第十八夜 出会い
もう少しで終わる(後5話ぐらいで)
ある少年は孤独だった。
その少年は混ざり物。
どちらの親にも望まれていないその出自は、あまりにも純粋だった彼に世界を憎ませるには十分だった。
人は彼を異物と呼び、怪物は彼を裏切り者と呼んだ。
居場所などどこにもない。だから彼は、一人だった。
しかしある日、彼は後の人生を変える出会いを果たす。
その出会いは小さなものだったのかもしれない。
けれど、その小さな灯火は確かに彼の心を照らした。
彼はたくさんの人と出会い、その荒んだ心を少しずつ癒していく。
笑うことを覚えた。誰かを信じることを覚えた。誰かのために怒ることを覚えた。
そして――自分にも生きる価値があるのかもしれないと、そう思えるようになった。
しかしそんな彼を運命は嘲笑うかのように、周りのもの達は彼の元を去っていった。
ある者は死に。ある者は別れ。ある者は消えた。
彼がようやく掴んだ温もりは、まるで砂のように指の隙間から零れ落ちていった。
残されたのは、あの日と同じ孤独だけだった。
◇
前回までのあらすじ。
「『尻尾巻いて逃げた!以上!』」
く、悔しいけど合ってるから言い返せない。
なんならこれ以上説明しようとしても、
「敵が出た!」
↓
「なんかヤバかった!」
↓
「逃げた!」
で大体終わる。
結局あの気持ち悪いやつを倒した後、所々ででっかい戦いや建物の崩壊が本格的になっていたので子供達を連れて逃げたのだ。
一人重傷だったが、一命は取り留めたらしい。
良かったね。
あと数分遅れていたらどうなっていたか分からない。
結局協会に連れて行くと政治的なうんちゃらがあったらしくて、比較的人間に近い(ドラゴンか何かの角みたいなのと尻尾が生えている)男の子を引き取ることになり、残りは国に引き取られたらしい。
今回の一件にはアウトレイジというヤクザ?が他のヤクザのシマを荒らしたおかげで抗争が勃発したらしい。
何してくれてんだ。いや本当に。
なんで毎回毎回あいつらは問題の中心にいるんだ。
噂によるとオラクル教団なるものや国の直轄組織も関わっていたみたいでかなり大掛かりらしい。
大掛かりすぎて俺の理解が追いついていない。
たぶん説明されても理解できない。
他の子供達の結末はお察しだろう。心中お悔やみ申し上げます。
詳しいことは知らないし、気にするだけ無駄な気がするので置いておく。
はい、この話おしまい。
解散!
「『ん〜? まだ言うことがあるんじゃあないのかい??? 忘れようとしているみたいだけどさ』」
ああ。
そういえばなぜかはよく知らないがモルトが進化した。
別に剣を二本使うわけではないのだが、《二刀龍覇 グレンモルト「王」》だ。
適当なのを見繕ったほうがいいのだろうか?
でもなあ。
二刀流ってそんなに強いイメージないし。
《銀河剣 ガイハート》に匹敵する剣なんてそうそうないだろうし。
何より両手が塞がっているのは少々まずい。
敵を斬るだけならともかく、掴む、投げる、殴る、咄嗟に誰かを助ける。
そういう動作がやりにくくなる。
まあ予備か何かも兼ねてもう一本持っておくのはありかもしれない。
《銀河剣 ガイハート》は全く傷つくそぶりを見せていないが、失くしたりすることもあるかもしれないし。
「『あれはアイツが……まあいいか。そっちじゃないんだよなぁ。よっぽど現実を受け入れていないみたいだけど。右下を見てみろよ』」
右下?
何を言っているんだモルトよ。
ほら、子供がいるだけじゃないか。
年齢にすると人間の十歳ぐらいの……?
その瞬間。
支部長が言ったことが鮮明に思い出される。
嫌な予感と共に。
「と、いうことでこの子はうちの預かりになった」
「どういうことかよく知らないですけど、そうですか」
相変わらず支部長は立派な髭を生やしたイケオジだ。
毎回思っているが手入れは面倒じゃないのだろうか?
戦闘中に燃えたりしないのだろうか?
いや、するわけないか。
たぶん。
支部長の言葉は続く。
「ああ、この子はほぼ人間と似ているが、それでもアクセサリーと言っても誤魔化しきれないなんというか、そう、り、立派なツノや尻尾があるし誤解も生じやすいと思う」
「それについては同意見です。あんな接触の仕方じゃなかったら下手してたら……なんてこともあったかもしれません」
そう返すと、ゆっくり深く二回支部長は頷いた。
そして、とても、いや。
とっっっっっても笑顔な顔で微笑むと口を開いた。
あ、これダメなやつだ。
経験で分かる。
こういう笑顔の大人はろくでもないことを言う。
「後輩育成も兼ねてるし、そうだ! イェネロス君、そしてこの場にいないアガピ君! 心優しく優秀な君たちなら彼の保護者役をもちろん引き受けてくれるよね!?」
さも今思いついたように支部長は言う。
白々しい。
絶対前から決めてた。
なんなら会議資料とか作ってた。知らんけど。
既成事実を積み上げた上で最後に俺へ確認を取っただけだ。
何かの圧に押されながらも俺は頷いたのだった。
社会って怖い。
そして一旦アガピと話をすることになった。
「なるほど、その子を連れてきた時はなんのつもりかと思ったけどそう言うわけ……」
苦笑いしながらアガピはそう答えた。
「生活費は出るみたいだけどね。普段は協会に隣接している『学校』で過ごすみたい。そこではちゃんと信頼できる人たちが見てくれるらしいからいいらしいけどさ。変な決闘者に絡まれたらお互いにとって厄介なことになりかねないからね。別に何から何まで世話をしろってわけではなくて、見守っといてやってくれって意味だと思う」
学校とは決闘者を目指す子供達などが教育を受ける場所だ。
そこで一定以上の実力をつけて死ぬ危険を低めるのだろう。
ちなみに無料だ。
素晴らしい。
俺も学生時代にそういう制度が欲しかった。
いや、学生時代なんて無かったな。
そんな会話をしていると、申し訳なさそうに隣の子が話しかけてきた。
「あ、あのすいません。お二人に迷惑をかけてしまって……うう……」
今にも泣きそうだった。
肩を縮こませ、角までしょんぼりして見える。
尻尾も力なく垂れていた。
犬だったら完全に反省モードである。
するとアガピが優しい包み込むような声で話しかけた。
「大丈夫よ。迷惑なんてかかってないわ。ちょびーっと突然だったから驚いたけど、別にあなたが責任を感じる必要はないわ。それにごめんなさいよりありがとうの方が聞きたいわよ?」
「は、はい。ぐすん、ありがとうございます」
「あー、うん。困ったことがあったらなんでも言ってくれ。できる限りは助けてやるつもりだからさ」
どうやら涙も収まったようだ。
……そういえば名前を聞いていなかったな。
「俺はイェネロス。そしてこっちはアガピ。君の名前は?」
「ぼ、僕の名前はゴニアです!」
「「よろしく、ゴニア」」
こうして可愛い顔をしてるくせに禍々しい角と尻尾をしているゴニアと俺たちの日常が始まった。
(……それにしても禍々しくない?)
角なんて下手な魔王より魔王している。
尻尾もトゲ付きだ。
子供だから可愛く見えるだけで、あと十年もしたら完全にラスボス側の見た目になる気がする。
大丈夫かコイツ。
本当に人間寄りなのか?
「『なんつーか、気持ち悪いな』」
モルトの感想が辛辣だった。
そして。
珍しく俺も同意見だった。
不安でしかない。




