちを」
男の俺はスマホと財布と着替えくらいの適当なものだけど、女の子が旅行に行くとなれば準備も手間がかかるのだろう。
少し待つと――夏の妖精が現れた。
「お待たせしました、唯人くん♪」
「ッッッ――!」
真天先輩は大きなリボンの付いた、レディース向けの麦わら帽子を被っていた。幅広の鍔の下から、頭上の太陽にも負けない眩しい笑顔が覗いている。
そして身にまとっているのは純白のキャミソールワンピース。彼女の純粋さを表すような、まるで交じり気のない輝きがあった。
「衣装の色、この白と薄いブルーでギリギリまで迷ってしまって。唯人くんと初めての旅行ですもの」
「す、すごいです……」
完璧な夏コーデはもちろんだが――彼女本人の迫力に圧倒される。
公称Lカップの特盛バストは、ふたつの北半球が剥き出しだった。ほんの少し体を揺らしただけでも地殻変動が起きてしまう。
双子の惑星が作り上げる、どこまでも深く吸い込まれそうな谷間にも目が釘付けになりそう。漫画ではたまに見るが、ちょっとした小物なら収納できるんじゃないだろうか。
(落ち着け、落ち着け俺)
俺はだらしない顔はせず、どうにか頬を引き締める。というのも彼女の両親も出てきているからだ。
「おはよう、唯人くん」
「お、おはようございます! 今回はその、真天先輩と外泊の許可をいただけて……ありがとうございます」
「真天ったら、すごい勢いで頼み込んできたのよ。どうしても唯人くんと別荘に行きたいんだって」
真天先輩のお父さんとお母さん。しばらく前、彼女との交際の許可をもらうために面談して以来だ。
「真天から聞いているけど、いろいろとおめでとう。僕たちとの約束をこうもあっさり果たしてしまうとはね。売れっ子作家まで一直線かな」
「いえ……まだまだ駆け出しですから」
高校生のうちに三冊を出版し、コミカライズもする。
将来、真天先輩と結婚するために自分からハードルの高いことを申し出たのだが、驚くくらいスムーズに叶ってしまった。
「約束を果たしてくれたからには、僕ら夫婦は君たちの仲を認めるつもりだよ」
「それでもやっぱり、専業作家なんて大変だと思うけれど……まあいざとなったら、うちのグループに就職すればいいんだしね? 今は売り手市場なんだし、高卒でも歓迎よ」
「あはは……本当に困った時はそうします」
俺としてはずっと、小説一本でやっていくつもりだ。しかし十年二十年と本当に大丈夫かと心配するのは、一人娘の親としては当然だろう。
「じゃあ、そろそろ出発しなさい。狩谷さん、ふたりのことを頼んだよ」
「はい、旦那さま」
「……こほん。間違いがないように、しっかり監督してちょうだいね?」
「ん………………お任せください」
お母さんの言葉を、狩谷さんは適当に受け流したように見えた。
「では、ガレージから車を出してきますので。門の前でお待ちになっていてください」
言われたとおりに待っていると、深紅のボディで美しい流線を備えた、いかにも高級車という趣のマシンが目の前に滑り込んできた。
「これって、もしかしてベンツ……?」
「ええ、とっても快適ですよ。それに狩谷さん、運転が上手いんです」
真天先輩の恋人になると、凡人では経験できないことがどんどんできちゃうな……。
荷物をトランクに入れてから、ふたりして後部座席に乗り込んだ。実家の車とは座り心地がだいぶ違うように思えた。
「別荘まではどれくらいなんですか?」
「二時間くらいです。おしゃべりしていればあっという間ですよ。……それに、わたしのこともいっぱい見られますよね」
帽子を脱いだ真天先輩が、滑らかな二の腕をそっとくっつけてくる。
加えてたわわすぎる果実がずいっと迫ってきて。
「ちょ、ちょっと?」
「さっきは父と母の前だからって、わたしから目を逸らしがちだったでしょう? もう遠慮することはないですよ♪」
「その通りです我和様。お嬢様の殺人級のキャミワンピ姿、思う存分目に焼き付けてくださいませ」
バックミラーに映るメイドさんの顔は、何だか愉快そうだった。
「さあ、出発進行です!」
元気よく言う真天先輩。かつてないドキドキ旅行のスタートだった。




