14.「邂逅」
大野晁がトイレから戻ったころに、車を停めてきた佐藤もたどり着いたようだ。
俺たちはシンに言われて店の中の隠れたような場所にある4人掛けの半個室から店の真ん中へ移った。
俺とシンとアサで話すことがあるのなら、佐藤を入れても4人席で事足りたはずだが、相変わらずシンの考える事はわからない。
「キミエさん、悪いんだけど恋ちゃんと青くん、それに黎くんを連れて二階に行っててもらえる?」
「はいはい、シンぼっちゃん相手だと営業時間が短くされちまっても、孫やよそ様の子のお守りさせられても文句は言えないねえ。」
キミエと呼ばれた店主の母らしき女は、笑顔で悪気のなさそうな悪態をつきながら子供たちの方へ向かう。
「母ちゃん、そんなことでぶつぶつ文句言うんじゃないよ、誰のおかげで幸歓続けていけてると思ってんだよまったく。」
店主の注意をよそにキミエは飄々とした様子で料理を食べ終えた子供たちを連れて住居になっているのであろう二階へ上がっていこうとする。
ということは残った若い女もシンかアサの関係者ということなのだろうか。
見ると一番小さな男の子が俺とアサの方を見てキミエが促しても階段を登ろうとしない。
「コウちゃん、言うの遅れたけど、あのちっちゃい方の男の子、黎っていうんだけど俺の息子なんだ。なかなか男前だろ?」
アサがそういうと、俺は驚いて言葉もすぐに出ず、それはおめでとうなんていう素っ頓狂な祝福が口を突いて出そうになり思い直す。
そうしてるうちにアサは自分の息子の方に駆け寄っていた。
「父ちゃんはお友達と大事なお話があるんだ、黎はもう大きいからキミエさんたちと一緒に二階で遊んでられるな?」
過去のアサからは想像もつかない優しい口調と、暖かい目。
ああ、本当にこの子はアサの子なんだと実感が持てた。
「父ちゃんは勝手にいなくなったりしないよね?」
その言葉を受けてアサは一瞬ぎょっとしたような顔をしたが、その後息子を抱きしめて当たり前だろ、と呟いた。
心なしかその目は潤んでいたように見えた。
「わかった、青くんと恋ちゃんに遊んでもらう。」
「よしいい子だ、きっと楽しいぞ。」
会話が終わると、キミエは黎を促して二階へ上がっていった。
「さて、面子は揃ったし、感動の親子の別れも終わったみたいだ。おまけに勇作さんご自慢の料理も出揃った。自己紹介といこうか。」
相変わらず一言多いやつだ、とシンの言い草にうんざりする。
「僕は全員と知り合いだし、没落の烈士、坂本江のことを知らない人はきっといないだろう。じゃあみんな知ってるかもだけど、一応佐藤から行こうか?」
相変わらずと言ったが前言撤回、シンの人をバカにした言い方は昔よりさらに火力を増している。
いい加減もの申そうと思ったところで席に着いていた佐藤が立ち上がる。
「佐藤健二郎、城島心様にお仕えするものです。執事から運転手までなんでも務めます。この度はシン様のためにお集まりいただき感謝します。」
淡白な説明だけをして佐藤は座り直す。
よく考えたらこれだけ長く知っているのに佐藤の下の名前も俺は知らなかった。
次に隣に立っていた店主が話し始める。
「吉野勇作39歳、こっちが妻の相子です。前は都内に親父と母ちゃんと俺たちで店やってたんですが、親父が亡くなって、相続やら兄妹のいざこざで店潰そうとしてたところを親父の代からのお客さんのシン坊ちゃんに助けていただいてここで幸歓続けていけてます。シン坊ちゃんのためならなんでもする覚悟です、料理こしらえるしか能のない中華屋の親父ですが、どうぞよろしくお願いします。」
さっきも聞いてはいたが、シンがそんな人助けのようなことをしていたのについて改めて少し驚いた。
そして当たり前のように50くらいだと思っていた店主が30代だったことにも心底驚いたがこちらはとても口には出せない。
みんな同じことを考えたのか少し間が開き、妻の相子が苦笑して、勇作本人は何か自分が変なことを言っただろうかと周りを見渡す。
少しニヤついたシンが、
「次はナナちゃんの番だよ、挨拶すれば?」
と若いスーツの女に声をかける。
立ち上がったままシンの隣に立っていた女が頭を下げて話しはじめる。
俺が2年ほどコンビニやスーパーの店員としか話していないこともあるのかもしれないが、よく見ると首都でもこんな綺麗な子はなかなかいないだろう。
艶めいた長い髪に、表情に少し幼さを残してはいるが大きな目。
テレビで見たことのある女優に似ているのだろうか、どこか既視感がある。
「浜田奈々子と申します。シン様の護衛を仰せつかっています。城島の家で母が働かせていただいていたことがありまして、そのご縁で雇っていただきました。」
緊張した様子で一気にまくしたてると、大きく息を吸い、
「シン様にはもう伝えているのですが、皆様にお願いしたいことがあって参りました、どうかよろしくお願いします。」
泣きそうな顔で言い切った。
「あ、その話は自己紹介が終わったら食べながら話すからちょっと待ってね。次はアサ、お願い。」
卓にある点心を凝視しながらシンが言うと、間髪入れずにアサが話しはじめる。
「大野晁、コウ、シンとは同級生だ。そこのべっぴんさんと同じく、俺とシンもコウやみんなに話があってきた。」
奈々子の時と対照的にアサは穏やかに全員の顔を見渡しながら言う。
「俺たちは今の偉い奴らを、内閣、政党、、いや、違うな。」
アサは言葉が出てこない小さな子供のようにシンの方を見る。
シンはやれやれといった様子で立ち上がってアサと同じかそれ以上にゆっくりと当たりを見渡し、自分の隣からぐるっと奈々子、相子、勇作、佐藤、アサと目を1秒以上じっくり合わせ、
最後に俺の目をまっすぐに見つめて言った。
「僕たちは国を変える。救うことになるのかはわからない、とにかく変えるんだ。力を貸して欲しい。」




