19.「警官と白ネズミ」
入ってきたのはさっき目の前で俺たちを見てくれていた2人の少年だった。
1人は背が高く、ごつごつとした腕、がっしりとした肩が服を着ていてもわかる。
顔付きも少し濃い眉に、細いがギラギラとした目、大きな口だが、自然とまとまるとバランスを保っていた。
髪も短く刈り上げたもみあげとそれより少しだけ長い他の部分が顔と相まって男臭さを醸し出していた。
もう1人は同じく背は高いが華奢で綺麗な顔をしている。
細い眉に大きな目、全てが整っているといった感じがあった。
「だから言ったろ、あれぐらいじゃ逮捕されないって。退廃音楽だ、見に行こうなんて連れ出されたと思ったら、次はそいつらと警官の後を追おうなんて、いつも通りに勝手すぎるぞ、俊。」
短髪の方の男が俺たちを無視するかのように連れの方に苦言を呈す。
そんな小言を意に介さず、華奢な方の男が俺たちのテーブルに駆け寄り、興奮したように話しかけてくる。
「さっきの、最高だったよ!感想言おうとしたら警官に連れていかれちゃうんだもん、びっくりだよ!」
その勢いに面食らった俺たちが何も返せずにいると、
「まあいいや、逮捕されてないようで何よりだよ。俺は中井俊、あっちの愛想のないのは進。さっきマイクスタンドに貼ってあったメンバー募集、まだ空きあるよね?」
俊が俺たちに向かって捲し立てると、後ろで進がやれやれと言った顔で俊を軽く睨みつけている。
「いいから座れ、お前らもさっさと注文してから話せ、な?」
安村はそう言って2人を促したが、財布を取り出すと後ろを向き、中身を確かめて小さなため息をついた。
俊は、いいんですかと言いながらも、もうメニューを選び始めている。
進は安村の様子を伺いながら、いや、そんなわけにはと遠慮をしたが、安村に顎でメニューを刺されて遠慮がちに俊の陰からメニューを見始めた。
「俺ギョーザとラーメンライスのセットで!進もそれでいいよね?2つ!」
俊は進の同意も得ないまま厨房に向かって大きな声を上げた。
「勝手に決めんなよ、まあいいが。あ、一つ大盛りでお願いします!」
進もやれやれと言った感じではあるが俊に同意した。
厨房の奥から顔を出した店主が、
「あいよ!ラーメンライスの餃子付き2つ、ひとつ大盛りね!やっさんはどうすんの?」
「いや、今日はさっきも食っちまったから俺はやめとくわ。」
財布を尻ポケットに戻して苦笑いをした安村がそう答えると、店主はお見通しだと言う風にニヤッと笑うと奥に消えていった。
「2人ともやりたいのかな、まず2人はロック好きなの?」
シンが答えると、進は本当にやる気かよ、と言うように俊の方を見る。
「ロック?よくわからないけど、君たちの音楽がいいってことはわかった。歌詞だって最高だった。だから一緒にやりたいんだ。」
俊はまっすぐな目で俺たちを順番に見る。
「この学校に行け、この勉強をしろ、そう親に言われ続けて、やりたいこともなかったし黙って受け入れてきたけど初めてやりたいと思ったんだ、進もきっと付き合ってくれるだろ?」
そう言うと俊は進の方を振り向く。
進はやれやれと言った感じで、
「武道の合間だけだ。それだけなら付き合ってやる。どうせ嫌だって言っても聞きゃあしないんだろう。」
俊を見てそう言うと、こちらに向き直る。
「ただ、俺もあんたたちの演奏は、上手いのかは正直わからないが何か叫び出したくなるようなものがあった。もし週に何日かでもいいなら俺もぜひやってみたい。ただあのちまちま指を動かすのは向いてないかも知れないが。」
アサは2人を見てとびきりの笑顔を浮かべた後シンをじっと見ている。
「あぁ、2人とも大歓迎だよ。じゃあススムがドラムでシュンがベースにしよう。僕はシン、こっちのおバカそうなのがアサ、ひねくれた顔してるのがコウ。これからよろしくね!」
