第二十三夜 任務
ドラゴン――それは最強の種族。
鋼をも容易く噛み砕く牙。
城壁すら紙細工のように裂く爪。
そして吐き出される灼熱のブレスは、幾重にも鍛えられた鎧でさえ一瞬で溶かし去る。
その巨躯が大地を踏み締めれば山は震え、翼が空を薙げば嵐が生まれる。
まさしく、生物という枠組みを超越した存在。
ドラゴン――それは最古の種族。
星がまだ若く、大地すら形を持たぬ太古より存在し、この世界の礎となった始まりの生命。
幾度となく文明が興り、滅びようとも、彼らだけは変わらず世界を見続けてきた。
ドラゴン――それは大王の眷族。
龍世界を統べる王に連なる者たち。
その力は一体で国を滅ぼし、その存在だけで大気は震え、大地は軋み、星さえ揺らぐという。
ドラゴン――それは世界の頂点。
あらゆる生命が畏れ、あらゆる生命が憧れ、そして、あらゆる生命が跪く絶対者。
◇
ゴニアの試験から数ヶ月が過ぎた。
暑さも和らぎ、秋の風が街を吹き抜ける。
街路樹の葉が静かに揺れ、広場では子供たちが笑いながら駆け回っていた。
市場からは商人たちの威勢のいい声が聞こえてくる。
平和だ。
少なくとも、今は。
あの日、必死に木剣を振っていたゴニアたち五人も、今では見違えるほど成長していた。
訓練場では汗を流しながら剣を交え、魔法を撃ち合い、転んでは立ち上がる。
以前ならすぐに息を切らしていた彼らも、今では簡単には倒れない。
着実に強くなっている。
この調子なら、きっと立派な決闘者になれるだろう。
一方、俺とアガピは相変わらず任務漬けだった。
森へ入り、クリーチャーを討ち、依頼を片付け、帰ってきては次の任務へ向かう。
単調と言えば単調だ。
時には危険な任務もあった。
それでも、不思議と飽きることはなかった。
以前なら苦戦していたような相手も、今ではアガピと息を合わせれば危なげなく倒せる。
知らぬ間に、俺たちも成長しているらしい。
任務帰りには、決まって行きつけの武器屋へ寄る。
「坊主! 今日は面白いもんが入ったぞ!」
店主が嬉しそうに奥から古びた剣や槍を抱えてくるのも、すっかり日常になっていた。
「これなんかどうだ? 昔の王国騎士団が使ってたって話だ」
「どう見ても嘘だろ」
「バレたか」
そんなくだらないやり取りを繰り返しながら、掘り出し物を探す時間も悪くない。
気付けば夕日が街を赤く染め、店じまいの鐘が鳴る。
そんな毎日だった。
飢饉が起きているわけでもない。
疫病が流行っているわけでもない。
フィオナの森も最近は比較的静かで、大きな事件も起きていなかった。
平和だ。
平和なのは良いことだ。
平和で困る奴なんて、そうはいない。
だから、きっとこれは良いことなのだ。
……そう思っていた。
◇
ある日の昼下がり。
俺とアガピは支部長室へ呼び出された。
重厚な木製の扉を開ける。
部屋の空気は、いつもとは違っていた。
支部長は腕を組み、机にもたれ掛かるように立っている。
豪快に笑う姿しか見たことのない男が、珍しく険しい顔をしていた。
「さて」
支部長がゆっくり口を開く。
「お前たちに来てもらったのは他でもない」
少し間を置いて、静かに言った。
「Aランクパーティー《アナロス》がフィオナの森で壊滅した件だ」
ここで分からない単語が出ただろうから説明しておこう。
まずAランクパーティーとは、少なくとも一人はAランク決闘者が所属しているパーティーのことだ。
ちなみに、パーティーは二人以上で編成される。
そして《アナロス》。
最近急速に頭角を現した新鋭パーティーである。
リーダーはAランク決闘者、戦士アクシオ。
冷静な判断力と高い任務遂行能力で知られ、依頼達成率も極めて高い。
勢いに乗っていた彼らが壊滅した。
それだけで十分、異常事態だった。
「詳しいことは彼女から聞いてくれ」
支部長は入口へ目を向ける。
「入ってきてくれ」
