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聖母バフが強すぎる、隠れ里へようこそ~魔王軍を殲滅した最強の娘たちが、実家でママの『あーん』を待っています~  作者: 寝不足魔王


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第5話:勇者、お小遣い制になる。お手伝いポイントを稼げ!

 魔王を倒し、世界を救った英雄には、相応の対価が支払われるべきである。

 だが、隠れ里『聖母の箱庭』において、その「対価」の定義は一般的な常識から大きく逸脱していた。


「ママ、ずるいよ! あのおじさん(元盗賊)たちには、あんなにたくさん金貨をあげたのに!」


 アリアが、掃除機の代わりに魔法の風を操って廊下をピカピカにしながら、サツキに詰め寄った。

 昨日、賞金袋を「再出発の支度金」として手渡されたガリたちは、泣きながら町へ買い物に走っていった。それを見送ったアリアたちは、今、猛烈な「お買い物欲」に駆られていたのである。


「あらあら、アリアちゃん。あのお金は彼らの将来のためよ。……でも、そうね。あなたたちも、自分でお金を管理する練習をしたほうがいいかしら」


 サツキは、年季の入ったタンスの引き出しから、手作りの小さな冊子を三冊取り出した。

 表紙には、それぞれ『ありあちゃん』『るなちゃん』『せしるちゃん』と、温かい手書きの文字で名前が書かれている。


「これは……魔導書? 禁断の契約書ですの!?」

「いいえ、お小遣い帳よ。……いい? あぶく銭は身を滅ぼすわ。だから、あなたたちは今日から『月額定額制』でお金を渡します」


 サツキが三人の前に差し出したのは、可愛らしい刺繍入りの巾着袋。

 中には、磨き抜かれた銀貨が三枚と、銅貨が数枚。

 王都の高級レストランなら前菜一皿も頼めないような端金だが、サツキの「はい、今月分よ」という笑顔と共に手渡された瞬間、その硬貨は伝説の魔石以上の輝きを放ち始めた。


「ぎ、銀貨……三枚……。ママからの、直接の、給付……ッ!」


 アリアが、震える手で銀貨を捧げ持つ。


「……戦略的、資産運用。……ママのお財布との、直接的な、リンク。……至高」


 ルナが、無表情ながらも頬を真っ赤にして銀貨をじっと見つめる。


「お母様から『管理』される喜び……! これこそが、私たちが求めていた真の報酬ですわ!」


 セシルに至っては、もはや拝む勢いだ。

 サツキは、その様子に苦笑しながら、さらに一枚の紙を壁に貼り出した。


「もし、もっとお小遣いが欲しかったら、この『お手伝いポイント表』に従って頑張りなさいな。……あ、シロちゃんは、お金はいらないわよね?」


「きゅうっ!(当たり前だよ! 僕はママの愛があれば、銀貨なんていらないもん!)」


 サツキの膝の上で、シロが勝ち誇ったように喉を鳴らす。

 シロは知っているのだ。自分は「お金」という媒介を必要とせずとも、ママから直接「おやつ」や「ブラッシング」を引き出せる特権階級であることを。


(ふふん、お姉ちゃんたち。銅貨一枚のために必死に働く姿を、特等席で見せてもらうよ)


「この白い塊……! 見てなさい、私、今日中に銀貨もう一枚分稼いでみせるんだから!」


 アリアの瞳に、魔王と対峙した時以上の闘志が宿った。


 その直後。隠れ里は、かつてない「家事無双」の戦場と化した。


「ママ! お庭の草むしり、終わったよ! ついでに、裏山の魔物も『草』だと思って全部抜いてきた! ポイント、ポイント頂戴!」


「あらあら、アリアちゃん。お山まで行かなくていいのに……。はい、丁寧にお仕事したから、銅貨二枚分ね」


「やったぁあああ! 銅貨二枚ゲット! ママ、次は何!? お皿洗い!? 一秒で終わらせるよ!」


 アリアが「神速」のスキルを、茶碗の汚れを落とすためだけに全振りする。

 一方、セシルは聖女の神聖魔法を「洗濯物の除菌と消臭」に極限まで圧縮していた。


「お母様! このシーツの白さをご覧ください! もはや光を反射して、見た者の視力を回復させるレベルですわ! これは、銀貨一枚分の価値があるのではなくて!?」


「ふふ、セシルちゃん。真っ白で気持ちいいわね。でも、やりすぎは布を痛めちゃうから、銅貨三枚で我慢してね」


「三枚……! お母様の評価、三倍……! ありがたく頂戴いたしますわ!」


 そんな狂騒の中、賢者ルナは、食堂の椅子に座ったまま、一点を見つめて固まっていた。

 彼女の目の前には、サツキが置いた小皿。

 そこには、昨日の夕飯で「魔法の転移」を試みて失敗した、あの『オレンジ色の悪魔(人参)』のグラッセが乗っている。


 壁のポイント表には、こう書かれていた。

 【人参完食ミッション:銀貨一枚(特別ボーナス)】


「…………っ」


 ルナの額から、大粒の汗が流れる。

 銀貨一枚。それは、アリアが庭を更地にし、セシルがシーツを聖遺物化しても届かなかった、高嶺の花。


「ルナちゃん、無理しなくていいのよ? 残しても、お小遣い帳に『残しちゃった』って書くだけだから」


「……っ。……ママの、お小遣い帳に、……汚点。……それは、死よりも、重い」


 ルナは震える手でスプーンを握りしめた。

 シロが横から念話で追い打ちをかける。


(お姉ちゃん、やめときなよー。人参なんて、僕が食べてあげようか? その代わり、ママの『あーん』は僕のものだけど)


「……白い塊。……黙れ。……私は、……ママの、一番の、良い子に、……なる!」


 ルナは目を剥き、人参を口に押し込んだ。

 噛み締めた瞬間、猛烈な「素材の味」が襲いかかる。だが、同時にサツキが優しく背中をさすってくれる手の温もりを感じた。


「……ん、……ごくん。……たべた。……ママ、……たべた、よ」


「まぁ、ルナちゃん! すごいわ、偉かったわねぇ!」


 サツキが、ルナをぎゅっと抱きしめる。

 その瞬間、ルナの頭の中でファンファーレが鳴り響いた。


「はい、約束の銀貨一枚。……それに、頑張ったルナちゃんには、ママからの特製ハグもセットよ」


「…………っ。……し、……幸せ……(昇天)」


 銀貨を手にしたルナが、魂の抜けたような顔で微笑む。その幸せそうな姿に、アリアとセシルが「ずるいー!」と絶叫し、さらに猛烈な勢いで家事に勤しみ始めた。


 数日後。

 必死に貯めた「お小遣い」を握りしめ、三人は町へと出かけた。

 サツキは「自分の好きなものを買いなさいね」と送り出したが、夕方、戻ってきた彼女たちの手には、豪華な宝飾品も、希少な魔導具もなかった。


「ママ、これ! 町で一番可愛いって評判だった、かんざし! ママの黒髪に似合うと思って!」


「……ママ。これ、……最強の、防寒、……エプロン。……冬でも、冷えない」


「お母様、こちらを! 最高級の紅茶の葉ですわ! これでお母様に、優雅なひとときを過ごしていただきたくて……!」


 彼女たちが、血と汗(と家事)で稼いだお小遣いを全て使って買ってきたのは、自分たちのための贅沢品ではなく、全て「ママへのプレゼント」だった。


「あらあら……。自分のために使いなさいって言ったのに。……でも、ありがとう。とっても嬉しいわ」


 サツキが嬉しそうに微笑み、アリアから受け取ったかんざしを髪に挿す。

 その瞬間、三人の心には、魔王を倒した時とは比較にならないほどの達成感と幸福感が満ち溢れた。


(……けっ。お姉ちゃんたち、結局ママに還元してるじゃないか。……でも、ママが嬉しそうだから、今回だけは見逃してあげるよ)


 シロは不服そうに鼻を鳴らしたが、ママの膝の上を少しだけ空けて、勇者たちが座れるスペースを作ってあげた。


 お小遣い制。

 それは、最強の勇者たちを経済的に支配するシステムではなく、彼女たちが「ママを幸せにする喜び」を知るための、優しい魔法だったのである。


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