シンはそう言うとシュンとススムと握手をした。
「あーあ、取り締まるどころか増えちまった。こりゃ内緒にしとかないと課長に怒られちまうな。」
安村は言葉と裏腹に楽しげな顔を浮かべている。
そこに頼んだ5人分の料理と、注文していない安浦のラーメンライスが到着した。
俺たち6人は一心不乱に平らげた。外装と裏腹に、出てくる料理は濃い味付けだが、誇張抜きで今まで食べたどんないい店の中華より美味かった。
食べ終わると、安村が昔聴いていたりコピーしたバンドや曲の話、堂上は俊が呼んでいるだけで本当はススムではなくシンと読むのだという話、アサのやっていた部活の話、ススムが剣道や柔道を習っているが周りは誰も勝てずに、教えている有名な監督も倒してしまった話。
俺たちは時間も忘れて思い出せないくらいに色々な話をした。
店に入ってから3時間も経っただろうか。
話を聞いて笑っていた安村の電話が鳴り、少し焦った様子で、俺たちに出るぞとジェスチャーをした。
俺たち5人が先に外へ出て待っていると、中から安村と店主の話す声が聞こえてくる。
「悪い、吉野の大将、俺の分まで出してもらったのに、ちょっと足りないみたいだ、残りは今度で勘弁してくれねえか。」
そういうとジャラジャラとした小銭の音が追いかけてきた。
「あんた有り金全部出しちまったらタバコ銭もねえんだろ。いいよ、また給料入ったら返してくれれば。ただ気に入ったガキどもに毎回飯食わしてたらあんた破産しちまうぞ。」
「間違いねえ、悪いね大将。」
2人の笑い声が聞こえて、足音が近づいてきてドアが開く。
この短時間で俺はこの格好のいいのか悪いのかわからない警官が好きになっていた。
意図的ではないのだが、俺やシンは名字も家の話もしていない。
無意識に安村に政治家の子供だと色眼鏡で見られるのを避けたかったのかもしれない。
安村はまたな、まあ頑張れよと短く言うと小走りで去っていった。
残された俺たち5人は改めて公園で話をした。
そこではじめて、シンが王家の末裔であること、俺が政治家の息子であること、シンの家で働くアサの父親の関係でアサを勧誘したことを軽く話すと、シュンとススムも驚いたような顔をして、シュンは官僚の息子であること、ススムは軍の有力幹部の息子であることを話してくれた。
境遇まで似ていることを知り、俺は後から振り返ると恥ずかしくもあるが、この5人が一生の親友になれるような予感がした。
他の4人がどう考えているかはわからなかったが、アサは表情から俺と同じようなことを考えていると想像がついた。
そういえばあの中華料理店はなんて名前だっただろう、まだあそこにあるのだろうか。
昔を思い出しながらそんなことを考えていると、アサに声をかけられる。
「そういえば勇作さんの料理と、やっさんに連れていってもらったあの中華、そっくりじゃないか、コウちゃん。」
確かにそうだと驚くと同時に、アサも同じことを思い出していたのだと思い苦笑しながら答える。
「そういえばあの大将も吉野さんだったよな。あとで勇作さんかシンに聞いてみよう。そんなことよりシンは遅すぎないか?」
「確かにそうだ、外に見に行ってみようか。」
俺とアサが幸歓の外へ出ると、すぐシンの後ろ姿があった。
何をしてるんだと話しかけようとすると、シンの視線の先には地べたに座り込んで野良猫二匹と戯れているのか嫌がって追い払おうとしているのか、絡まっているような状態の、小柄な左半分真っ白な白髪、右半分は白髪混じりのねずみ色の髪の男がいた。
シンは俺たちに気づいてびくっとして振り向くと、
「ああ、アサとコウだったか。アサには伝えてるからこう言えばわかるよね。彼が僕らの協力者で脱獄の名手、白鼠こと尾崎ハクだ。」




