4-1 真天先輩と連休後の昼休み
ゴールデンウィークが明けて、いつもの学園の日常が再開した。
「じゃあここを……我和、答えてくれ」
「はい」
教師に指されてもすぐにすらすら回答してみせる。
「うん、正解。小説のことで頭がいっぱいで勉強に身が入ってない、なんてことはないみたいだな?」
「ふっ、当たり前じゃないですか」
俺は授業中はしっかり集中するように努めていた。
だって俺は、この学園最高の美少女にして生徒会長で名家のお嬢様である聖川真天の彼氏なんだ! 普段の授業くらい真面目にやらないと格好がつかないじゃないか。
そんな俺の変化を敏感に感じ取ったのか、クラスメイトたちも休み時間になると囃し立ててくる。
「タダヒト先生、連休中に聖川先輩との仲は進展したのか~?」
「さあ、どうかな?」
「おっ? なんか余裕が見えるじゃん」
変に嫉妬されることもなく、みんなは俺と真天先輩の仲を見守ってくれているようだった。それが地味にありがたい。
そして昼休み。俺は手ぶらで生徒会室まで足を運ぶ。
「いらっしゃい、唯人くん!」
真天先輩はすでに到着し、弁当箱を用意してくれていた。
いつもと違うのは、もうひとりがいたことだ。
「やっほー、お邪魔してるよん」
真天先輩の友人で生徒会副会長の秋口先輩。楽しそうな顔で真天先輩の隣に座り、同じく弁当箱を用意していた。
「やー、ふたりの時間を邪魔するのは悪いとは思ったんだけどね? どうしてもおしゃべりしたくてさ」
「唯人くん、かまいませんか?」
「あ、うん、大丈夫ですけど」
真天先輩を挟むようにして、俺は秋口先輩の反対側に着席した。
「はい、今日の唯人くんのランチです」
俺の弁当箱が広げられる。ツヤツヤの卵焼きにブロッコリーの和え物に焼き魚に……嬉しい定番メニューだ。
「これっていつも真天が作ってるんだ?」
「低糖質高たんぱく質、これが作家さんにベストな食事なんですよ」
「リクエストに応えた献立ってわけ? すごいね」
箸を進めながら、会話は秋口先輩が主導する。
「で、ふたりってもう正式にお付き合いしてるんだっけ? この前はそこまで聞かなかったけど」
「実は……ふふっ、そういう関係になっちゃいまして。ね?」
「……はい。真天先輩と正式にお付き合いすることになりました」
「マジか、連休中に進展があったってこと? おーおーおめでとう! お祝いにあたしのからあげをくれてやるぜ!」
俺と真天先輩は一個ずつからあげをプレゼントされた。美味しかった。
「そうそう、あたしも我和くんの小説読んでみたよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「読みやすくて面白かった! 小説初心者のあたしでもグイグイいけちゃったよ」
「そうでしょう? 唯人くんの小説は何よりも読みやすいんです。それでいてそこかしこに気の利いた表現や比喩を盛り込んで、まさに小説でしかできないテクニックというのを忘れていなくて。あとファンタジーですけど主人公たちの倫理観が令和的なのもわたしは好みで――」
立て板に水という感じの親友に、秋口先輩はくすくす笑う。
「めっちゃ語るじゃん。本当に好きなんだね」
「大好きです。唯人くんの小説も、唯人くん自身も」
「もうお前ら結婚しろよ~」
「それはさすがに、お互い卒業してからでないと」
今度は秋口先輩、ポカーンとする。
「冗談だったんだけどマジ結婚する気?」
「わたしの将来の夢は専業主婦ですから。……これは言ったことありましたっけ?」
「初耳だよ! うわーそうなんだ! 結婚式には呼んでね!」
話がどんどん大きくなっていた。
つい先日、正式なお付き合いを始めたばかりなのに……け、結婚?
真天先輩は専業主婦になるのが夢だって、確かに以前から言っていたけど……。
「あたしよくわかってないんだけど、小説家ってそんなに儲かるの? パートナーを養えるくらいに?」
「……いや、普通に企業勤めのほうが安定していると思います。ベテラン作家でも働きながら執筆しているって人は大勢いるみたいだし」
「ほーん。じゃあ我和くんもそうするつもり?」
「小説一本でやっていければ、それが理想なんですけどね。だから高校生のうちにどんどん書いて売れていかなきゃ」
「それならあたしも協力してあげないとね! 発売近くになったらクラスの子たちにも宣伝するよ。ポスターも作ってあちこちに張ろうか!」
「いいですね! 生徒会としてそれくらいのサポートはしないと」
弁当を食べ終えて、空の弁当箱を真天先輩に返した。
「明日は何にしましょうか。食べたいものはありますか?」
「今日なかったのだと……そうだ、大豆を使ったのがいいです」
「わかりました。期待しててくださいね♪」
秋口先輩は腕を組んで唸っている。
「しっかし展開早すぎてビックリだわ。近々、お互いの両親にご挨拶に行っちゃったり?」
「わたしはいつでも唯人くんのご実家に伺いますよ。どうでしょう?」
「うちの親のことは後回しでいいです。それよりそちらのご両親が……」
「あたしも応援はしてるけどさー。うちの娘の交際相手は我が家と同格の家柄の者しか認めん、とか言われない?」
秋口先輩は悪気なさそうに言う。
「……それはまあ、俺も懸念してはいますけど。どうなんでしょうそこのところ」
「両親はそこまで前時代的な人間ではないはずですけど……こういうことを話し合ったことはないですから、何とも言えませんね」
真天先輩がこれだけの人格者なのだから、その親も立派な人。今はそう信じるしかなさそうか。
「ともあれ唯人くんの準備が出来しだい、家にお招きしますから。あっ、別に急がなくてもいいですよ」
「はい。でもそうお待たせしませんから」
今の俺は絶好調だ。真天先輩のお父さんもお母さんも、完璧に説得してみせる。俺は娘さんにふさわしい、立派な作家になる男だと。
――そう思っていたのに。
「な、なんだこれ……」
夕食後、SNSを見ていた俺の目にその見出しは飛び込んできた。
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