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番外編 脅威

私事で申し訳ないのですが来週はお休みします。

 この世界は弱肉強食だ。

 この考えは昔から今に至るまで、一度だって変わったことはない。

 昔、俺にとって人生とは、起きて、何かを食べ、働いて、眠る。その繰り返しだった。

 そんな日々に多少の不満を抱きながらも、逆らうことなく生きていた。


 転機が訪れたのは七年前。侵略者が攻めてきたときだ。

 幸い、侵略軍の進路は俺たちの村から外れていた。直接的な被害は出なかった。

 だが、その戦争を理由に増税された。

 ふざけんな、と思った。


 そもそも、それまでの税金だって、生活を切り詰めてようやく払えていたんだ。これ以上増やされたら、餓死一直線じゃねえか。

 昔は難しいことなんてよくわからなかった。だが、今考えてもおかしな話だ。

 普段から民衆に税を課す代わりに、安全を保障する。そういう関係のはずだろう。

 それなのに、戦争が起きたら増税だ。

 当時は、世の中なんてそんなものだと思っていたけどな。


 このまま税金を払い続ければ、生活はギリギリ。いや、自分たちが食うものすら残らなくなる。

 金がないなら、物を売る。人を売る。

 だが、俺たちの村には、売れるような余計なものなんてなかった。

 何かを売れば、その分だけ生活は苦しくなる。収入は減り、税金は増える。


 金を借りればいいじゃないか、なんて言うやつもいるかもしれない。

 だが、そう簡単な話でもなかった。

 みんな俺たちを見下していたからな。貸してくれたとしても高利だし、そもそも金を貸してくれるやつ自体が少なかった。


 そんなときだった。

 アウトレイジから声が掛かったのは。

 アウトレイジは、急速に勢力を拡大していた反政府組織だった。


『俺たちの手を取れ』


 そう言ったのは、アウトレイジのボス、ライオネルと名乗る男だった。


『お前たちは、このまま一生支配されていていいのか? 弱いことは罪ではない。弱いままでいることが罪なのだ。驕り高ぶり、無能なくせにでしゃばる者どもに、思い知らせてやろうではないか。弱者は、いつまでも弱者のままではないとな』


 その男は、不思議なオーラを放っていた。

 他者を魅了し、突き動かす。いわゆるカリスマというやつだ。

 俺を含め、村の連中はそいつの底知れなさと恐ろしさに圧倒されていた。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 いや、気にしている余裕なんてなかったんだ。

 俺たちには、目の前の生活をどうにかすることのほうが重要だった。


 こうして、俺たちの村は丸ごとアウトレイジに組み込まれた。

 こういうことは何度もやっていたらしく、あいつらも手慣れた様子で村を取り込んでいった。

 その中で、俺はめきめきと頭角を現していった。


 力仕事は得意だった。だが、自分がここまで強いとは思っていなかった。

 平原からは離れ、森には近い。それでも比較的安全な村だったからな。俺はそれまで、まともな戦いを経験したことがなかったんだ。

 たまたま《暴走龍 5000GT》という強力なクリーチャーとも契約できた。

 アウトレイジは力がものを言う組織だった。強さを示せば示すほど、俺の立場も上がっていった。


 もちろん、心が痛まなかったわけじゃない。

 そりゃあ傷つくさ。

 敵の兵士だって、俺たちと同じように生活があるんだ。

 だが、はっきり言って、そんなことを気にする余裕はなかった。

 いくら悩んだところで、誰かが救われるわけでもない。腹が満たされるわけでもない。

 それに、こうなることは最初からわかっていた。

 それでも、俺たちは自分たちを優先したんだ。


 俺を責めるか?

 別に構わないぜ。


 話を戻そう。


 そんな具合に、俺の人生はうまくいっていた。

 ……いや、人生なんてものは、そう都合よくいくもんじゃない。

 俺は、はっきり言って悪目立ちしていた。

 これは俺の勘だが、ライオネルに損切りされたんだろう。

 勇者の一味がやってきた。


 たまたまだったのかもしれない。だが、今となってはどうでもいい話だ。

 あの男は、全力を解放した俺を圧倒し、半殺しにした。

 衝撃だったよ。

 当時の俺にとって、俺より強い人間なんて、ライオネルとアウトレイジの幹部くらいだった。そいつら相手でも、いい勝負ができると思っていたんだからな。

 それが、まるで歯が立たなかった。


 このまま終わるのかと思った。

 別に後悔はなかった。

 何度人生をやり直したところで、俺は同じ選択をするだろう。

 勇者を恨んでもいなかった。

 こんな仕事をしていたんだ。いつかこうなる覚悟くらいはしていたさ。


 ただ、勇者は俺と目が合ったあと、何もせずに立ち去っていった。

 ボロ雑巾を見るような目だった。

 俺が死んだと思ったのかもしれない。

 理由はわからないが、何はともあれ、俺は生き残った。

 そして、村はお優しいことに、俺一人にすべての責任をなすりつけることで、お咎めなしになった。


 ……薄情なもんだろ?