ギィ、と扉が開く。
入ってきたのは、一人の女性だった。
鎧はあちこちが黒く焼け焦げ、ところどころひび割れている。
包帯の隙間から覗く傷跡もまだ新しい。
歩くたびに、僅かに顔をしかめていた。
何より目を引いたのは、その表情だった。
目の下には深い隈。
焦点の合わない瞳。
仲間を失い、自分だけが生き残った者の苦悩が、その顔には色濃く刻まれていた。
「こんにちは」
彼女は小さく頭を下げる。
「私はテュケーと言います」
震える両手をぎゅっと握り締め、一度だけ深呼吸をする。
そして、意を決したように顔を上げた。
「まず……あの任務で何が起きたのか、お話しします」
部屋の空気が、さらに重く沈んだ。
「少し前、学校での試験中、不審な気配があったという報告を受けました」
テュケーは静かに語り始める。
だが、その声には僅かな震えが混じっていた。
「もしそれが本当なら、人里のすぐ近くまで危険な個体が接近していることになります。だから私たち《アナロス》が調査へ向かいました」
……ああ。
あの報告をしたのは俺だ。
テュケーは一度だけ目を閉じ、当時の光景を思い返すように息を吐いた。
「最初は普通の調査でした。クリーチャーの痕跡を追い、森を進み、異常がないか確認するだけの……いつも通りの任務です」
一度、言葉が途切れる。
「ですが」
彼女の表情が曇った。
「あの青いドラゴン――《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》だけは、何もかもが普通ではありませんでした」
部屋が静まり返る。
「説明するのは難しいんです。普通のクリーチャーは、お腹が空いたから襲う、縄張りに入ったから襲う、身を守るために戦う。そういう“理由”があります」
彼女はゆっくり首を振った。
「あいつには、それがありませんでした」
拳が僅かに震える。
「ただ、人を殺すことを楽しんでいるようだったんです」
俺は黙って彼女の話を聞いていた。
「目が合った瞬間に分かりました。獲物を見つけた獣じゃない。遊び道具を見つけた子供でもない」
彼女は僅かに眉を寄せる。
「もっと……そう。通り魔。それが一番近いと思います」
俺は思わず眉をひそめた。
あの時のやつと似ている。
仲間とかではないだろうか。
「しかも、とても狡猾でした」
テュケーは続ける。
「姿を見せないんです。自分では戦わない。まず周囲のクリーチャーだけをけしかけてきました」
私たちはそれを倒しながら森を進んだ。
一体。
また一体。
何度倒しても終わらない。
「でも、どこか変だった」
彼女は唇を噛む。
「今思えば、あれは時間稼ぎだったんです。私たちを疲れさせるためだけの」
拳が強く握られる。
「体力、集中力、判断力。全部削られた頃でした」
テュケーが顔を上げる。
「――来ました」
◇
森が揺れた。
巨木の枝が折れ、鳥が一斉に飛び立つ。
青い巨体が木々を押し倒しながら現れた。
巨大な翼。
陽光を反射する青白い鱗。
そして、こちらを見下ろす黄金の双眸。
「あいつは迷いませんでした」
テュケーの声が震える。
「真っ先に呪文使いへ向かったんです。他の誰でもない、彼だけを」
まるで最初から決めていたかのように。
「あいつは多分、装備を見ていました。杖、ローブ。呪文使いだと見抜いていたんだと思います」
彼女は一度息を呑む。
「奴にとっては一番厄介だったんでしょう。だから最初に潰した」
テュケーは首を横へ振る。
「……いえ。違いますね」
「殺すつもりなら、あの一撃で終わっていました」
その言葉に、部屋の空気がさらに重くなる。
「胸を抉られて、血を流して……それでも、まだ息があった」
彼女は目を伏せる。
「瀕死だったんです」
部屋の誰かが息を呑んだ。
「神官は迷いませんでした」
「助けなきゃ」と。
「その一心で駆け寄ったんだと思います」
