3-3 真天先輩とピザ屋へ
俺たちは駅前の大型ビルに入り、上層のレストラン階に上った。その一角にイタリア語らしい名前の店があり、真天先輩はいかにも慣れた様子で中に足を運ぶ。……この間、ずっと手を握られたままだった。
「二名様ですか?」
「ええ、二名です」
「こちらへどうぞ」
俺たちを案内する店員は、何だか営業スマイル以上に微笑んでいるように感じた。
席に着き、ひとまずは水を飲む。さっきから妙に喉が渇いていた。真天先輩も一口飲んで唇を湿らせる。
「唯人くんはピザ、お好きですか?」
「好きですけど普段はそうそう食べないですよね。実家にいた頃、親がたまに買ってくるくらいでした。自分で買ったことはあったかな……」
「うちは父が好物にしていまして。家族の誕生日にはデリバリーのピザを必ず頼むんです。どーんと大きいLサイズを」
Lカップの前で両手を広げる。いかん、どこに注目してるんだ俺は。
「聖川家もデリバリーなんて頼むんですか」
「さすがにうちにもピザ釜なんてありませんから。専門店で作ったのを食べるほうが美味しいですよね」
「でも、自分でピザを作ってみたいんですか?」
「もちろんプロの味には全然及ばないでしょうけど、手作りには手作りのよさがあるでしょうし……唯人くんと共同作業できたら、楽しいだろうなって」
「共同作業……」
「お料理は基本的にわたしのお仕事ですけど、たまには唯人くんと一緒にやりたいなと思ってまして」
「そ、そうですよね。いつも任せっきりというのも悪いですし」
メニューを確認する。たくさんの種類があるが、定番はやはりマルゲリータだろうか。名前は何となく知っている。
「マルゲリータって、どういう意味なんですっけ」
「十九世紀のイタリア王妃、マルゲリータが気に入ったことに由来するそうです。具はトマトソースとモッツァレラチーズとバジルの3つだけ。これがイタリアの国旗の色と同じになるでしょう?」
「おお、よく知ってますね」
「以前に調べたことがありまして。素敵なエピソードですよね」
スマホで検索すれば俺もこの場で調べられただろうけど、真天先輩は当たり前のように頭に入れていたのだ。こういうのを見習わないとな。
「でも、ちょっとシンプルすぎるかな……もっとがっつり系のを食べたいな」
「わたしも同じくです。これなんかどうでしょう? 『北国の炭火焼きチキンピザ』」
「いいですねぇ。こっちのシーフードの『地中海ピザ』もいいな。うーん、迷う」
しばらく吟味して、結局その二種類を注文した。来るまで再びおしゃべりタイム。
「唯人くん、執筆は順調ですか?」
「おかげさまで、この連休中にだいぶ書けました。まだ最後まで仕上がってないですけど、本当にあと少しです」
「まあ! 近いうちに読めるんですね。いったいどんな?」
「それは公開されてのお楽しみってことで。……期待を裏切らなきゃいいんですけど」
「唯人くんの小説はいつも面白いですよ。他の人たちもきっと気に入ります。わたしが保証しますとも」
真天先輩はいつもこうやって、俺を褒めてくれて励ましてくれる。
この人の応援があれば、俺はどんなことも乗り切れる。そんな根拠のない自信が湧いてくる……。
「更新は毎日するんですか?」
「そのつもりです。やっぱり毎日の更新が読者を増やす一番の方法みたいなんで」
「読者としては嬉しいですけど、作家としては大変ですよね……」
「まあ、そのためにコツコツ書き溜めていたんで。一巻分でひとまず区切りを付ける予定ですけど、終わりまで更新が滞ることはないかなと」
「公開されたら、わたしがまっさきに応援コメント入れちゃいますね! 一番手は誰にも譲りません」
意気込む真天先輩だが、彼女よりも先に読んでコメントする人もいるかもしれない。
しかし俺自身も、最初の感想は真天先輩からもらいたいと思った。
「じゃあ、完全にサプライズで公開しましょうか。近況にも新作執筆中とは書いてないですし。真天先輩だけに第一話の公開時間を教えれば……」
「嬉しい♪ ぜひそうしてください」
「あ、でも真天先輩いつも長文コメントですよね。読むのは一番最初でも、コメントを書いているうちに他の人が先んじるってことも……」
「気合いで何とかします!」
「気合いですか」
「唯人くんの小説への気持ちは、わたしが一番だって自負していますもの。コメントを書くスピードだって負けませんよ」
体がこそばゆくなってくる。頬がだらしなく緩んでしまう。ああもう、どうしてこんなにも俺の喜ぶことを立て続けに言ってくれるんだろう。
そこへ店員が二枚のお皿を持ってこちらの席にやってくる。
「お待たせいたしました。『北国の炭火焼きチキンピザ』と『地中海ピザ』です」
「わあ、来ました! すっごい!」
テーブルに並べられたピザを見て真天先輩は目を輝かせた。俺の目も輝いていたかもしれない。香ばしくキツネ色に焼き上がった生地、その上に乗ったたくさんの具。メニューの写真で見るよりも豪華に思えた。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「唯人くん、あとでコーヒーを頼みましょうか?」
「そうですね。ホットコーヒーで」
「かしこまりました。お食事後にお持ちしますね。ごゆっくりどうぞ」
俺と真天先輩は、いざピザカッターを手に取った。




