5-8 真天先輩と生徒会でPV撮影
「はい、それじゃあ自己紹介お願いします」
「聖川真天、三年生です。生徒会長をやってます♪」
「これが一回目の撮影になるけど、今の心境はどう?」
「ちょっと緊張しますね……何しろこういうのは初めてですから」
「全国にバッチリ顔が出ちゃうよ。恥ずかしい?」
「ちょっとは恥ずかしいです。でも、精いっぱい頑張りますので」
「それにしても真天ちゃん、胸おっきいよね。何カップ?」
すかさず俺は口を挟んだ。
「こらこら秋口先輩! 冗談はそのへんにしてください」
「むふふ、ちょっとこういうのやってみたかったのよ~。今のはちゃんと消すから」
秋口先輩は笑いながら試し撮りの動画を削除した。
月曜日の放課後。俺と真天先輩はSNSの生徒会アカウント用PVの作成に臨んでいた。
撮影担当は副会長の秋口先輩だ。ビデオカメラは生徒会の備品で、操作は手慣れているらしい。
「女子高生のノリってのは、いつの時代も変わらないっスねぇ」
この場には担当編集者の早乙女さんも同席している。
出版社用PVを作成するための真天先輩宛ての契約書を持ってきてもらったのだが、どうせなら生徒会用PVの撮影現場も見たいというので校内までお越しいただいたのだ。
「我が校の至宝、聖川先輩が全国デビューか……胸が熱くなるな」
生徒会の男子メンバー、書記の大野くん(名前は今日初めて知った)は腕組みしながら感慨深そうだった。
「我和くん! こうして聖川先輩を引っ張り出すからには、絶対に成功してくれよ」
「うん、もちろんだよ」
いよいよPV撮影本番がスタートした。
今回は初回だから、ごく簡単な自己紹介だけだ。まずは俺ひとりがビデオカメラの前に立つ――
「み、皆さん初めまして。今度小説家デビューすることになったタダヒトといいます。えー、こ、今回はうちの学園の生徒会で、自分のことを宣伝してもらえるというので、こうして動画を撮影してもらっています」
緊張すまいと思っていたけど無理だった。こういうの向いてないのかな俺。
「こ、今後定期的に、SNSの生徒会アカウントで動画がアップされると思うので、ぜひチェックしてみてください……」
そして、真天先輩が俺の隣に入ってくる。カメラに向かってとびきりの笑顔を向けた。
「皆さん初めまして! わたしは聖川真天といいます。唯人くんのひとつ上の三年生で、生徒会長をしています! この度わたしが、唯人くん応援団の団長を務めることになりました!」
真天先輩は一息入れてから、言葉を継いでいく。
「わたしはもう何年も前から、投稿サイトで唯人くんの小説を読んでいたんです。とても素晴らしい才能の作家さんだと思っていたんですが、彼が小説コンテストで入賞して……受賞者のことがニュースになったんですね。そうしたら、あらあらまあ! 彼はわたしと同じ学園の後輩だっていうじゃないですか。こんな偶然があるでしょうか?」
カチコチの俺と違って、淀みなくしゃべる真天先輩。この動画が、自分の姿が世界中に配信されることなんて、まるで気にしていない様子で。
「そんなわけでわたしたち生徒会は、唯人くんを全面的にバックアップすることになりました。デビュー作『最強英雄は苦悩する』の発売まで、いろいろな動画を投稿していきたいと思っていますので、ぜひぜひフォローをよろしくお願いします♪ ほら、唯人くんも」
「フォ、フォローよろしくお願いします!」
ふたりして胸の前で両手をヒラヒラさせる。そのまま数秒……。
「はい、オッケー! んじゃパソコンで確認してみるね」
秋口先輩が撮影したての動画をノートパソコンに移した。それを全員で確認して……。
「これはバズるわー。間違いないわー。こんな美少女、他にいる?」
秋口先輩は自分のことのように勝ち誇った顔をしている。
「しかし我和くん本人じゃなくて、聖川先輩のビジュアルで宣伝するというのが透けて見えてしまうのは、どう受け止められるかな」
と、大野くん。
まったく反論のしようがないが、これが俺たちの広報戦略だ。
「これこそが、AIには真似のできないことっスよ。AIの動画生成能力がいくら優れていても、やっぱり本物のディテールにはまだ敵いません。そして聖川さんはタダヒトさんの先輩で、何年も前からずっとファンだった。推しの可愛い後輩のために自ら体を張って宣伝するっていうナラティブは強いっスよ。あ、ナラティブってのは本人の経験とか感情を織り交ぜたストーリーっていう意味っス」
早乙女さんが早口で解説する。
そう、これはただの宣伝動画じゃない。俺たちの関係を武器にした、物語でもあるのだ。今日撮ったのは、そのプロローグに過ぎない。
出版界でもおそらくほとんど前例がないだろう。どう受け止められるかは不透明だけど――とにかくこの方向でやりきってみせる!
