4-3 真天先輩と作戦の練り直し
比喩ではなく、背筋が冷たくなった。
「そ、そんなことを本当に……?」
『冗談半分で言っただけかもしれません。でも唯人くんにはあらかじめ知っておいてもらいたくて。この話題は絶対に出るでしょうから。実は母は、唯人くんのことも気にかけていて』
「俺のことも?」
『今度小説家デビューする後輩がいるんでしょう? これから苦労が多そうねって。その後輩が近いうちに、わたしのボーイフレンドとして我が家を訪れることはまったく知らずに』
その日はきっと驚かれるだろう。愛娘がボーイフレンドを連れてきたかと思えば、最近話題にしていた――将来に不安がある新人小説家だったというのは。
『作戦の練り直し、しないとですね』
「ん……」
『父と母にわたしたちのことを認めてもらうには、唯人くんはAIに負けないって、わかってもらわないといけません』
「……はい」
『小説家自体もともと不安定なお仕事でしょうけど、今回のAI小説のインパクトは相当に強いです。ふたりとも渋い顔をする可能性は高くなってしまいました。そのためにもこちらの用意するロジックを強化しないと』
「ですね……」
俺は生返事をするばかりだった。
これが俺個人だけの問題なら、どうということはなかった。いかにAI小説が脅威だろうと、自分なりの作品を今まで通り愚直に執筆し、世に問うだけだった。
だけど今は、真天先輩がいる。
奇跡のような巡り合わせで、彼女とお付き合いすることになった。毎日がどれほど彩り豊かになったことだろう。真天先輩がいない日常なんて、もう考えられない。
この関係を、いつまでも大事にしたい。
だから彼女の家族にも認めてもらって、温かく迎えてもらうというのは、絶対条件なのだ――
『まあいざとなったらわたしの両親の意向なんてまるっきり無視して、唯人くんと何が何でもお付き合いするって選択肢もあります。通い妻じゃなくて同棲しちゃって、今まで以上にお支えしますよ』
「……本気ですか?」
『ふふっ、駆け落ちってやつです。すぐ近所の唯人くんのおうちに転がり込むのは駆け落ちとは言わないかもですが』
真天先輩は穏やかに笑っている。軽い冗談のつもりだろうけど、本当にそうなったら困ってしまう。……真天先輩と同棲なんて、そりゃものすごく魅力的ではあるけれど。
「ダメですよ。せっかくの仲のいい家族なんだから、大事にしないと」
『……ありがとう。やっぱり唯人くん優しいですね。大好き』
そのシンプルな言葉は、泣きたくなるくらい嬉しかった。
「俺も……真天先輩が大好きです……!」
『大好き、唯人くん』
もう一度言ってくれる。全身がふわふわしてきた。この瞬間、天に召されてもいいとすら思った。
『ああ、早く明日が来ないでしょうか。唯人くんに今すぐ会いたいです。なんだか胸が張り裂けそうで』
「俺も……早く会いたい。直接会って話がしたいです」
『それじゃあ……今夜はこのへんにしましょうか。おやすみなさい、唯人くん』
「はい。おやすみなさい、真天先輩」
通話が切れると、俺はスマホを放り出し、ベッドの上にだらりと仰向けになった。
「……どうしようか」
真天先輩の両親は俺の存在は認知していても、たぶん俺の小説までは関心を持っていないだろう。そういう話は出たことがないし。つまり真天先輩みたいに無条件で俺を応援するなんてことは、まず期待できない。
俺の元々の作戦はこうだった。まだ受賞以外に何の実績もない新人だけど、高校生のうちに三冊は出してみせる。小説家の目に見える成果として、実際の出版数に勝るものはないだろう。デビュー作が近々出ることは決定しているから、あと二冊の出版を約束する。
もしもそれが叶わなかった時は……自ら身を引く。
勝手にこんなことを言ったら真天先輩は悲しむかもしれないけど、世間的にはまだガキの俺が大人に示せる熱意といったらこれくらいしかないと思っていた。
しかし今回のAI小説騒動で、小説家という職業そのものの未来が危ういと思われかねなくなった。
「背水の陣で頑張ります……それだけじゃダメだ」
俺は小説の登場人物に、常に最悪を想定するのが癖のキャラクターをよく出しているが、これを現実にも適用させる。
相手はそこまで深刻に捉えてはいない、俺の考えすぎだ――そんな楽観は決してしない。
聖川グループという大企業をまとめ上げるビジネスパーソンを、どうやったら説得させられるのか。さらに綿密なロジックを練り上げなければならない……。
「んっ?」
真天先輩からまたメッセージの着信だ。
珍しく写真が添付されていた。
なんだろう。俺はそれを開いて……心臓が止まるかと思った。
「ッッッッ!」
真天先輩の自撮り写真だった。
ピンク色のパジャマ姿だった。
至近距離から撮影された、画面の大部分を占める、あまりにも豊かなふたつの膨らみが迫っている。
真天先輩はブラジャーをしていなかった。
中央の大事な部分は絶妙に隠されている。
パジャマの色も相まって、公称Lカップの真っ白く深い谷間がくっきり強調され、どこまでも俺の視線を吸い込んでいく。
こ、こんなの、ラノベの挿絵でしか見たことがない……!
うろたえていると、追加でメッセージが来た。
追加でメッセージが来た。
【元気になってもらうためにちょっとしたプレゼント♥ 誰にも見せちゃダメ♥】
彼女の思惑通り、俺は元気になった。どこが、なんて聞かないでくれ。




