第十六話 どうして?
息をするのさえ今、生きていることを実感させられて嫌になってくる。
前にいる男の不気味な笑顔が余計に俺をイラつかせてくる。
ルボアは……どこか遠くを見ている。
「どういうことだよ……。なんでユーマがクビだけなんだよ!」
この世界に来てから、いや、俺が生きてきて初めて怒りの感情が露わに表に出てきた。
「おいルボア、なんでだよ? ユーマは俺達の仲間だろ? どうして?」
俺の問いにルボアは遠くを見つめるだけで、何も返してこない。
興奮しきっている俺を見て、ユーマのクビを持った男が言う。
「デビラスタさん。少し静かにしてくださいよ。今は夜ですよ。そんな大きな声出したら近隣の子供が起きてしまうじゃないですか」
言った意味が分からなかった。いや、厳密には言葉の意味はわかったが、こいつからその言葉が出てきたのが分からなかった。
近隣の子供の睡眠のことを考えられるのに、なんでユーマのことは殺せたのか、そして今、笑顔でクビを持てているのか。
こいつの中でユーマは人というカテゴリーにも入っていないのだろうか。
そう考えると再び心の奥底から怒りが沸々と燃え上がってきた。
「ふざけんな」
俺はもう自分自身をも制御することができない。
魔王である俺の力は自分の想像以上だ。怒りに任せると、手足の拘束具もいとも簡単に破壊することができた。
そっぽを向いていたルボアは焦って戦闘体制を取り、ユーマのクビを持っている男は先ほどの笑顔からは一転、死を見据えた顔をしだした。
男は恐怖からユーマの頭を投げて戦闘体制を取る。
俺はユーマの頭を投げるという行為でさらに怒りが増し、大きく手を振りかざして男の方へと振りかぶった。
しかしその時、男が投げたユーマの頭が男の足元にあることに気付き、ユーマと目があった。
目に光がない。確かにユーマではあるが、俺の知っている純粋で無邪気なユーマの目からは程遠い。
俺の拳は男の顔の目の前で止まった。なぜか、怒りは一瞬で消え、俺の中には悲しみしかなくなったからだ。
こいつを殺してもユーマは戻ってこない。
こいつを殺しても俺の気持ちは晴れない。
こいつを殺したら人を殺す感触を味わってしまう。
俺はただ、涙が出た。
(グサッ)
何かが背中に刺さった感覚がした。
なんだ? そう思って後ろを向くと、ルボアが俺向かって剣を刺していた。
その事実に気づくと同時に、俺の意識はだんだんと遠のいていく。
「ルボア、お前」
反撃をしようとするも、体が自由に動かない。
視界が定まらなくなり、立っていることも出来なくなってくる。
「ルボア……どうして? どうしてこんなことを」
薄れゆく意識の中、俺は必死にルボアに問いかけた。
ただ、ルボアの表情からは何も読み取れない。
ルボアはゆっくりと倒れている俺に近づいて一言。
「申し訳ありません。魔王様」
それを最後に、俺は意識を失ってしまった。




