5-4 真天先輩の実家で③
俺は軽く呼吸を整えてから、まずは順序立てて答えていく。
「AI作品はおっしゃるとおり、短編やエッセイだと、もうプロ作家並みの実力を示しています。先日も投稿サイトで騒ぎになったのはご存じだと思います」
「ええ。真天から唯人さんのことは聞いていたから、これから小説家は大変ねって他人事のように思っていたの。……まさかこうしてボーイフレンドとして現れるなんて、想像もしていなかったわ」
他人事だと思っていたら、そうも言っていられなくなったのだ。
親としては当然、娘がいかにも将来不安定な男と付き合うのは気がかりだろう。
「今後のAIなら長編小説もあっさり作れてしまう――俺も正直、同意見です。脅威に感じていないと言ったらウソになります」
「ふうん? 現実的なのね」
俺の受け答えに満足しているのか、いないのか。
そこを気にしても仕方がない。俺はあくまでも正直に、真摯に言葉を紡がなきゃならない。
そしてもちろん、無策というわけじゃない。
「でも投稿サイトも対策を立てています。『通常の創作活動では考えられないような膨大な量を短期間で投稿する行為』はすでに禁止されました。AIの粗製濫造を防ぐ目的ですね。実際にそういったことをしていた人は、だいぶ投稿サイトから離れたようです」
「へえ? ルールを守って投稿すればいいだけじゃないのかな。AI自体は禁止していないんだろう?」
お父さんが聞いてくる。俺は間髪を容れずに答えた。
「お金にならないからです」
俺はやっていないのだけど、投稿サイトにはロイヤルティプログラムというものがある。自分の小説内に広告を設置することで収入を得られるというものだ。
AI小説の大量投稿は、それをあてにしたものだという指摘があった。しかしこれが即座に対策されたわけだ。
大した収入にはならないから、さっさと撤退――全部が全部と言わずとも、そうした人はかなりいたんだと思う。
「そしてつい先日、コンテストに応募する際はAIを利用していることを明記しなければならないというルールもできました」
「あら、それは知らなかったわ」
と、お母さん。
どうやらふたりとも、俺や真天先輩のように四六時中WEB小説の話題を追っているわけではないらしい。忙しいんだから当たり前だな。
「AIの利用っていうのはいろいろあります。生成された文章をそのまま使うとか、プロットを作ってもらうとか、アイディア出しをしてもらうとか。いずれにしてもアマチュアで好きに活動するなら、投稿サイトもそこまで問題視はしないんです。でもお金の絡むコンテストはそうもいかない。おそらくですけど――アイディア出し程度ならともかく、文章の大半を生成AIに依存しているような作品は、出版社側も選びづらい」
担当編集者の早乙女さんも言ってくれたのだ。「そんなもんはとてもじゃないけど出版できないっスね。どこでもそうだと思いますよ」と。
AI利用を明記した作品は、ランキング等でシステム上不利になることはないとも投稿サイトは明言している。
しかしシステムから先の、人間が選考するフェーズにおいては、話は違ってくるということだ。
「要するにAIがどれだけ優れた小説を生成できるとしても、実際の商売にはなりづらい方向に向かってるんです」
「唯人くんのこれからのお仕事に、実はそこまで影響はないんじゃないか――この数日で、わたしもそう思うようになりました」
フォローしてくれる真天先輩。ふむ、とお父さんが頷く。
「うちの従業員には、AIを使いこなす若手も多くてね。AIのおかげでプログラミングの効率がグンと上がったという報告がある。でも小説はそうじゃないわけか」
「はい。イラストもそうですけど、創作分野でのAIへの忌避感はまだ当分なくならないはずです。クリエイター本人がいいと思っていても、出版社はビジネスだからリスクを多めに見積もるんです」
当初の緊張はだいぶ解けてきた。事前に用意していた言葉がすらすらと出てくる。
もしかしたらこのまま、一気に納得させられるかも――そう思っていたのだが。
「どうかしら。私はちょっと疑問です」
お母さんはピシャリと言った。
「国全体の景気が良くない中で、出版社もますますのコスト削減を迫られるでしょう。そしてリスクは承知で、AIの本格使用に舵を切るところも出てくるはず。たとえば、AIが完璧に仕上げた小説――そんな風に宣伝したらどうかしら? 一般人の食いつきは相当いいと予想するわ」
一般人の、を強調する。
ビジネスの大先輩に主導権が移ってしまったのを俺は感じていた。
「商売っていうのはなんであれ、大衆を相手にするものでしょう? 小説家の場合、出版業界の事情なんてほとんど知りもしない、興味すらない人たちに本を売らなければいけない。AIへの忌避感とか、まあどうでもいいことよ。特にあなたたちよりもさらに年下の、AIネイティブと呼ばれるような世代はね」
ずしりと腹に来る言葉だった。知らずに手の平が汗ばんでくる。
「大事なのは、いかに効率的でインパクトがあるかでしょう。そのふたつで、普通の人間がAIに勝てるかしら?」
きっと、これは正論だ。やっぱりそう簡単にはいかないか。
特にこのお母さんは本心を隠そうともしていない。まだあなたのことは認めるに足りませんよ、と……。
「お父様、お母様」
真天先輩がまっすぐな瞳で両親を見据えていた。
「唯人くんはAIには負けません」
「……それは気合いや根性で乗り越えるという話かい?」
お父さんは娘の発言の意図を掴みかけていた。お母さんも同様だ。
「真天、どういう意味なの?」
柔らかく微笑むと、真天先輩は胸を張って答えた。
「なぜなら、わたしがいるからです。AIでは決してできないことが、ふたり一緒ならできるから」




