4-10 真天先輩と編集者を交えて②
大胆なこと……? 俺は早乙女さんの意図がまるでわからなかった。
「単刀直入に言いましょう。聖川さんも顔出しして宣伝してみません?」
「はいいっ?」
俺は思わず声を裏返した。
「あらまあ」
ところが真天先輩本人は、早乙女さんの衝撃的な提案を穏やかに受け止めている。
早乙女さんは続けて尋ねた。
「生徒会のアカウントでは、もともと聖川さんの顔出しは予定していたり?」
「実を言えば、そういう案もあるんですよね。主に副会長がノリノリで。そうしたらPV伸びるよって」
というと、秋口先輩が言っているのか。
もしも真天先輩が顔出しで写真やら動画やらを載せたら。
伸びる。疑いようもなくPVは伸びる。ネット広報の素人の俺でも、それは確信できてしまうことだった。
「ぶっちゃけ、そこらの芸能人よりよっぽど目立つっスよ聖川さんは。後輩のために体を張って宣伝してくれる美少女生徒会長! こんなこと他の作品じゃ真似できません。こちらから頭を下げてでもプロモーションに協力してほしいっス!」
実際にペコリと頭を下げてみせる早乙女さん。
「お顔を上げてくださいな」
「じゃあ、やってくれるっスか?」
早乙女さんは、もうこれしかないという勢いだった。
俺はというと、やりましょうなんてとても言えなかった。
ごくごく平凡な男である俺とは違うんだ、真天先輩は。この素晴らしい女性は……。
「真天先輩……」
「わたし、かまいませんよ」
真天先輩はまたきっぱりと言った。
「ほ、本当にいいんですか? SNSに顔出しなんて……良くないこともあるって知ってるでしょう?」
誰かがSNSで被害に遭うなんて日常茶飯事だ。
有名人も一般人も関係ない。……とはいえ、真天先輩のような美人ほどトラブルに見舞われる確率は高くなる。
心ないコメントはもちろん、未成年にはとても見せられないようなコメントだって投げかけられる。
いくら宣伝のためとはいえ、大切な人の安全を引き換えにするなんて――
「SNSは慎重に使わなければならないことは、もちろん承知しています。しかし虎穴に入らずんば虎児を得ず。そうすることで唯人くんの小説が注目を浴びてくれるのなら、喜んでやります!」
優しくも凜々しい、すでに決意を固めている表情だった。
そうだ、真天先輩はこういう人なんだ。俺のためなら何だってしてくれる――
「上とも相談しなきゃいけないんで、この場で正式決定というわけにはいきませんけど、その方向で進めていいんスね?」
早乙女さんの念押しに、真天先輩は力強く頷く。
「はい、わたしは大丈夫です」
「タダヒトさんもいいっスか?」
この期に及んで即答できない俺だった。
だけど……愛しい恋人がここまで覚悟をしてくれたんだ。それに応えないでどうするんだ。
「……うん、俺からもお願いします」
「了解っス。じゃあまずは上の承諾を取り付けますんで……参考資料として写真一枚いいっスか?」
「ふふっ、なんだかモデルみたいですね」
「聖川さんほどの人なら、スカウトされることもあるでしょ?」
「そういうのは全然、興味ありませんので。それに今のわたしは、唯人くんだけのものですし♪」
「ああもう、僕もこんな恋人が欲しい人生だったっス……」
苦笑いしながら、早乙女さんは真天先輩をカシャッと写真に収めた。
「もちろん個人情報なんで、しかるのちに写真は破棄するっスよ」
「ご配慮、ありがとうございます。いい編集者に恵まれましたね、唯人くん」
スマホをしまうと、早乙女さんは少し顔を引き締めた。
「さて、うちで正式に決定したらの話になりますけど……これはれっきとしたビジネスとしてお願いすることになります。契約書を結ぶってことっスね。聖川さんは未成年だから……いや今は十八歳から成人でしたっけ。お歳は?」
「誕生日は秋ですので、まだ十七です」
「セブンティーン、いい響きっスね。じゃあ未成年ってことで、保護者の許諾が必要になるっス」
「そうですよね。父と母の許しは得ないと」
心臓がドクンと跳ねる。
ここで真天先輩の両親が……!
「親御さんはこういうの、許してくれそうっスか?」
「許しをもらえるように、必ず説得します」
「よーし! 会社に戻って、さっそく上にかけ合ってみるっス。僕も必ず説得してみせるっスよ」
意気揚々と帰っていく早乙女さんの背中を見送る。
俺は真天先輩への感謝の気持ちと、まだ申し訳ないという気持ちが混在していた。
「わたしの両親との対面、お膳立てができちゃいましたね」
「……はい」
「わたしはもう、覚悟ができてます。だから唯人くんも、気合い入れてください!」
その瞬間。俺の頬に……今まで感じたことがないような、艶めかしい柔らかさを感じた。
ほんの一瞬触れた唇を、真天先輩はペロッと舐めた。
「気合いが入るように、おまじないです」
そして、どこまでも男心をくすぐる言葉をかけてくれる。
「何もかも上手くいったら……もっといいこと、してあげちゃいますから♥」
上司の承諾を得たと早乙女さんから連絡があったのは、その夜のことだった。




