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聖母バフが強すぎる、隠れ里へようこそ~魔王軍を殲滅した最強の娘たちが、実家でママの『あーん』を待っています~  作者: 寝不足魔王


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第29話:里の収穫祭・前哨戦! 聖女、伝説の舞を舞いたい!

 隠れ里『聖母の箱庭』に、眩いばかりの黄金の波が打ち寄せていた。

 かつてアリアが泥にまみれ、水の精霊プルが清らかな流れを整えたあの棚田が、今やサツキの慈愛と精霊たちの加護を一身に浴び、穂先を重そうに垂らして収穫の時を待っていた。


「あらあら……。本当に、見事な金色ねぇ。シロちゃん、見てごらんなさい。一粒一粒がお日様の光を閉じ込めたみたいだわ」


 サツキは縁側に腰を下ろし、秋の柔らかな風に揺れる田んぼを眺めて目を細めた。その手には、第20話で全員に配ったお揃いの巾着袋が、大切そうに握られている。


「よし、明日はみんなで『収穫祭』をしましょうか。おにぎりをたくさん握って、お外で食べるのもいいわねぇ」


 サツキのその穏やかな呟きは、里に潜伏する最強の信徒たちにとって、開戦の狼煙のろしにも等しい衝撃を与えた。


「お母様の収穫祭……! それはすなわち、この里における最も神聖なる典礼ですわ! 私、教会の禁忌録にのみ記された『豊穣の神楽かぐら』を、二十四時間ぶっ通しで奉納いたしますわ!」


 セシルが、どこからともなく取り出した黄金の錫杖しゃくじょうを掲げ、瞳に狂信的な光を宿して宣言した。


「お待ちになって、セシル! お祭りはみんなでワイワイやるもんでしょ! そんな堅苦しい踊り、ママが肩凝っちゃうよ! 私は、里の丸太を全部薪にする『爆速・薪割り大会』を開催して、お祭りの火を絶やさないようにするんだから!」


「……却下。……薪、……多すぎ。……里、……燃える。……お祭り、……ジャンクフード、……必須。……私、……ポップコーン魔法、……精密制御、……実演、……する」


 ルナが無表情に指先から火花を散らし、乾燥させたトウモロコシをターゲットロックする。

 最強の三人が、サツキの「お祭り」という言葉を独自の方向に解釈し、里の庭で凄まじい設営合戦を開始した。


 セシルは、庭の中央に魔力で浮遊する豪華絢爛な祭壇を組み上げ、「お母様の座る椅子は、最低でも地上十メートルになければなりませんわ!」と暴走。対するアリアは、お祭り広場を作るのだと言って、周囲の巨石を素手で投げ飛ばして整地し始めた。


 そこへ、里の物流を担う運び屋ガリが、大汗をかきながら大きな樽を担いでやってきた。


「サツキ殿! 町から最高級の『特製・黄金甘酒』を仕入れてきたっす! アルコールは一滴も入ってねぇ、サツキ殿に怒られない超健康仕様っすよ!」


「ガリ、分かってるじゃない! よし、それを私の薪割り場の隣に置いて!」


 外郭ガードの騎士団までもが、磨き抜かれた鎧をさらに聖水で清め、「サツキ殿の初収穫を、魔物一匹たりとも視認させぬ!」と、田んぼの四隅で微動だにせず儀仗ぎじょうを開始する。もはや里は、平和なお祭りというよりは、高度な軍事演習か、あるいは異形の宗教都市のような様相を呈し始めていた。


(きゅう、きゅうっ! ……あーあ、みんなお祭りにかこつけて、ママに自分をアピールしたいだけでしょ。パパやママ(神獣)が来たら、またややこしいことになりそうだね)


 シロが、祭壇の階段を「神聖な階段ですわ!」と掃除するセシルの頭越しに、サツキの膝へと避難する。


「あらあら……。みんな、そんなに肩をいからせて。お祭りの準備で疲れちゃったら、元も子もないわよ?」


 サツキは、庭のあちこちで爆発音(薪割り)や発光(祭壇設営)が起きているのを眺め、台所から持ってきた小さなお盆を差し出した。

 そこには、サツキが先ほど試しに脱穀し、さっと炊き上げたばかりの新米で作った「一口サイズの塩むすび」が並んでいた。


「はい、セシルちゃん。準備の合間に、これでも食べて落ち着きなさいな。アリアちゃんも、ルナちゃんも」


「お、……お母様の、初収穫……。……はむっ」


 セシルが、恭しくその白い塊を口に運んだ。

 咀嚼した瞬間、彼女の脳内に、神聖魔法では決して再現できない「大地の温もり」と「お母様の手のひらの温度」が直接流れ込んできた。


「……あ、……あぁぁぁ…………。……これですわ。……これこそが、真の救済……。二十四時間の神楽など、このおにぎり一個の慈愛には、一ミリも届きませんわ……!」


「う、うっまーい! ママ、お米ってこんなに甘かったんだね! 私、もう丸太なんてどうでもよくなっちゃった!」


「……同意。……糖分、……旨味、……完璧。……お祭り、……これだけで、……成立、……する」


 ルナが涙を流して人参ではない(※ここ重要)幸せを噛みしめる。

 サツキの「あーん」に近いおにぎり配給により、里を包んでいた殺気立った熱狂は、一瞬にして「ただの食欲」へと浄化された。


「ふふ、いい食べっぷりね。……セシルちゃん、そんなに高い祭壇じゃ、みんなで顔を見合わせて笑えないでしょう? お祭りの主役は、神様じゃなくて、みんなの『お腹』なんだから」


「……っ!! 仰る通りですわ! 私はまた、形式に溺れて本質を見失っておりましたわ!」


 セシルはすぐさま浮遊祭壇を解体し、それを巨大な「円卓」へと再構築した。

 アリアは薪割りの勢いをそのままに、全員が座れる長いベンチを一瞬で作り上げた。


 里を包むのは、明日への期待に満ちた穏やかな夜の空気と、炊きたてのご飯の残り香。

 最強の居候たちは、サツキが握った「ただのおにぎり」の前に、自らの野心を捨て、一人の「お腹を空かせた家族」へと戻っていった。


(きゅう……。結局、最後はママのご飯に全員ひれ伏すんだよね。……まぁ、明日の本番は、僕がお米の粒を一万粒くらい食べるけどね)


 シロがサツキの指をぺろりと舐め、満足げに喉を鳴らす。

 明日の『収穫祭』が、どれほど賑やかで温かいものになるか。

 隠れ里の住人たちは、それぞれの手にあるサツキお手製のお守り(巾着)を握りしめ、幸せな夢の中へと誘われていくのであった。


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