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落ちる星には、名前がある。-水滸伝異譚-  作者: bbb31


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21.「遠い匂い」



「今回犯人とされている大野晁は、前回の選挙で「彼」に真っ向勝負を挑んだ坂本龍太郎の2世議員、坂本江の親友です。俺は学生時代の彼らのことを知っています。」



山辺に連れられた俺は、大野晁の捜査本部でそう説明した。



周りからは坂本龍太郎、坂本江の名前が出るたびに小さなどよめきが起こった。



「要は「彼」に刃向かった筆頭の逆賊野郎の親友がまた「彼」の部下を殺した大犯罪者ってことだな、安浦さん?」



若手の新内刑事がいきり立ってわかりやすく腕まくりをする。新人の時から最近まで付きっきりで教えた若者だった。本人なりに正義感はあるのだが、それを追うがあまり苛烈になるところもある男だ。



みんな新内のように、「彼」が正義だと疑わないのだろうか。坂本江が正義だった可能性については考えないのだろうか。



新内を見つめながらそんなことを考えていたが、新内が化け物でも見るような目でこちらを見たことで、俺は苛立ちが顔に出ていたのだと自覚して頭から邪念を振り払い、新内に笑いかけたつもりだったが、逆に怯えさせたようだった。



「やっさんよ、いい加減その引き攣った笑顔やめてやらねえと、新内がまた漏らしちまったらどうすんだよ。」



同期の大里警部が新内と俺の間に入ってそう言うと、新内は顔を真っ赤にしながら反論しようと近づいて来たが、大里はそちらを振り返りもせずに片手を伸ばして新内を制した。



「冗談はさておいてだ、山さんがわざわざ連れてきたってことはさ、やっさんに現場復帰して欲しいって願望抜きにしても、かなり深くまで大野のことを知ってるってことだろ?」



山辺は小さく頷き、下がってきたメガネを戻すと話し始めた。



「新内の言う可能性も0じゃない。坂本江と大野晁が繋がっていたとしたら事だ。なにより殺されたのはお役人のお偉方だ。本気で見つけないと威信に関わる。子供の頃でもなんでも彼らを知ってるやっさんに協力してもらうべきだとは思わないか、里さん。」



2人の語調や内容は真剣そのものだが、なぜか2人とも表情はニヤついている。



それを見て新内は首を傾げていたが、2人はきっと俺を呼び戻すタイミングを窺ってくれていたのだろうと想像がついた。



それから山辺は、あらかた今わかっている情報を俺に伝えたあと、ある程度自由に動いていいが、定例の報告会議には出るようにと念押しし、大里と新内、あともう1人、これも元部下であった岡崎という婦警の3人と協力して捜査しろと命を下した。



「あ、言い忘れてたけどな、やっさん。こちらも抑え込もうとしたが限界でな、明々後日には大野のことが新聞に載る。できればその前に大野の手がかりだけでも見つけてくれれば助かる。」



山辺はそういうと、さらに上席に呼び出されているのかさっさとエレベーターで上へ上がってしまった。



他の十数人の捜査員たちも数人ずつ散らばっていった。



「さて、久々の安村班の復活だな。やっぱり俺はリーダーみたいなもんに向いてねえって実感してきてたとこだから渡りに船だぜ。」



大里はそういうと、長年の喫煙からか少し黄ばんだ歯を大きく見せて笑った。



包容力のある大型犬のような男だ。間違ってもハンサムとかイケメンなんてもんではないが、ただ父親としては最高の面構えだと出会った日から会うたびに俺は思っている。



「よし、まず俺は確かめなきゃいけないことがある。大里は岡崎と合流して、大野の周辺人物や現場を調べてくれ。新内は俺と行動する。」



大里は小首をかしげながら問いかけてくる。



「やっさんのやり方に文句はつけたことないし、もちろん今回もそうだ。でも確かめなきゃいけないことってのは一体なんだ?」



坂本江と残りの三人だ。そう言おうとしたところで、なぜか俺はまだ隠しておいた方がいいような気分になった。



「まだ確証のないことを言って固定概念を植え付けたくないんだ、すまない。新内、資料室に行くぞ。」



新内はかったるそうにはいはいと返事をして後ろを付いてくる。



俺たちは資料室に向かい、俺は坂本江に関してのニュース番組の映像を見直し、手がかりを得ようとした。



新内にはSNSで坂本江や大野晁を撤退的に調べ上げ、さらに関連してシン、ススム、シュンの名前が出てきたらすぐ知らせるように厳命した。



新内は指示を聞いても半信半疑ではあったが、不満を言っても無駄だとわかっているのだろう、黙ってパソコンの前に座った。



恐らくアサの事件が世の中に明るみになるまでには間に合わないだろう、しかし、とにかく今はあの5人に手掛かりがあるような気がしてならなかった。



アサは本当に罪を犯したのか、コウは本当に新内が言うように東阿に仇なす大逆賊だか大罪人なのか。シンは、シュンは、ススムはどこだ。



俺は目を皿のようにして坂本江の背後にいる4人を探した。



コウの「彼」を告発すると宣言した時の義務感と責任、精気に満ちたまさに男の顔、そこから先のVTRに進むたび、徐々に動揺し、自分が正しいのかもわからなくなり、最後には絶望に打ちひしがれたコウの顔。



