9.「庭師の子」
大野晁との出会いは遡ること、シンと出会った数ヶ月後のことだ。
俺がギター、シンがピアノを弾いてバンドを組むことは決まったものの、ベースもドラムもいないのはバンドとは呼べないらしく、シンはできればギターももう1人欲しいと言い出していた。
俺はというと自分の家の物置にギターを隠しながら物置やシンの家で本を見ながらコードを押さえたり練習に勤しんでいたが、
俺は学校には家柄で寄ってくる人間はいても、とても「退廃音楽」のバンド結成に支えるような友達はおらず、シンに至っては名門校なのに加え、家柄が恐れ多すぎて学校ではみんな上辺の会話に終始しているという。
要はなんのかんのと理由をつけても俺たちには友達がいないのだった。
もちろんシンの家にはシンの言うことならなんでも付き合ってくれそうな大人が佐藤はじめたくさんいるのだろうが、シンはきっとそんなことを望んでいないだろうと提案することさえ憚られた。
そのシンが、いつも通り2人で練習していると突然、「奥の手しかないか。」と呟いた。
「なんだよ奥の手って。まさか佐藤さんにでもお願いするのか?」
シンは笑って、
「あんなおじさんに頼んだりできないよ。最近庭師に大野さんっていうすごい優しいおじさんが入ったんだよ、初めはちょっと怖く見えるんだけどね。今は仕事中だと思うけど。行こうか。」
シンの発言は全く要領を得ないが、それは今に始まったことではない。
意味もわからないまま返事もせずとりあえずシンに付いて大豪邸の離れの方に歩き出した。
離れの方は屋敷の従業員や使用人の家になっていて、いくつも戸建ての様な物件が立ち並んでいた。
その中の小さめ、と言っても世の中でみればそこそこの家に向かってシンはズカズカ進んでいく。
きっと引っ越してきたばかりなのだろう、その家はまだ表札もなく、外から生活感もなんの匂いもまだ感じなかった。
「まさかその大野さんって庭師の人をバンドに誘うつもりなのか」
大野さんだって庭師の仕事をしているということは、いくら若かったとしてもしっかりとした大人だろう。
そんな人がいい人だろうが中学生のバンド活動、しかも「退廃音楽」なんかに参加してくれるだろうか。
返事もしないまま間髪入れずにシンはインターホンを何度も押す。
「はーい、新聞となんかの支払いなら間に合ってます」
同い年ぐらいの少年のかったるそうな声が聞こえる。
2分ほど待ったが玄関は出てくる気配がない。
シンは舌打ちをしてまた何度もインターホンを鳴らす。
「はーい、しつっけえなあもう。」
隠すこともなくインターホン越しでそういうとドタドタ玄関へ向かってくる足音が聞こえ、ガチャッと思い切りよく玄関が開く。
「はーい、あ、あれ、あんたこの間会った、、もしかして坊ちゃんですか?」
「坊ちゃんじゃない、城島心。こっちは坂本江。これからバンドやるから入ってよ、まずは部屋に入れてほしいな。」