「よっしゃ、SNSに投稿するよー」
秋口先輩がキーボードを叩いてテキストを書き、動画を貼り付け、SNSにポストした。
《#拡散希望
我が校から小説家誕生! 二年生の「タダヒト」さんを応援してください。
そして彼が後輩とは知らず、投稿サイトで何年も前から推していたという生徒会長の聖川真天さん。
偶然出会ったふたりの動画にこれから要注目です!》
「で、リプライには我和くんの小説のページを貼り付けて、と。これでOKかな」
生徒会のアカウントをフォローしている人は、まだごくわずかだ。動画を投稿したところで拡散されなければ意味がない。
「俺のアカウントでリポストしますね。フォロワーは数百人程度なので、たいしたことはないんですけど」
スマホを取り出し、ちょちょいと操作する。
受賞作の書籍化作業や新作の執筆で忙しかったし、SNSへの書き込みはあまりしていなかったけど、これからはガンガンやっていかないとな。
「んじゃ、うちの出版社のアカウントでもリポストするっス」
早乙女さんも同じようにリポストしてくれたのを確認する。
「どれくらい拡散されるでしょうか……」
いざとなると少し不安そうな真天先輩。その背中を秋口先輩がバンバンと叩いた。
「大船に乗った気でいなさいよ。これは絶対バズるから!」
その夜。夕食を食べ終えてのんびりしていると真天先輩から電話がかかってきた。
『唯人くん! SNS見ましたか?』
「いや、実は帰ってから全然見てなくて。気を取られすぎてもいけないと思って」
『ですよね。わたしもだったんですが』
どれくらい反応があっただろうと気になってはいたが、意識的に見ないようにしていたのだ。今夜中に一度はチェックしようとは思っていたのだけど。
『今すぐパソコンで見てください! すごい拡散されてます!』
「ええっ?」
俺は大急ぎでパソコンを見た。SNSの例のポストを確認すると……。
「い、一万いいね……?」
『リポストも千以上ですよ!』
信じられなかった。たったの数時間で?
しかも更新する度にその数字が少しずつ、リアルタイムで増えていた。
《なんだこの斬新な宣伝は!》
《先輩めっちゃ美少女! うらやましすぎる》
《デッッッ》
《こんな先輩が欲しい人生だった》
《せっかく釣られたから小説読んでみるわ》
引用リポストを見てみるとこんな投稿であふれていた。
「どこで火が付いたんだろ……?」
『唯人くんと相互フォロワーになっている先輩作家さんたちですよ。皆さんこれは珍しいと思って拡散してくれたみたいです』
俺と相互フォロワーになっているのは業界の先輩が中心だ。中にはありがたいことに数万フォロワーの人気作家もいる。
その人たちが、まだデビュー前の無名新人に過ぎない俺のことを、こんなにも広めてくれて……?
『アカウントのフォロワー数もグングン伸びてますよ!』
それは生徒会アカウントだけの話じゃない。俺自身のアカウントのフォロワー数もすさまじい勢いで伸びている。
「あ、あはは……」
思わず笑ってしまった。
そこらの芸能人やアイドルではとても敵わない真天先輩のビジュアルだ。そりゃ多少は自信はあったけど……こうまでわかりやすい結果が出てくれるなんて。
『作戦、大成功ですね! さっき秋口さんからメッセージが来たんですけど、明日も動画撮ろうって! いっそ毎日撮ろうって!』
「ま、毎日ですか?」
『だってそれくらいにバズってますもん! わたしもさらにやる気が出てきました♪』
俺はその後、仕事もせずにSNSに齧り付いた。
トレンドにも入ったおかげで、いいねもリポストもフォロワー数も、終わりが見えないと思えるほど伸びていった。
もちろん話題の中心は、本来主役の俺ではなく真天先輩。こんな逸材が眠っていたのかと、常に有象無象のネタでひしめくSNSに大旋風が巻き起こったのだ……。