声が僅かに震える。
「回復呪文を唱えようとした、その瞬間――」
テュケーの瞳に恐怖が宿った。
「ドラゴンは笑ったんです」
次の瞬間。
青白い炎が森を飲み込んだ。
轟音。
熱風。
世界が白く染まり――。
神官は。
「……跡形もなく消えました」
長い沈黙。
誰も何も言えない。
テュケーだけが、小さく震えていた。
「アクシオは叫びました」
『撤退だ!! 俺が時間を稼ぐ!!』
「それが最後に聞いた彼の声です」
彼女は俯いた。
「私は逃げました」
その一言は、搾り出すようだった。
「振り返りませんでした。振り返る勇気もありませんでした」
唇を噛み締める。
「だから、生きています」
彼女の肩が震える。
「アクシオは帰ってきませんでした」
頬を一筋の涙が伝う。
それでも彼女は拭わなかった。
「敵討ちをしてください、なんて……そんなこと、仲間を置いて逃げた私には言えません」
深く頭を下げる。
床へ涙が一滴落ちた。
「だから」
声が震える。
「お願いです」
そして、もう一度頭を下げた。
「どうか……生きて帰ってきてください」
静まり返った部屋には、彼女の嗚咽だけが小さく響いていた。
◇
フィオナの森へ足を踏み入れてから数時間。
昼だというのに、森の中は薄暗かった。
空を覆い尽くす巨木の枝葉が陽光を遮り、木漏れ日は地面へ斑模様を描いている。
湿った土の匂い。
どこまでも続く苔むした木々。
時折吹き抜ける風が葉を揺らす音だけが耳に届く。
それ以外は何も聞こえない。
静かだ。
静かすぎる。
生命に満ちたはずの森とは思えないほど、不気味な沈黙が辺りを支配していた。
「……」
俺は辺りを見渡しながら歩く。
足音すら飲み込まれるような静けさ。
テュケーの証言を思い返す。
森を利用し、疲弊を待ち、隙を突く。
《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が本当にそこまで知能を持つのなら、この静けさも罠なのかもしれない。
例えば、クリーチャーを森中へ配置し、俺たちを包囲する。
あるいは、疲弊するまで姿を見せない。
どちらも十分あり得る。
だが――。
(気配がない)
耳を澄ませても、マナを探っても、周囲に大きな反応は感じられない。
仮に包囲されても、この程度なら突破できる。
それよりも、俺には一つ気になることがあった。
(どうやってクリーチャーを従わせている?)
命令しているようには思えない。
テュケーの話でも、《ボルメテウス》は群れを率いていたというより、周囲のクリーチャーを利用していたように聞こえた。
ならば偶然なのか。
本能なのか。
あるいは――。
その時だった。
森の静寂を切り裂くように、小さな気配がいくつも現れる。
「……来た」
俺は立ち止まり、静かに目を閉じる。
前方、右斜め。
距離、およそ百メートル。
「アガピ」
小声で呼び掛ける。
彼女もすぐに足を止めた。
「前方、右斜め四十度。クリーチャーが五体。反応はそれほど強くない」
俺は腰の《銀河剣 ギガハート》へ手を掛ける。
「どうする。倒すか、それとも無視するか」
アガピは少しだけ考えた。
「倒そう。これくらいなら時間はかからないよ」
彼女は前方を見据える。
「それに、奥に《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》がいるかもしれない。だったら、見逃す理由もないでしょ」
「了解」
互いに頷いた瞬間。
二人同時に地面を蹴った。
草木を掻き分ける。
視界が一気に開けた。
そこには狼型のクリーチャーが五体。
こちらへ気付くと同時に牙を剥き、低い唸り声を上げた。
「遅い」
アガピが一歩前へ出る。
静かに右手を掲げた。
「呪文――《ゼンメツー・スクラッパー》」
魔法陣が幾重にも重なり、眩い光が森を照らす。
次の瞬間。
轟音が鳴り響いた。
