4-2 真天先輩とAI小説のニュース
――AI小説。
そのワード自体は別に真新しいものでもなんでもない。この数年発達してきたAIが、創作分野でもその能力を発揮していることは周知の事実だ。
けれど、WEB小説のランキング首位というのは今まで聞いたことがなかったし、見過ごせなかった。
俺はいつもの投稿サイトにアクセスした。そしてまとめにあったラブコメの短編ランキングを閲覧してみる。
「……っ?」
ざっと見るだけで、それは確かだとわかった。
首位を獲得しているだけではない。同一アカウントによる多数の作品が、ランキング上位を席巻していたのだ。
「いくつあるんだ……? 十、いや、二十以上……?」
投稿日を見ると、ほぼすべて同日だ。一日違いのが多少ある程度。
事前に数を仕込んでおいて、このタイミングで一斉に放出した……人力でもそんな理屈が成り立つかもしれないが、そんなことをする必然性はない気がする。
俺たちは小説書きは、いや小説書きに限らないと思うが、創作家はまず丹念に仕上げた一作を見てもらいたいと思うはずだ。
いくら注目されたいからって、大量の新規作品を一斉に世に出すというのは、その習性に反する考えではないか。
やはりこれはAIによるもので間違いないんだ。
この事態にはSNSも紛糾していた。
《イラストの次は小説だと思っていたけどついにこの時が来たな》
《人の書く小説はAIなんぞに負けんよ!》
《とか言っている小説家から消えていくんだろうな》
過敏な反応をしているのは、見たところ非クリエイターの人が多いようだが……プロの人たちも少なくないようだ。
《これは真面目にヤバいです》
《誤字探しとかでAIを使うことはあったけど、ここまで普通に読める小説を仕上げてくるとは思ってなかったな》
《投稿サイトはちゃんとAI対策してもらわないと困るよ!》
……みんなどこかで、他人事だったんだと思う。俺も含めて。
このまえ真天先輩と話していたように、すでにAIを使った小説が文芸雑誌に発表されたりもしていたのだ。
この投稿サイトでも、以前から俺の把握していないところでAI小説は少なからず発表されていただろう。それでもここまでの話題にはならず、ランキングでも目立ちはしなかったのだが……AIの進化の速度は恐ろしい。
「……本当に、普通に読める小説だよな」
一通り目を通したけれど、その文章力、構成……これといって大きな破綻はない。むしろこのレベルに達しない小説家志望者なんていくらでもいるだろうと思わせた。
件のアカウントは、AIを使って小説を仕上げ大量投稿していることをすでに認めていた。
その動機は、実にシンプルだった。こんなことがSNSのほうのアカウントで明かされていた。
《読み専だった自分は、昔から小説が大好きでした。できるなら自分でも書いてみたかった。それはどうせ無理だろうと思っていたんですが、今ならAIがある。AIでどこまでやれるか、試してみたかったんです。》
この人は真天先輩と同じく、元は読み専だったらしい。
AIの力を借りて創作活動してみたくなった……それ自体はとても素晴らしいことだと思う。
しかし俺は、率直に言って脅威を感じていた。
いくら短編とはいえ、十も二十も短時間に生成して一気に発表する! どれほど優れた作家でも、とても人力では不可能なことじゃないか。百メートル走で世界一のトップアスリートでも、バイクのスピードには敵わないようなものだ……。
「ん……?」
スマホがメッセージの着信音を鳴らした。
のろのろと確かめると……真天先輩からだった。
【今お話できますか?】
心がざわついた。もしかして、という考えが脳裏をよぎる。
はい、と俺はごく簡潔に返事をした。
それから十秒も経たないうちに、彼女からのコールがあった。
「……真天先輩?」
『ごめんなさい急に。……SNSで話題になっている件、もう知ってますか?』
「AI小説のことですよね。ちょうど見ていたところです」
やはりこの件で連絡してきたのだ。
何のためだろう? 想像通りだとしたら……嬉しいやら、複雑やら。
『唯人くんが不安になっていないかって……』
「はは、やっぱりですか」
『……どう思いますか? そんなあっさり、ランキングを席巻しちゃうなんて』
「いやー、まいったな。俺だってトップを獲れたことなんてないんですよ。3位が最高記録で」
『とは言っても、いま話題になっているのは全部短編ですよね。唯人くんが書いているような長編とはまた違って……』
「そうですけど、それでもトップを獲ったのはすごいことですよ。真天先輩も読んだことあると思いますけど、俺も短編は書いたことあります。全然箸にも棒にもかからなかったですから」
例のAI小説に対しては、やるなあという気持ちもあるし、悔しいという気持ちもある。俺は負けないぞとも思っているが……。
いずれにしても、ランキングに入るほどだ。そのクオリティ自体には感服せざるを得ないというのが今の実感だ。
「そのうち、長編も結構なクオリティで出力できるようになるんじゃないかな……」
『……唯人くん、えらいですね』
「えらいって?」
『AIが勢力を伸ばしても、自分の創作活動には一切関係ないって感じで。頼もしいです』
「いや、脅威には感じてますよ? そんなバシバシ大量に投稿されたら、俺たち人間はたちまち埋もれちゃいますし。投稿サイトはこれからいろいろ混乱があると思います」
『と言うわりには、あまり焦ってはいないみたいですね?』
「驚きはしましたけど、そこまで打ちのめされはしないですよ」
真天先輩の手前、強がっている部分はある。それは認める。
でも、俺はこれからプロデビューするという身だ。上にはベストセラーや人気上昇中の作家がいくらでもいる。真に関心を向けるべきはその人たちのはず。
AI小説も強力な商売敵だとは思うけど、ビビってもいられない。どのみち俺にできるのは書くことだけなんだから。
――そう思っていたのに。
『でも……このことをわたしの両親がどう思うか』
「……真天先輩の親御さん?」
『前にも話しましたよね。聖川グループはAI事業にも携わっているって。当然父も母も、この分野への関心は強いです。今回のニュースのこともすでに耳に入っている……というか、わたしはついさっき母から教えてもらったんですから』
真天先輩がスマホの向こうで、唇を噛んでいるのが感じられた。
『母は言いました。この先、小説家に未来はないかもねって』