俺は見ていられない気持ちを抑えながらも、2倍速で映像を確認し続けた。



はじめはコウそのものだけを見ていたが、徐々に視線はたまに映る後ろの側近じみた男たちに移っていく。



映像を見始めて4時間ほどがたった、午後の17時過ぎ。



「「見つけた。」」



俺が立ち上がると、後ろに座っていた新内も同時に飛び上がるように立ち上がり、小さな車輪付きの椅子は2つとも後方に吹っ飛び、ぶつかって倒れた。



「なんだ、何を見つけた新内。」



俺は前のめりに新内に詰め寄った。



「これ見てください、ここです。」



そういって新内が画面を指差している先を食い入るように見る。



そのSNSの投稿には、内閣官房審議官、中井俊の文字と、成長して少し変わってはいたが見まごうことのない大人になったシュンの画像があった。



俺は動揺しながらも、やっぱり3人目か。となんともなしに呟いていた。



「安村さんは何を見つけたんです?俺にも教えてくださいよ、頑張ったんだから。」



そう頬を膨らませる新内に、俺は悪い悪いと映像を巻き戻して見せた。



坂本江の後ろに3人のスーツの男が立っている。



真ん中の紫のネクタイにグレーのマスクをした男を俺は指差し、新内の方を向き直った。



「お前の見つけてくれたSNSで確信できたよ、これはやっぱりシュン、いや、中井俊。大野晁、坂本江の親友だった男だ。」



新内はぎょっとした顔をしたが、先ほどまでと打って変わってやる気を取り戻したようだった。すっかりいつもの調子のいいニヤニヤとした様子だ。



「この中井ってやつも坂本一味ってことですね。元官房審議官と言っても、坂本が失脚した今は大きな権力はないと思われます。まとめて逮捕して、復帰早々のやっさんと、皆で「彼」から勲章と金一封でももらうとしましょうか。」



自分のイメージでは、苦笑しながらあまり調子に乗るなよ、とでも言うつもりだった。



しかし口を突いて出たのはあまりにも強い言葉で、自分で自分に驚かされた。



「黙れ。お前ごときに何がわかるっていうんだ。お前があいつらのことを知ったような口を聞くな。新内、いつ警察から政府の犬に転職したんだ、もし困ったらぜひ俺にも紹介して欲しいもんだ。」



やってしまった、と思った。



新内の顔が、驚きと焦りからだんだん怒りと失望が入り混じった表情に変化していくのがよくわかった。



「今日は帰らせてもらいます。」



新内は震えながらそれだけ言い、ドアノブに手をかけ、半分開いて足を止めた。



「安村さん、俺はあなたのことを警察になったときからずっと尊敬してた、いや、今もしてる。俺だって何も疑問がないって言ったら嘘になるよ。でもあんたみたいに逃げてたら何も変わらないんだ。その上、昔の知り合いの犯罪者に肩入れか?変わったのはやっさん、あんたの方だ。」



そう言い切ると動揺して何も返せない俺の方を向き、それでは。と言い残し去っていった。



俺は呆然としてエレベーターを降りた。



何も言い返せなかった。俺が正義では無いと思い拒否してきた職務を、嫌々でも遂行してきた人間がいたのだ。



そりゃそうだ、老人や浮浪者をしょっ引くために警官になった奴なんかいない。



もちろんよく考えると、それは俺だけではないに決まっていた。



気が抜けたままなんとなく、弁当とコーヒーと一緒に10年以上ぶりに前吸っていた銘柄のタバコとライターを買って資料室に戻った。



部屋にはでかでかと禁煙と書いてあるが、クソ喰らえと思った。



タバコに火をつける。



新内の言う通り変わってしまったのは俺の方なのだろうか。



新内ら同僚、コウたちの少年時代、妻子の顔が次々脳内をよぎる。



これ以上の思考に耐えられなくなった俺は、持っていたタバコとライターを資料室の壁に叩きつけた。



久しぶりの煙が俺の頭の中のようにぼんやり揺れていた。




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