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第n回 お嬢様の会

 こてん、とミュミュが首を傾げる。結ばれた髪がぴょんぴょんと揺れた。彼女は目前に座す二人を見つめた。


「……なんなのよ、これ?」


 小さなテーブルを囲んでミュミュ、グレイス、ソレルが座っている。その席に呼ばれたミュミュは連れて来られるまで何の話し合いなのか全く聞いていなかった。

 グレイスが真剣な顔で口を開いた。


「ミュミュ様はプリシラ様が好きですよねっ!」


 ううん、とミュミュは首を振る。


「ミュミュはシィのことを、好きなんじゃないの。大好きなのよ!」

「! そうでした! 大好きですよね!」


 ミュミュの答えにグレイスが大きく頷いた。隣に座るソレルが呆れを含ませた視線を送る。


「おい、早く始めようぜ」


 グレイスは隣に座るソレルを鋭く睨みつける。


「ふざけないでよね。ミュミュ様の意思の確認せずして始めるも何もないでしょ」

「ミュミュ様がお嬢様を好きじゃないなんて思ってたのかよ」

「そんな訳ないでしょ。でも言質は大切よ。プリシラ様だってよく言われるでしょ。確認は大切って」

「グレイス、お前は偉いの。シィの言葉をちゃんと守るなんて流石シィの侍女なの!」


 勿論です、ミュミュ様!とソレルを睨みつけていた顔を一転、満面の笑みでグレイスはミュミュに頷く。埒が明かない、とソレルはこの会合―――そう会合である―――の意図をミュミュに教える為、口を開いた。


「これは『お嬢様の会』です。主にお嬢様の意思を探ってるんですよ」

「うにゅ? シィの意思?」


 こてん、とまた首を傾げるミュミュ。


「お嬢様はどうも俺とグレイスが何でも分かるみたいに思ってるんですけど、いやそんな訳ないじゃないですか。俺ら、心読める訳じゃないし。ってことで、二人でお嬢様が何を考えてるのか、意味分からん行動はどういった意図でやってるのかっていう話し合いを昔からしてるんですよ」


 伝説の精霊に対してソレルはプリシラに対する時より、適当だ。ミュミュの容姿が幼い少女であることもあるが、何よりプリシラへの懐きