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聖母バフが強すぎる、隠れ里へようこそ~魔王軍を殲滅した最強の娘たちが、実家でママの『あーん』を待っています~  作者: 寝不足魔王


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第37話:勇者アリアの音速タクシー? ママの買い出し、おんぶして運びます!

 隠れ里『聖母の箱庭』に、涼やかな秋の風が吹き抜け、木々がカサカサと乾いた音を立てていた。

 備蓄用の保存食を整理していたサツキが、空になった大きな籠を手に取り、ふと、遠い山並みの向こうを見つめて微笑んだ。


「あらあら……。お味噌も、お醤油も、もう残り少ないわねぇ。シロちゃん。たまにはお隣の大きな町まで、お買い物に行こうかしら」


 その穏やかな呟きは、里の外郭で魔物の気配を察知するよりも早く、勇者アリアの耳へと届いた。

 アリアは、「ママのお手伝い免許皆伝」への情熱をたぎらせ、音速の踏み込みでサツキの目の前へと現れた。


「ママ! 買い出しだね! 隣町まで往復で半日もかかる難所なんて、普通の人が歩いたら大変だよ! でも、任せて! 私がママをおんぶして、瞬きする間に町まで運んであげるから!」


「あらあら、アリアちゃん。おんぶだなんて、嬉しいけれど……私は自分の足で歩くのが好きなのよ?」


「ダメだよ、ママ! ママの尊い足を疲れさせるわけにはいかないもん! さあ、捕まって! 特製のおんぶ紐(クッション三倍盛り)も用意したんだから!」


 アリアは、自らの聖剣を抜くよりも早く、サツキを背負うための「究極の搬送体制」を整えた。

 彼女の脚力は、かつて魔王の城壁を粉砕し、地平線まで一瞬で駆け抜けた伝説の武技である。それを今、サツキを町まで運ぶ「タクシー」として全振りしようとしていた。


「いい、ママ! 私が地面を蹴れば、重力すら置き去りにするよ! 髪の毛一本乱さないように、魔力障壁でママを包むからね! いくよ、加速だぁあああ!!」


 アリアが、地面が爆発せんばかりの勢いで構えをとった、その時だった。


「……反対。……アリア、……速度、……出しすぎ。……ママの、……三半規管、……破壊、……確定。……時速、……八百キロ、……ママの、……肺に、……負担。……私が、……重力軽減、……魔法で、……ママを、……浮かせる。……おんぶ、……不要」


 ルナが、いつの間にかサツキの隣に浮かび上がり、指先から冷徹な否定の魔力を放った。


「お黙りなさいませ、お二人共! お母様を荷物のように運ぶなど、不敬にもほどがありますわ! 私が王都から聖なる白馬を召喚し、宝石を散りばめた馬車でお送りいたしますわよ!」


 セシルが聖印を掲げ、豪華絢爛な馬車を出現させようとして割り込む。

 里の庭は、サツキをいかに「疲れさせずに運ぶか」という、最強の乙女たちによるハイレベルな輸送競争の場と化した。


(きゅう、きゅうっ! ……ふん、お姉ちゃんたち。速さとか豪華さとか、そんなのママは求めてないよ。……ねぇ、ママ。僕と一緒に、のんびり歩いていこうよ)


 シロがサツキの肩に飛び乗り、満足げに喉を鳴らした。

 サツキは、必死に自分をおんぶしようと構えるアリアの、逞しいけれど少し震えている背中を、優しく、ポンと叩いた。


「あらあら……。みんな、ありがとうね。でも、アリアちゃん。……そんなに急いで行っちゃったら、道端に咲いている小さなお花も、木の実を見つけて喜んでいるリスさんも、みんな見逃しちゃうわよ?」


「……えっ?」


「ママはね、アリアちゃんと手を繋いで、今の時期はこんな花が咲くのねぇ、なんてお喋りしながら歩くのが、一番の楽しみなの。……おんぶじゃ、あなたのお顔が見えないでしょう?」


 アリアの脳内に、サツキの慈愛の一撃が直撃した。

 勇者として、戦士として。「速く、強く、効率的に」動くことこそが正義だと信じていた彼女にとって、サツキの「のんびり歩くのが楽しみ」という言葉は、聖剣で斬られるよりも深い衝撃を与えた。


「ママ……。私、また自分の力を見せびらかすことばっかり考えてた……。ママと一緒に歩く時間を、短縮しちゃおうとするなんて……!」


 アリアは、特製のおんぶ紐を自ら解き、真っ赤な顔をして俯いた。

 

「……ごめんね、ママ。私、ママと手を繋いで歩きたい。……のんびり、……ママの歩幅に合わせて、町まで行きたいな」


「ふふ、いいのよ。……さあ、アリアちゃん。左手、貸してくれるかしら?」


 サツキが差し出した、温かくて、少しだけ家事の跡がある「お母さんの手」。

 アリアは、宝物に触れるような恭しさで、その手をギュッと握り返した。


「……あったかい。……えへへ、ママの手、大好き!」


 結局、音速の勇者は、時速三キロの「散歩」へとジョブチェンジを果たした。

 里から町への道中、アリアはサツキに野いちごの場所を教わり、珍しい鳥の声に耳を澄ませ、サツキの何気ない「昨日の夕飯の残り物の話」を、世界で一番重要な軍事機密のように熱心に聞いた。


(きゅう……。お姉ちゃん、結局最後は鼻の下伸ばして、スキップ混じりに歩いてるんだから。……まぁ、僕が一番高い場所(ママの肩)から、景色を独占してるけどね)


 シロがサツキの肩で、秋の空を見上げて満足げに鼻を鳴らす。

 勇者の神速を封じ、ただの「親子」としての時間を楽しませてしまうサツキのおかん力。

 隠れ里から続く買い出しの道は、どんな伝説の凱旋パレードよりも、温かくて幸せな光に満ち溢れているのであった。


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