爆炎が一直線に走り、五体のクリーチャーを飲み込む。
爆風で木々が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。
その中から二体だけが飛び出した。
まだ息がある。
「俺がやる」
地面を蹴る。
《銀河剣 ギガハート》が唸りを上げる。
一閃。
一体目を斬り伏せる。
返す刃で二体目を斬り倒した。
巨体が地面へ崩れ落ちる。
そして。
森に静寂が戻った。
その時だった。
頭の中へ声が響く。
『いるぞ』
モルトだ。
『前方に《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》だ。今なら追いつける。お前とアガピなら十分勝負になる』
俺は息を殺し、意識を集中させる。
……いた。
さっきまでは感じなかった巨大なマナ。
まるで森そのものへ溶け込むように潜んでいた気配が、今になって僅かに漏れ出している。
(本当にいた)
俺は振り返る。
「アガピ、前だ。奴がいる」
アガピもすぐに頷いた。
「うん。一度ぶつかろう」
彼女は杖を握り直す。
「危ないと思ったら、すぐ逃げる。それでいい?」
「異論なし」
二人同時に駆け出した。
◇
木々の間を縫い、枝を飛び越え、岩を蹴る。
速度は徐々に上がっていく。
風景が流れ始める。
そして――。
前方の木々が突然、大きく揺れた。
ズシン、ズシンと大地が鳴る。
鳥たちが一斉に飛び立ち、小動物が逃げ惑う。
次の瞬間。
轟音と共に巨木が倒れた。
その奥から姿を現したのは――。
蒼白い鱗を陽光に輝かせる、一頭の巨大なドラゴンだった。
黄金の双眸。
鋼鉄のような翼。
口元から立ち昇る白い熱気。
そして、こちらを見下ろすその眼には、明確な殺意が宿っていた。
《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》。
間違いない。
テュケーたちを壊滅させた張本人だ。
ドラゴンはゆっくりと口角を吊り上げた。
「……また人間か」
低く唸るような声が森中へ響く。
喋るのか。
知性が高いという話は本当らしい。
厄介だ。
「ちょうど退屈していたところだ」
巨大な牙が覗く。
「ぶっ殺してやる」
その一言と共に、大地が爆ぜた。
《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が地面を蹴る。
凄まじい音と共に、その巨体からは想像もつかない速度で一直線にアガピへ襲い掛かった。
「まずはお前だ」
黄金の瞳が細められる。
狙いは最初から決まっていた。
呪文使い。
テュケーの証言通りだ。
「させるか! 《爆流剣術 神速の技》!!」
地面を蹴る。
景色が一瞬で後方へ流れ去る。
アガピとドラゴンの間へ滑り込むように割り込み、《銀河剣 ギガハート》を横薙ぎに振り抜いた。
ギィィィィン!!
耳を劈く金属音。
火花が森を照らし、青白い鱗が数枚宙を舞う。
刃は確かに届いた。
だが――。
「……浅い」
《ボルメテウス》の身体へ刻まれた傷は表面だけだった。
血は流れない。
肉へ届かない。
まるで鋼鉄を斬ったような感触だけが腕へ伝わる。
「ほう」
ドラゴンは口角を吊り上げた。
「今の一撃で終わると思ったか」
「随分硬いな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
言い終わるより早く、巨大な前脚が振り下ろされる。
俺は《二刀龍覇 グレンモルト「王」》を憑依させながら後方へ飛んだ。
その直後。
さっきまで立っていた地面が陥没した。
土砂が爆発し、巨木が根元から吹き飛ぶ。
「アガピ!」
「分かってる!」
彼女はすでに詠唱を終えていた。
魔法陣が幾重にも展開される。
「《グレート・流星弾》!」
空から幾つもの火球が降り注ぐ。
轟!!