 それから俺は身分を偽り、別人として生きることにした。

 アウトレイジからも足を洗った。

 たまに追手がやってきたが、そのたびに皆殺しにした。


 そんな生活の中で、俺の立場に都合のいい組織があった。

 プロスタシア協会だ。

 俺は強かったから、協会の中でのし上がること自体は難しくなかった。

 だが、面倒だったし、同じ過ちを繰り返すのもごめんだった。

 だから、ほどほどに手を抜きながら昇格していった。


 あるとき、興味本位で出場した大会で、警戒していた男を見かけた。

 アウトレイジの幹部、《嫉妬のズリエボ》。

 仰々しい名前だが、それに負けず劣らずの実力者だ。

 予選では、あいつとも同じ組になった。

 もっとも、あいつにとって俺など眼中になかったのだろう。


 どうやら何かの囮役だったらしい。邪魔をしないことを条件に、俺は見逃された。

 そして本戦。

 俺は、一人の少年と戦うことになった。

 イェネロスという少年だ。

 はっきり言って、実力はそこそこだった。

 俺やズリエボと比べれば、お粗末なものだ。


 だが、何かある。

 目を見張るような才能が、あいつにはある気がした。

 別に勝つことにこだわっていたわけじゃない、だがズリエボと戦うことになれば、ヤツの何かの癇に障る気がした。だから、適当に叩きのめして終わらせるつもりだった。


 何より、あの目が気に入らなかった。

 真っ直ぐで、それでいてどこか歪んでいる。

 まるで、自分がこの世で一番不幸だと言わんばかりの目だ。

 そのくせ、自分の不幸を誰かのせいにしているようにも見えた。

 ……わかっているさ。

 ただの同族嫌悪だ。


 だが、試合の中で、あいつは変わった。

 一皮も二皮も剥けたんだ。

 変わったのは、力だけじゃない。

 あいつの心にも、何かが灯った。


「他人のために戦うことを弱さだとは思わない」


 あいつは、そう吠えた。

 その言葉が、妙に心に刺さった。

 だから、勝負を譲った。


 ……いや、譲ったというのも、少し違うかもしれない。

 あいつの言葉を聞いて、俺はもう、勝ち負けなんてどうでもよくなっていたんだ。

 その後も、俺は手を抜きながら任務をこなしていった。

 気づけば、A級にまで昇格していた。


 そして、ある日。

 突然の召集を受け、侵略者が来襲することを知らされた。

 その侵攻ルートには、俺の故郷が含まれていた。

 俺を見捨てた村だ。

 ……どうでもいいだろ。


 そう思いもした。

 だが、何かが引っ掛かった。


 結局、俺は誰よりも早く故郷へ戻ることにした。

 帰郷した俺を待っていたのは、大騒ぎする村人たちだった。

 疫病神が帰ってきた、というわけだ。

 薄情なもんだよな。


 お前らだって、俺と一緒にアウトレイジに入ったんだろうに。

 それに、アウトレイジはお前らが思っているほど仰々しい組織でもない。

 ……まあ、そんなことを説明してやる義理もないか。


 腹は立ったが、好都合ではあった。

 俺は村人たちを脅して逃がし、侵略者を迎え撃つ準備を整えた。


 そして今。

 侵略者の大軍が、こちらへ向かってきている。

 数は一万を優に超えているだろう。

 その進軍速度は、恐ろしいほどだった。

 先陣を切るのは、漆黒の鎧をまとい、手足にタイヤを備えた化け物たち。

 そいつらは、地平線の向こうに姿を現したと思ったら、一分も経たないうちに俺の目の前までやってきた。


 膝が震える。

 歯の根が合わない。

 これほど濃密な死の気配を感じたのは、ライオネルと初めて出会ったとき以来だった。

 それでも、せめて武者震いに見えるよう、俺は胸を張った。


「おお、英雄よ。我らの前にただ一人立つ、勇気に満ちた英雄よ。名を名乗れ。

 侵略軍大将たる我、《zeroの侵略 ブラックアウト》と戦う栄誉を与えよう」


 死そのものを思わせる漆黒の化け物が、一音一音、大地を震わせるような声で告げた。


 はっきり言って、俺の役割はここまでで十分だ。

 敵軍を数分足止めする。

 それだけで十分なはずだった。


 それでも、この化け物は俺に敬意を示してくれている。

 なら、こちらも応えなくちゃならないだろう。

 俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


 腹に力を込める。

 何を弱気になっている。

 敵の大将を倒せば、軍全体が混乱するかもしれない。そうなれば、さらに時間を稼げる。

 そう自分を奮い立たせた。


「俺の名はクリファ。ただのクリファだ」


「再び名乗ろう。我が名は《zeroの侵略 ブラックアウト》」


 ブラックアウトの傍らに控えていた化け物が、カボチャほどの大きさの石を持ってきた。

 それを真上へ放り投げる。

 石が地面に落ちたとき、戦いが始まるのだろう。

 俺は《暴走龍 5000GT》を憑依させ、その力を引き出した。

 5000GTも強敵を前に歓喜しているのか、いつも以上に力が満ちている。


「他人のために戦うことを弱さだとは思わない」


 イェネロスの言葉が、脳裏をよぎった。

 ありがとう、俺を励ましてくれて。

 おかげで、最高の気分だ。


 実力では、どうあがいても相手のほうが上だ。

 なら、どうする。

 最初の一撃に、すべてを懸ける。

 全身に、これまでにないほどのマナを巡らせる。

 石が地面に落ちた。


「参る」


 ブラックアウトの口が、そう動いたように見えた。


 俺が動き出そうとした、その瞬間。


 ブラックアウトの姿が消えた。





 地面に、大きな亀裂が走る。






 鋭い痛み。







 視界が、逆さまになっていく。









「見事」


 ……そう聞こえた気がした。

それは圧倒的な脅威。

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