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第十三夜 みーと

 人造の龍と戦う時も。

 大地そのものが牙を剥き、怒りとして襲いかかってくる時も。

 電脳の奥底に潜む陰謀と、見えない戦場で刃を交える時も。

 世界そのものが崩れ、無へと還ろうとする絶望の淵に立たされた時も。

 そして――すべてを奪い尽くす鬼と対峙する、その最悪の瞬間でさえ。

 彼の傍らには、常にこのデッキケースがあった。

 傷だらけで、何度も握られ、何度も命を預けてきた証を刻んだそれは、もはや単なる道具ではない。

 彼の戦いの歴史であり、信念そのものだった。



 ◇



 水文明、某所。

 外界の喧騒とは完全に隔絶された静寂の中、重厚な扉の奥にある一室。

 二人の老人が、ゆっくりと言葉を交わしていた。

 老人――そう呼ぶには、あまりにも鋭い。

 その眼光は鷹の如く鋭利で、視線だけで相手の内側を射抜くような圧を持っている。

 深く刻まれた皺は歳月の証でありながら、その奥に宿る意思は少しも衰えていない。

 細く見えるその体もまた、長年鍛え抜かれてきたものだと一目で分かる。

 無駄のない筋肉、隙のない立ち姿。

 それはまるで、長い年月を経てもなお研ぎ澄まされ続けた一本の真剣のようだった。

 彼らの周囲には数人の男たちが控えている。

 いずれも只者ではない。立ち振る舞い、呼吸、視線、そのすべてが戦場を潜り抜けてきた強者のそれだ。

 だが――それでも。

 この二人と比べれば、明確に見劣りする。

 それは力量だけではない。

 積み重ねてきた時間、背負ってきたもの、そのすべてが違いすぎるのだ。

 無理もない。

 彼らこそが、世界を再び人の手に取り戻すため、長きにわたり影の中で動き続けてきた存在なのだから。

 室内に置かれた調度品はどれも落ち着いた色合いで統一されている。

 だが近くで見れば、その素材、細工、保存状態――すべてが常識外れだと分かる。

 素人であっても、一目で「とんでもない価値」を持つ品だと理解できるほどに。

 静寂の中、やがて一人が口を開く。


「久しぶりだな、我が友よ」


 低く、重みのある声。


「ああ、本当に久しぶりだな。こうしてまた会える日を、ずっと待ち望んでいた」


 応じる声には、確かな安堵と、長い年月を越えた信頼が滲んでいた。

 張り詰めていた空気が、わずかに緩む。

 しかしそれも一瞬のこと。


「今日は我々二人しか集まることができなかったが……始めるとしよう。

 人間を守るための会議を」


 一拍置き、静かに続ける。


「――その前に。我らが英雄へ、祈りを」


 二人は目を閉じ、声を重ねる。


「「ああ、英雄よ。

 我らの祖先を救い、迷いし仔羊である我らを導きし自由の()()よ。

 今日もなお、我ら人間に命があることを感謝します」」


 祈りが終わると同時に、空気が一変する。

 先ほどまでの柔らかさは消え、冷たい理性だけが場を支配する。


「では会議を始めよう。

 あの()()を名乗る者たちは、引き入れることができたか?」


「いや……すでにオラクル教団のつばがついているようだ」


 わずかな沈黙。


「ああ、あの――我らと同じ神を信じていながら、畜生どもとの共生などを掲げる連中か」


 吐き捨てるような声音。


「思考自体は理解できないこともない。だが……生ぬるい。

 人の心を一つに束ねるには、時に過激さが必要だ」


「とはいえ、傘下に入れられれば計り知れない利があるのも事実だがな」


 もう一人がわずかに身を乗り出す。


「それより――轟炎の竜皇たる女帝。

 あれを引き入れることは叶わなかったか?

 彼女のあの切り札が手に入れば、計画は何段階も前進する。

 たとえ本人に全盛期の力が残っていなくとも、だ」


 だが返ってきたのは、重い否定だった。


「……無理だ。あの小娘、生意気にも火文明そのものを掌握するつもりで動いている」


 わずかに眉をひそめる。


「それに、アウトレイジを名乗る連中も制御が効かん。

 好き勝手に動く愚か者どもだ」


 静寂が落ちる。

 やがて、低く呟く。


「……やはり、あの禁忌の計画を進めるしかないようだな」


 その言葉を聞いた男は、ほんの一瞬だけ目を見開いた。

 禁忌。

 それは、言葉通り――触れてはならない領域。

 生命への冒涜。

 存在そのものを歪める、忌まわしき計画。

 本来であれば、選択肢にすら上げてはならないもの。

 だが。


「しょうがあるまい」


 ゆっくりと、言い切る。


「力無き我らには――たとえ外道と罵られようとも、あらゆる策を講じるしかないのだ」

 

 そう。

 人間は弱い。

 だからこそ。

 導かなければならない。


「そうか、では私は闇文明D・M(デュエル・マスター)常闇の魔人、斬札ウィンを呼ぶことにしよう。やつの力は非常に有用だろう」


「それでは私は開発部門担当ジェンドルを呼ぼう。では友よ、また会える日を待ち望んでいるぞ」


「「全ては――永遠なる人間の繁栄のために」」



 ◇



「そもそも何でクリーチャーの肉って食べられないのかな」


 焚き火の前、転がされた巨大な肉塊を前にして、俺はぼやいた。


「ん〜?よく知らないけど、マナがこもっているからとか?

