4-8 真天先輩と宣伝の相談②
その翌日。俺はいつものように生徒会室で真天先輩と昼食を摂っていた。
「ごちそうさまでした! 今日のも美味かったです」
「お粗末様でした。唯人くんは好き嫌いがなくて作り甲斐があります」
おかげで活力がグングンみなぎってきた。これで午後も元気に乗り切れそうだ。
「真天先輩の手料理を食べるようになってから、体調がいい気がするんですよ。いやそれまでが悪かったわけじゃないんですけど、こう……さらに元気になってるっていうか」
「作家さんもやっぱり体が資本ですよね。できるなら毎食お世話してさしあげたいんですが」
「ま、毎食ですか」
「早くそんな日が来ればいいなあって。唯人くんはそう思わないんですか?」
それは必然的に……彼女と同棲ということになるのではないだろうか。
先日恋人同士になったばかりだというのに! そんなことがあっていいのだろうか?
「お世話するのは、お食事だけじゃなくて……他にもいろいろ♥」
「……っ! か、からかわないでくださいよ」
「んふっ、何を想像したんですか? 先輩に言ってみてください」
ずいっと、そのふくよかにもほどがある胸部を接近させてくる。俺には触れないギリギリのところまで。
「言いませんったら!」
「どんなことを言われても、わたしは受け止めるつもりでいますのに」
「もう勘弁してください……」
「唯人くん、かわいい♥」
「と、ところで! そちらの家ではどんな感じですか? 俺の話題とか出てます?」
恥ずかしいので無理矢理話題を切り替えた。
「狩谷さんとはあれ以来、ちょくちょく話していますよ。唯人くんとのこと」
聖川家メイドの狩谷さん。キリッとした顔つきを思い浮かべる。
真天先輩のことを実の妹のように思っているというあの人には、俺たちの関係を知られている。幸いなことに俺に対しても、そこそこ好意的らしい。
真天先輩との仲も応援すると言ってくれている。しかしより進展させるには、主人――つまり真天先輩の両親に直接会い、交際の許しを得ることが不可欠だとアドバイスをもらった。俺が聖川家を訪問する日を、今は静かに待ってくれている……。
「ご両親は……? 俺たちのこと、まだ知らないはずですよね」
「さてさて、娘にいい人ができたと感づいているかもしれませんが……わたしには何も聞いてきません」
「感づいているかもしれない……ですか」
「その上で、わたしからの報告を待っているのではないかなと。あくまで予想ですけどね。直接対面した時にはっきりするでしょう」
その日のために、彼女の両親を説得するための理論を構築しなければならない。
新作小説の執筆も一区切り付いたし、本格的に練り上げていかないと……。
と、スマホが通知音を鳴らした。
「あ、早乙女さんからだ」
「早乙女さん?」
「俺の担当編集者ですよ」
チャットツールのアプリはスマホにも入れている。学校にいる間も昼休みのうちに連絡が来ることもあるのだ。
「とってもプロって感じです! お仕事の連絡ですよね?」
「おっ……? 昨夜相談した件です。プロモーションビデオ、ぜひやりたいっスねだって」
「一歩前進じゃないですか! ……あ、これ守秘義務に触れませんか?」
「厳密に言ったらダメなんでしょうけど……真天先輩は口が固いでしょうし、大丈夫ですよ」
とにかく俺の提案は無事に受け入れてもらえた。
しかし気になることも書かれている。
「ネックは声優さんみたいです。予算の関係で、あんまり有名な人を起用するのは難しいって」
「新人作家さんだと、宣伝にそれほどお金をかけられないんですか……」
「それはしょうがないですよ。向こうも商売ですから」
声優業界のことはよく知らないが、有名でベテランの人は高くて、無名でキャリアを積んでいない人は安い。これくらいは認識している。
プロモーションビデオに起用するとしたら、当然後者になるわけだ。
「でも有名でない声優さんだって、きっとすごくお上手ですよね? 毎日厳しいレッスンとかして」
「うん、そうだと思います」
「唯人くんの小説をしっかり読み込んで、好きになってくれて、心を込めて演じてくれる……そんな声優さんがいたらいいですね。ええ、きっといますよ」
優しい声で励ましてくれる真天先輩。今日だけじゃない。いつだってそうだ。
真天先輩は抜群のスタイルと美貌で評判だけど、俺は声も好きだ。全身に染み入るような癒やし系で、それでいてしっかり芯の通った――
……んっ? 声?
「あの……真天先輩」
「なんでしょう? また何かご相談ですか」
「はい」
「えっ、本当にお仕事のことで?」
ビックリしている真天先輩。
しかしこれから話すのは、もっと驚くようなことだ。




