4-9 真天先輩と編集者を交えて①
「っ……! こ、この人がっスか?」
目を皿のように丸くして、口をあんぐりさせて、早乙女さんは驚愕していた。
「俺のひとつ上の先輩で、生徒会長の――」
「はじめまして。聖川真天と申します」
放課後、俺は自宅に早乙女さんを招いていた。昼休み中に連絡したところ、スケジュールは問題ないということで駆けつけてくれたのだ。
そしてもうひとり、真天先輩も同席させている。
「いつも主人が――じゃなかった、唯人くんがお世話になっております♪」
「な、なるほど。確かにいいお声っスね……」
「まずはコーヒーをご用意しますね。おくつろぎください」
豆から挽いた新鮮なコーヒーを淹れてくれる真天先輩。その後ろ姿を早乙女さんは不思議そうに見つめる。
「ここ、タダヒトさんの家なんスよね?」
「はい。でも真天先輩にいろいろ手伝ってもらってて」
ほどなくしてコーヒーが運ばれてくる。早乙女さんはそっと一口飲んで――
「う、美味い……! 僕はいつもインスタントなんスけど、こりゃケタ違いだ」
「お気に召してよかったです。唯人くんもいつも美味しい美味しい言ってくれるんですよ」
「タダヒトさん、こんな風に聖川さんに普段からお世話されて……?」
「学校があるからいつもは土日限定なんですけど、今日は生徒会の仕事を休んでもらって」
「これもある意味、生徒会のお仕事ですよ。唯人くんのデビュー作を盛り上げようってお話なんですから」
「と、とりあえずおふたりの関係、一から詳しく聞かせてくださいっス……!」
俺は真天先輩との馴れ初めから、すべて余さず説明した。
もちろん、すでに恋人同士であることも。
「ずっと応援していたWEB小説家が実は同じ学校の後輩で、たちまち意気投合して、生活のサポートをして、お付き合いを始めちゃって? なんてラノベっスかそれ!」
「俺も自分で言ってて不思議です……」
「人生って、こういうこともあるものですよね。うふふっ」
真天先輩はひたすらゴキゲンだ。早乙女さんはまだ半信半疑であるように目をパチクリさせている。
「感動してるっスよ僕は。そこらの小説よりもよっぽど衝撃的なことを目の当たりにしてるっス。リア充爆発しろ――ってのはだいぶ古いっスかね」
「それで仕事の話なんですが……」
「この聖川さんを起用したい。それがタダヒトさんの希望ってことで間違いないっスか」
「はい。できることなら」
俺は早乙女さんに、デビュー作のプロモーションビデオに起用したい人がいると伝えていた。
もちろん、ここにいる真天先輩のことだ。
「無名だけど実力派の声優さんにお願いするってのが無難でしょうけど……お聞きの通り、真天先輩もすごくいい声をしてて。だったらいっそ、プロでもよく知らない声優さんより、誰よりも俺の小説に思い入れのある人にやってもらいたいなって」
「聖川さんは演技やナレーションの経験があったりするんスか?」
「いいえ、まったく。だから唯人くんがそんな提案をして驚いているんですが」
真天先輩は声がいい。
ただその一点だけで、俺はだいぶ無茶な提案をしている。
けれど、生涯ただ一度のデビュー作のプロモーションなんだ。俺がとことん納得できる形でやってみたいんだ。
「無名の声優を起用するよりさらにお安く抑えられそうというのは、魅力的っスね」
「ええ、そういうメリットもあるかなって」
「いや本当に宣伝に使えるお金が限られてて申し訳ないっス。コンテストの受賞作は他にもあるもんで」
他のコンテスト受賞作――俺の同期の作品たち。それらも同じように、限りある広告予算の中で頑張ろうとしている。
どれも報われてほしい。しかし無名の俺たちは、独自の工夫が必要だと思う。
「それで、どうでしょう? 真天先輩を起用するっていうのは。同じ学園の先輩に声を当ててもらったっていうのも公表して。そしたら、もしかしたら共感を得られるかなって」
「ふむ、そういう計算もしているわけっスか」
早乙女さんは残っていたコーヒーを飲み干すと、腕組みした。
「上が何と言うかはわからないっスけど……僕はアリと思うっスよ」
「本当ですか!」
「誰もが知る巨匠のアニメ映画の主役に、ド素人の映画監督が抜擢されたなんて例もあるっス。しかしこれが、意外といい声だったと評判があったくらいで」
「もし起用していただけるなら、わたし全身全霊で頑張ります!」
真天先輩はきっぱりと言ってみせた。
「演技のこともナレーションのことも、本当に素人です。でも、唯人くんの小説を一番に知っているのはわたしだって自負しています。彼のテキストを、きっと心を込めて読み上げますから。それに、学園でも全面的にバックアップします!」
「学園でも?」
「生徒会の公式アカウントを作ったんです。そこで唯人くんの小説も宣伝してあげたいなって」
自分のスマホを見せる真天先輩。その公式アカウントが表示される。
開始したばかりで宣伝もろくにしていないからだろう、フォロワーは一桁だった。というか俺もいま初めて知った。
「俺のアカウントからもフォローしときますね」
「わあ、ありがとうございます♪」
フォロワーがひとり増えた。これをもっともっと増やせればいいが……。
「……ちなみにこのアカウントで、どんな宣伝をするつもりっスか?」
早乙女さんの問いに、真天先輩はスムーズに答える。
「簡単なところだと、出版社の投稿を引用リポストするとか、小説の実物ができたらその写真を載せるとか。工夫するなら、唯人くんの独占インタビューをしちゃうとか。公式を差し置いてそういうことしちゃってもいいんでしょうか?」
「専属契約を結んでるわけじゃないですし、まったく大丈夫っスよ。むしろどんどんやっちゃってください」
「それはよかった。唯人くん、そのうち顔出し突撃インタビューさせてもらいますね♪」
俺の特に面白くもない顔は、すでに授賞式の時に全国に報道されてしまっている。また出したところでどうということはない。
「うん、宣伝になるなら何でもやりますよ」
「顔出し……か」
早乙女さんの目がキラリと光った。
「おふたりとも。いっそのこと、もっと大胆なことをやってみないっスか?」