爆炎が《ボルメテウス》を包み込む。
熱風が森中を駆け抜け、周囲の木々が激しく揺れる。
「やったか?」
煙が晴れる。
そこにいたのは――。
ほとんど無傷のドラゴンだった。
だが。
右肩だけは僅かに焼け焦げている。
「……効いてる」
アガピが小さく呟いた。
《ボルメテウス》は傷口を眺める。
「なるほど」
そして、こちらを見る。
「人間にしては悪くない」
次の瞬間。
瞳の色が変わった。
「ならば、少し本気を出そう」
ゾクリ。
背筋を悪寒が走る。
来る。
そう思った瞬間だった。
《ボルメテウス》が翼を大きく広げる。
一振り。
暴風が森を薙ぎ払った。
巨木が何本もへし折れ、土煙が舞い上がる。
視界が奪われる。
「アガピ!」
「こっち!」
声を頼りに振り向いた。
その瞬間。
「上だ!」
「え?」
巨大な影が、視界を覆った。
ボルメテウスの尾が迫る。
「しま――」
ガギィィィン!!
俺は咄嗟に《銀河剣 ギガハート》を差し込んだ。
凄まじい衝撃。
両腕が痺れる。
受け切れない。
そのまま剣ごと吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
《銀河剣 ギガハート》が空高く舞う。
回転しながら飛び、数十メートル先の巨木へ深々と突き刺さった。
「終わりだ」
《ボルメテウス》が牙を剥く。
巨大な顎が俺へ迫る。
逃げる暇はない。
――だが。
俺は口元を僅かに緩めた。
「悪いな」
左腰へ手を伸ばす。
「俺は二本を同時に使うのが苦手なんだ」
柄を握る。
「だから――」
引き抜く。
「一本ずつ使えばいい」
ギィィィン――!!
眩い黄金の光が森を照らした。
《爆銀王剣 バトガイ刃斗》。
抜刀。
そのまま身体を捻る。
ボルメテウスの黄金の瞳が僅かに見開かれた。
「何――」
遅い。
ボルメテウスは完全に油断していた。
俺が武器を失った。
そう思い込んでいたのだ。
本来なら、今の一撃も避けられていただろう。
あるいは、受け流されていた。
だが。
その一瞬の判断の遅れが、命取りになった。
「――斬る」
一閃。
黄金の光が森を横切った。
ズバァァァッ!!
《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の巨体が、そこで止まる。
静寂。
風だけが吹き抜ける。
一拍遅れて、巨大な身体が左右へ崩れ落ちた。
轟音と共に大地が揺れる。
俺は剣を構えたまま、倒れたドラゴンを見つめる。
やがて、その身体から発せられていた巨大なマナが消えていく。
完全に死んだ。
「……終わったな」
剣を下ろす。
隣ではアガピも、ようやく緊張を解いたように息を吐いていた。
「うん……危なかったね」
「かなりな」
「それにしても……」
アガピは地面に突き刺さった《銀河剣 ギガハート》を見る。
「二本同時に使うのが苦手なら、最初から一本ずつ使えばいいって……それ、かなり強引な解決方法じゃない?」
「結果的には上手くいっただろ」
「まあ、そうだけど」
アガピは呆れたように笑う。
「イェネロスらしいね」
「そうか?」
「そうだよ」
彼女は小さく笑った。
俺は《バトガイ刃斗》を鞘へ戻す。
そして《銀河剣 ギガハート》を引き抜いた。
二本の魔剣。
どちらも強力だ。
本来なら、二本を同時に扱えれば一番いい。
だが、俺にはまだそれができない。
ならば。
無理に二本を使う必要なんてない。
一本ずつ。
その方が、今の俺には合っている。
「帰ろう」
「うん」
俺たちは周囲を警戒しながら、静かにフィオナの森を後にした。
その背後には、一頭のドラゴンの亡骸だけが残されていた。
一章完結




