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聖母バフが強すぎる、隠れ里へようこそ~魔王軍を殲滅した最強の娘たちが、実家でママの『あーん』を待っています~  作者: 寝不足魔王


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第13話:苺ジャム作りと、ルナの「あざとい」お手伝い

 隠れ里『聖母の箱庭』に、むせ返るほどに甘く、瑞々しい香りが立ち込めていた。

 サツキが里の裏庭にある小さな畑で、丹精込めて育て上げた苺たちが、一斉に収穫の時を迎えたのである。

 サツキの無自覚な加護と、日々の丁寧な水やりによって育ったその苺は、一粒が赤子の握り拳ほどもあり、宝石のように深い深紅に輝いていた。


「あらあら、今年も立派に育ってくれたわねぇ。シロちゃん、見てごらんなさい。こんなにツヤツヤよ」


「きゅう、きゅうっ(ママ、これ絶対美味しいやつだ! 早く食べようよ!)」


 サツキの足元で、シロが尻尾をプロペラのように振り回して催促する。

 籠から溢れんばかりに収穫された苺を前に、サツキはふふっと微笑んだ。


「そうね。でも、こんなにたくさん一度には食べきれないわ。……よし、今日はみんなで苺ジャムを作りましょうか。保存もきくし、スコーンに乗せたら最高よ?」


 その一言で、里にいた最強の乙女たちの動きが止まった。

『ママ特製の苺ジャム』。それは、魔導書の禁呪や聖遺物よりも遥かに彼女たちの心を揺さぶる、至高の響きであった。


 庭の大きな木の下に、重厚な銅鍋が運び出された。

 サツキが薪をくべて火を熾すと、そこから隠れ里の総力を結実させた「究極のジャム作り」が始まったのである。


「ママ、ヘタ取りなら任せて! 私の剣技、こういう時のためにあるんだから!」


 アリアが、普段は龍の鱗すら容易く断ち切る聖剣を抜き放った。

 彼女は空中へと放り投げられた苺に対し、目にも止まらぬ速さで剣を振るう。

 シュパパパパッ! という小気味よい音と共に、苺の赤い身を一切傷つけることなく、緑のヘタだけがミリ単位の精度で削ぎ落とされていく。


「あらあら、アリアちゃん。相変わらず器用ねぇ。助かるわ」


「えへへ、ママに褒められちゃった! もっと、もっと投げてもいいよ!」


 アリアが大型犬のように尻尾(ないはずだがサツキには見える)を振って張り切る中、鍋の担当を引き受けたのは、賢者ルナであった。


「……ママ。……火加減、……任せて。……魔導炉の、……精密制御理論を、……応用。……焦げ付き、……確率、……ゼロパーセント。……完璧な、……とろみを、……約束する」


 ルナが無表情に指をかざすと、鍋の底を包む炎が、生き物のように脈動し始めた。

 沸騰しすぎず、かといって温度を下げすぎず。苺の細胞が崩れ、糖分が凝縮されていく最適な温度を、彼女は魔力によって完璧に維持し続ける。


「まぁ、ルナちゃん。頼もしいわね。おかげでお砂糖もよく溶けそうだわ」


「…………っ。……ママ。……すごく、……集中して、……疲れた。……魔力、……枯渇、……寸前。……だから、……後で、……ご褒美、……必要」


 ルナが、震える指先でサツキのエプロンの裾をぎゅっと掴んだ。

 無表情ながらも、その上目遣いは計算し尽くされた「あざとさ」に満ちている。

 最近のルナは、第10話のパーティーでの経験を経て、「弱ったフリをしてママに甘える」という高度な戦術を学習していたのである。


「ルナだけずるいー! 私なんて、もう一万個もヘタ取ったんだから! 私の方がずっと疲れてるもん!」


「お黙りなさい、アリアさん。力仕事しか能のないあなたと違って、私はこのジャムに『祝福』を込めているのですわ。……お母様、見てください。アク抜きに神聖魔法を使い、不純物を完全に排除いたしました。このジャムはもはや、食べる聖域ですわ!」


 セシルが黄金に輝くお玉で、丁寧にアクをすくい取っていく。

 最強の三人が、たかがジャム作りのために、国家を揺るがすレベルの能力を無駄遣いしながら、サツキの「一番」を目指して火花を散らす。


「はいはい、みんな喧嘩しないの。……あ、シロちゃん。ちょっと味を見てくれるかしら?」


 サツキが木べらですくい上げた、とろりとした深紅の液体。

 それを一番に差し出されたのは、やはり肩に陣取っていたシロであった。


「きゅう……! はふ、はふっ。……きゅう~~~ん!!」


 シロが、あまりの美味しさに身悶えし、サツキの頬に顔を擦り付ける。


(う、うめぇ……! ママ、これ最高だよ! お姉ちゃんたちのギスギスした魔力なんて微塵も感じない、純粋な愛の味がする!)


「あら、よかった。……はい、アリアちゃんたちも。熱いから気をつけてね」


 サツキが小皿に分けたジャムを差し出す。

 三人は、それを宝物のように受け取り、慎重に口に運んだ。


「……あ、あま~い! 疲れが吹っ飛んじゃうよぉ!」

「……っ。……脳内、……多幸感、……飽和。……これなら、……人参、……耐えられる」

「お母様の愛が、全身に染み渡りますわ……。これならあと百年は雑巾がけができますわね!」


 煮詰まったジャムの香りは、結界を越えて里の外郭にまで漏れ出していた。

 現在、里の警備を担当している『外郭ガード』の騎士たちは、結界の影で「スゥ、ハァ……」と不審な深呼吸を繰り返していた。


「……団長。……嗅ぎましたか。あの、おふくろさんの苺ジャムの香りを」

「黙れ。集中しろ。……だが、あの匂いから察するに、おそらく糖度は過去最高……。クッ、警備に身が入らぬ……!」


 騎士たちがヨダレを堪えながら、より一層厳重に(八つ当たり気味に)魔物を駆除し始める中、里では瓶詰め作業が始まっていた。


「さあ、出来立てをご褒美のスコーンと一緒に食べましょうか。ルナちゃん、そんなに裾を引っ張ったら転んじゃうわよ?」


「……ママ。……足、……がくがく。……歩けない。……だから、……運んで」


 ルナが確信犯的に、サツキの膝の上に倒れ込んだ。

 サツキは困ったように微笑みながら、ルナの頭を優しく撫で、そのまま抱きかかえるようにして椅子に座らせた。


「はいはい、甘えん坊さんねぇ。……ほら、あーん」


「……はむっ。…………っ!!(至福)」


 ルナは、ジャムたっぷりのスコーンを口に含み、あまりの幸福感に瞳を潤ませた。

 それを見たアリアとセシルが「やっぱりルナはあざとい!」「卑怯ですわ!」と参戦し、結局いつものようにママを巡る大騒ぎが始まる。


 里全体を包み込む、甘く優しい香り。

 最強の力を持つ彼女たちが、ただ一瓶のジャムのために全力を出し、笑い、甘え合う。

 そんな穏やかな午後が、隠れ里には一番似合っていた。


(きゅう、きゅうっ。……お姉ちゃんたち、口の周りが真っ赤だよ。……でも、まぁ、僕も今日は満足だから、お膝の半分だけ貸してあげるよ)


 シロは満足げに、苺色に染まった鼻先をぺろりと舐め、サツキの腕の中で丸くなった。

 甘い幸せに包まれた隠れ里の休日は、こうして穏やかに過ぎていくのであった。


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