3-2 真天先輩とホラー映画
『東北地方のとある廃村について』――タイトルそのままに、主人公のジャーナリストは東北地方のとある廃村に向かう。
近頃その廃村で奇怪な現象が発生しており、探索に乗り出したひとりの女性が行方不明になったという噂が立っていた。世の中には廃墟マニアというのが存在するのだが、主人公もそうした界隈に身を置くひとりである。
彼は現地で同じマニアたちと出会い、交流しながら、廃村に隠された秘密に迫っていく……。
(なるほどなぁ)
俺はポップコーンを静かに口の中に放り込み、コーラを飲みながら、鑑賞と同時に分析のようなことをしていた。
インタビュー形式のシーンをちょくちょく挟むのは、ドキュメンタリーらしい手法だ。これは俺の主戦場である異世界ファンタジーでも使えないだろうか?
やがて、起承転結の承あたりに入っただろうか。比較的のんびりだった雰囲気が、徐々に不穏なものに変化していく……。
「……っ!」
「……っ???」
一瞬ビクッとした。恐怖のためではない。
隣の真天先輩が、俺の手を握ってきたのだ。
(真天先輩、何を)
様子を窺うと、真天先輩は緊張感に満ちた面持ちでスクリーンを凝視していた。
怖いけど、目を逸らせない。そんな感じだ。
ええと、こういう状況で男の手を握ってくるというのは、つまり……安心を求めているということで……?
(真天先輩、もしかしてホラーが苦手だったりするのか?)
そんなことは一言も聞いていない。だいたい本当に苦手だったら、この映画は遠慮したいと言ってくるはずじゃないか。他に面白そうな映画はたくさんあるわけだし。
「ひっ……!」
今度はか細い声も漏れて、表情がわずかながら引き攣り、握る手も強くなってきた。けれどもやっぱりスクリーンから目を逸らせない。ちょっと無理をしている感じがする。
……どうやら確定だ。真天先輩はホラーが苦手らしい。
しかし今さらどうにもできない。真天先輩に手を握られるがまま、映画に集中することにした。それからも時折小さな震えが伝わってきて……彼女を守ってあげたいという気持ちにさせられた。
映画はぴったり二時間で終了し、俺たちは映画館を出た。
「ひいん……」
真天先輩は涙目になっていた。
派手ではないが、背筋を這いずり回るような恐怖描写が最後まで続き、ストーリーを初めて知る俺も気の休まる時がなかった。評判も納得の良作ホラーだったと思う。
しかしこの人にとっては、ずっと辛い時間だったのではないか。
「唯人くん、どうでしたかぁ……?」
「俺の感想を聞いてる場合じゃないですよ。真天先輩、正直に言ってください。ホラーは苦手なんですか?」
「わたしはあらゆる物語を愛している……つもりですが、はい。ホラーだけはちょっと苦手でして」
「ちょっとどころじゃなかったように思いますけど」
「はうう……」
ハンカチで涙を拭きながら、真天先輩は申し訳なさそうだった。別に責めているわけではないのだが。
「言ってくれれば、他の映画でもよかったのに」
「唯人くんが見たがっていた映画でしたから……それに、もしかしたらそこまで怖くないのかなって期待もありましたし。結局すごく怖かったですけど」
「そんな、俺に付き合って苦手なものを見ることはないですよ。びっくりしたんですから、いきなり手を握られて」
「い、痛くなかったですか? 爪を立てたりしませんでした?」
痛いほどではなかったが、ちょっと立っていた。真天先輩はそこまで気が回らないほど怖かったようだ。
「せっかくの初デートなのに、最初から失敗しちゃいましたねわたし。ごめんなさい」
「失敗なんてことないですよ。俺は何も気にしてないんですから」
「本当に……?」
「本当ですってば。だからもう謝ったりしないでください」
正直……手を握られたのは嬉しくもあった。
すべすべな手は、とても心地がよかった。女の子の手って、なんであんなに柔らかいんだろう。
何よりもその手からは、俺を頼りにしたいという気持ちがすごく伝わってきて。
その思いに引き続き応えたい。彼女との関係は、どんどん俺がリードしなきゃ。
「次の機会があったら、無難に恋愛ものとかにしましょうか。今日は俺でしたから、次は真天先輩が好きに選んでくれていいですよ」
「わ、わかりました。ホラーじゃなければ、何でもいけますので、はい!」
気を持ち直したようで、真天先輩はいつもの和やかな笑顔になる。
「それにしても……ふふっ、今のうちからもう次のデートのことを考えてくれているんですね?」
「いや、その……そ、それじゃあ食事にしましょうか。何を食べたいですか?」
「ピザなんてどうでしょう? お料理の参考にしたいですし」
「参考って、ピザを家で作るんですか?」
「この前テレビで見て、面白そうだなって思っていたんです。そのうちやってみたいなって」
俺の家でピザ生地を仕込むということか。いろいろ考えるな真天先輩は。
「以前に行ったことのあるピザ屋さんがあるんです。そこにしましょう!」
真天先輩は張り切って言うと、俺の手を取った。今度は爪を立てることなく、そっと包み込むように。