 普通の肉との違いってそれぐらいしかないよね」


 隣でアガピが肩をすくめる。

 俺たちはどうにか調理しようと試みた。

 焼く、煮る、削ぐ、干す――思いつく限りの方法を試した。

 だが。

 食堂のおばちゃん(年齢、本名ともに不詳)は、それを一言で切り捨てた。


「そんなもん無理に決まってるだろうさ」


 さらに追い打ち。



「まだ土を食べようとする方が有意義だね」


 ……つまり、それくらい馬鹿げているということだ。

 焚き火の火がぱちりと弾ける。


「じゃあさ」


 俺は、ふと思いついたように口を開く。


「マナを抜き取る方法ってないのかな」


 その瞬間。

 アガピの目が、わずかに見開かれた。


「……ああ、なるほどね」


 口元に薄く笑みが浮かぶ。


「魔石の代わりにするってことか」


 魔石。

 それはクリーチャーや人の体内から生成される、マナの結晶体。

 自身のマナの代替として使用できる便利な道具だ。

 だがその反面、マナを常に放出し続けるため、持っているだけでクリーチャーに存在を察知されるという致命的欠点を持つ。

 便利なのか危険なのか分からない代物だ。


「まあ、結果的にはそうなるのか」


 俺は肉塊を見下ろしながら言う。


「とにかく、マナさえ抜ければなんとかなる気がするんだよな」


「完全に抜き取るのは難しいだろうけど……やってみる価値はあるんじゃない?」


 ――その一言で決まった。

 こうして始まったのが。

 大・調・理・大・会。

 手順は至ってシンプル。

 マナを扱う決闘者(デュエリスト)全員で、肉に含まれるマナを徹底的に使い切る。

 その結果。

 完成したのは――

 異様に硬く、妙に自然味あふれる香り(要するに臭い)を放つ肉の塊だった。

 それをネギ塩だれに一晩漬け込み、シンプルにステーキとして消費する。

 理論上は完璧である。

 半日後。




「……気持ち悪い……」


 視界がぐらぐらする。

 頭が重い。吐き気が止まらない。

 ここまでマナを垂れ流したのは初めてだ。

 感覚としては――完全に二日酔い。

 いや、それ以上かもしれない。


「……うえっぷ……」


 周囲を見れば、全員似たような状態だった。

 ちなみに、一番効率よくマナを無駄にする方法は。


「とにかく無意味にいろんなことを同時にやること」


 威力も効率も無視して呪文を乱発する。

 ……二度と役に立たない知識だろう。


「みんなお疲れのようだねえ」


 そんな中、後ろから食堂のおばちゃんの声が飛んだ。


「でもここからが本番だよ?」


 ――そう。

 ここはまだ、スタートラインに過ぎない。

 戦士職が刃物を手に取り、肉を一センチほどに切り分けていく。

 鈍い音とともに、肉の山が次々と積み上がっていく。

 とんでもない量だ。

 それらをネギ塩だれの入った樽へと放り込む。

 当然足りるはずもなく、街から追加で調達した。

 どう考えても自分たちだけでは処理しきれない。

 だから街の人間にも協力を仰ぐことにした。

 ……後で正体に気づいたら大騒ぎになるだろうが。

 まあ、その時はその時だ。

 焼く。

 炎が肉を包み、脂が弾ける。

 なお、「全部燃やせばいいのでは?」という疑問に対する答えはノーだ。

 そんなことをすれば、マナを大量に含んだ灰が完成し――クリーチャーカーニバルの開幕である。

 ちなみに、呪文で完全に燃やし尽くせば消滅させることも可能らしいが、

 マナを含んだ物質は呪文への耐性が高く、現実的ではない。

 焼き加減は不明。

 なので、とりあえず。

 表面にしっかり焦げ目をつけ、中まで完全に火を通す。

 すると。


「……あれ?」


 ふと鼻をくすぐる香り。


「ちょっと……いい匂い、してないか?」


 気のせいかもしれない。

 だが、確かに何かが変わった。

 味はすでに染み込んでいる。

 野菜を添えて――完成。

 一応それっぽく出来上がったそれを、何も知らない哀れな街の人々に振る舞う。

 万が一バレたら酷い目に遭うだろうが硬い肉により結ばれた我らの絆はそう簡単には噛みちぎれない。

 食べれたのを確認してから、俺たちも、肉の山との戦いに挑む。

 味は――正直、普通の肉の方がうまい。

 だが、それでもいい。

 空腹。達成感。勢い。

 それらがすべてを上書きする。

 胃もたれし始めたら安酒で流し込み、

 酔いが回ればその勢いでまた食う。

 単純作業。だが過酷。

 そして――

 俺たちが山頂に辿り着いたのは。

 次の日の朝、陽が昇る頃だった。

人間は弱いとかなんとか言っていますがクリーチャー種の中で言うと中の上ぐらいです。あの爺さんたちは比較対象がおかしいだけですね。

あと、クリーチャーの肉を食べるという発想が出てこなかった理由ですけど、もし貴方の目の前にでかいゴキさんの体があったとして腹が減っていたとしても食べようと思いますか?そしてクソ不味いほぼ毒というおまけ付きです。おばちゃんは大した女傑ですね。

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