1-1 真天先輩との夏休み
「それじゃあ、今回はここまでってことで。いい原稿をお願いしますよタダヒトさん!」
「はい、失礼します!」
担当編集者である早乙女さんとのボイスチャットを終えて、俺は座ったままうーんと伸びをした。
新人小説家のタダヒトこと俺、我和唯人は今、デビュー作発売後最初の打ち合わせを終えたところだった。
「……本当に小説家になったんだな、俺」
季節は夏。ふと窓の外を見れば、俺の心境を表したような青空快晴。グッと両手を握り締めながら、もう何度目になるかわからない喜びに浸る。
異世界ファンタジー好きの、どこにでもいる高校生アマチュア作家。
そんな俺がWEB小説コンテストで受賞したのが今年初頭のことだった。
この約半年間は、人生最大の濃密な時間だったと言っていい。初めての書籍化作業は大変だったけれど、それ以上に有意義だった。
そして先日、受賞作『最強英雄は苦悩する』を上梓することができた。
ありがたいことに発売したその日に重版が決まり、売上は想像を超えていいと早乙女さんは言ってくれている。おまけにコミカライズまで決定してくれた。SNSやネット書店での感想もおおむね良好で、暇があるとついついエゴサーチしてしまう……。
「打ち合わせお疲れ様、唯人くん。どうでしたか?」
執筆部屋からキッチンに移動すると、彼女は料理をしながら笑顔で振り返った。
「第二巻のプロットOK出ました。あとはもう書くだけです」
「わあ、よかった! わたしもまたサポート頑張りますね、妻として♥」
聖川真天。俺が通う学園の三年生で、生徒会長。
そして――俺の通い妻になってくれている人。
小説家デビューできた以上の、夢かと思うような高揚感がまだ胸の中に残っている。
「打ち合わせは明日もあるんですよね?」
「はい。今までと違う出版社だけど、上手くやっていけたらいいな」
「きっと大丈夫ですよ。それに唯人くんはこれから、取引先をどんどん増やしていかないと!」
俺はコンテスト受賞だけで満足してはいなかった。
書籍化作業と並行して執筆した新作『勇者は語り継がれたくない』。これを次の書籍化作品にするのだと意気込んでいたのだが、幸いこの目標も叶ってくれた。『最強英雄は苦悩する』とは違う出版社からのオファーだったのだが、早乙女さんは快く応援してくれている。
景気の悪いニュースもいろいろと飛び交う出版業界。けれど俺は新人作家としては申し分ないスタートを切れたと思う。
それもこれも、真天先輩の助けがあったからだ。
「よしっ、お夕飯完成しました!」
「いつもありがとうございます、真天先輩」
「どういたしまして。美味しく食べてくださいね♪」
真天先輩は数年前から俺の小説のファンだった。
俺が偶然にも同じ学園の後輩だと知った彼女は、それはもう積極的なアプローチをしてきて。
振り返ると長いのだけど――いろいろなことがあった結果、俺と真天先輩は将来結婚の約束をするほどの恋人同士になった。
夏休みに入ってからというもの彼女は毎日俺の家に通って、料理をはじめあれこれと世話をしてくれる。さすがに夜になるまでには帰ってもらうのだが。
「ところで唯人くん。この前に言った、別荘でお泊まりのことですけど」
真天先輩の淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、そんな話題になった。
「ご両親から許可、もらえたんですか?」
「未成年だけでは許可できないけど、狩谷さんが付き添うならいいって言ってくれました」
「あはは、さすがにふたりきりは無理ですよね」
真天先輩の聖川家は、代々実業家だ。要するに超お金持ち。
海辺の別荘なんてのも所持しているのだが、せっかくの夏休みだから一緒に泊まりに行こうと誘ってくれていたのだ。
「お仕事の予定は、明日の打ち合わせの他には?」
「特にないです。明後日以降ならいつでも行けます」
「じゃあ明後日出発にしましょう! ああ、すっごく楽しみ♪」
喜色満面の年上彼女を見つめながら、俺はドキドキバクバクが止まらなかった。
海辺。すなわち水着。
学園創立以来の美少女とも言われる真天先輩の水着姿を拝める――この世に俺ほど幸せな男子高校生がはたしているだろうか? いや、いない!




