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聖母バフが強すぎる、隠れ里へようこそ~魔王軍を殲滅した最強の娘たちが、実家でママの『あーん』を待っています~  作者: 寝不足魔王


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第9話:ママ、初めての町へ。史上最強の過保護な護衛団

 隠れ里『聖母の箱庭』の朝は、かつてない緊張感に包まれていた。

 サツキは「お醤油が切れちゃったから、今日は町へ行きましょうね」と、春の陽だまりのような笑顔でお買い物カゴを準備している。

 だが、その背後に控える三人の勇者たちの表情は、魔王の心臓を抉りに行く時よりも遥かに険しかった。


「いい、ルナ、セシル。昨日のママの話を聞いたでしょう。町には……町には、ママを『お母さん』じゃなくて『一人の女性』として見る不届き者が、星の数ほど潜伏しているのよ!」


 アリアが、伝説の聖剣を腰に帯び、目がバキバキに充血した状態で宣言する。彼女たちは昨夜の「ママの再婚(仮)」という爆弾発言以来、一睡もできていない。


「……探査魔法、……最大出力。……ママに、……三秒以上、……視線を向けた雄、……即座に、……視神経を、……焼く」


「お母様の清らかな魂を汚すナンパ師など、この私が地獄の果てまで浄化して差し上げますわ!」


 三人は、町へのお出かけという日常のイベントに対し、戦略級の魔力と殺気を全開にして「護衛(という名の監視)」の陣を敷いた。


 ――一時間後、王都の市場。


「あらあら、賑やかねぇ! シロちゃん、見てごらんなさい。あっちにおいしそうなリンゴがあるわよ」


 サツキは、カゴの中のシロをあやしながら、のんびりと市場を歩く。

 だが、その周囲十メートルは、異様な「無風地帯」と化していた。


 アリアが「光学迷彩」を無理やり展開しながら、サツキに近づこうとする通行人に無言で剣の柄を突きつけ、ルナが浮遊魔法で屋根の上から「ママの進路に落ちている小石」を一つ残らず次元の彼方へ消去し、セシルがママに声をかけようとした店主に「不浄な者は黙りなさい」と無言の呪圧プレッシャーをかけていたからだ。


「あら? なんだか今日、町が空いているわねぇ」


 サツキが不思議そうに首を傾げた、その時だった。


「やぁ、そこの美しいお姉さん。僕と一緒に、あっちのテラスで冷たいワインでもどうだい?」


 サツキの美しさに目をつけた、世間知らずの放蕩貴族が、軽薄な笑みを浮かべて声をかけてきた。

 その瞬間、市場の空気が、絶対零度まで凍りついた。


「…………っ!!」


 ドォォォォン!! という衝撃音と共に、アリアが地面を割って現れる。

 ルナが上空から重力魔法を叩きつけ、セシルが聖印を掲げて「神罰フィジカル」を下そうと詰め寄った。


「ママに……ママに触るなぁあああ! この不潔な害虫がぁああ!」

「……消去、……推奨。……存在、……不要。……塵に、……なれ」

「お母様の神聖な時間を汚した罪、万死に値しますわ!」


 貴族は腰を抜かし、泡を吹いて白目を剥いた。最強の三人の殺気が、市場全体をパニックに陥れようとした、その時。


「…………みんな、いい加減にしなさい!!」


 市場に、サツキの凛とした声が響き渡った。

 アリアの剣が止まり、ルナの魔力が霧散し、セシルの聖印が輝きを失う。

 サツキは、カゴを置いて、三人の前に立ちはだかった。その表情は、今までに見たことがないほど厳しい「おかんの顔」だった。


「アリアちゃん。ルナちゃん。セシルちゃん。……そこで正座しなさい」


「ひっ、……は、はいっ!」


 世界を救った英雄たちが、市場のど真ん中で石畳の上に正座させられる。


「せっかくのお買い物が台無しじゃない。町の人を怖がらせて、罪もない方を脅して……魔法や剣は、そんな風に使うものじゃないって、ママいつも言ってるでしょう?」


「だ、だって、ママ! こいつが、ママに変なことを言ったから……!」


「アリアちゃん。ママは、そんなに弱くないわよ? それに、あなたたちがそんなに怖い顔をしていたら、せっかくの美味しいお野菜も、味がしなくなっちゃうわ。……恥ずかしいわよ、ママ」


 サツキの「恥ずかしい」という言葉が、勇者たちの胸に、どんな禁呪よりも深く突き刺さった。


「…………ごめんなさい、ママ」

「……すみ、……ません。……やりすぎ、……た」

「お母様……私、私……!」


 三人は、シュンと項垂れた。自分たちの「過保護な愛」が、逆にママを困らせ、町の平穏を壊してしまったことを、ようやく理解したのだ。


 帰り道。夕焼けに染まる街道を、四人と一匹が歩いていた。

 アリアたちは、サツキから叱られたショックで、言葉もなくトボトボと重い買い物袋を持って歩く。


「……あーあ。ママ、怒らせちゃったね」

「……明日から、……おやつ、……抜きかも」


 三人が絶望の淵に沈んでいると、先頭を歩いていたサツキが、ふと立ち止まった。


「……アリアちゃん。ルナちゃん。セシルちゃん」


 三人がビクッとして顔を上げると、そこには、いつもの穏やかで、温かいママの笑顔があった。


「……ママを守ろうとしてくれた気持ちは、とっても嬉しいわ。ありがとう」


 サツキは一人一人の元へ歩み寄り、その頭を優しく、大きな手で撫でた。


「でもね。ママは、あなたたちが最強の勇者だから好きなんじゃないの。あなたたちが、笑顔でいてくれるのが、ママにとって一番の幸せなのよ。……だから、護衛さんより、私の『娘』でいてくれる方が、ママは安心するわ」


「ママぁあああああ!!」


 アリアがサツキの腰に飛びつき、声を上げて泣き出した。ルナとセシルも、左右からサツキにしがみつき、まるで幼子のように涙を流す。


「よしよし、泣かないの。……はい、ご褒美に、今日はみんなの好きなコロッケを買ってきたから。里に帰ったら、揚げたてを一緒に食べましょうね」


「食べる! 私、一生ママから離れない!」

「……ママ。……コロッケ。……一生、……ついていく」

「お母様! 私、廊下の掃除も、洗濯も、今までの三倍頑張りますわ!」


(きゅう、きゅうっ。……結局、叱られて、泣いて、最後は甘えて。お姉ちゃんたち、本当にママがいないとダメなんだから)


 シロがカゴの中から、呆れたように、けれど少しだけ嬉しそうに鼻を鳴らした。


 夕暮れの隠れ里に、三人の「ママ大好き!」という叫び声が響き渡る。

 お買い物は波乱万丈だったけれど、彼女たちは改めて気づいたのだ。

 世界で最も強い剣や魔法よりも、ママの「お説教」と「抱っこ」こそが、自分たちを最も幸せにする最強の力であることを。


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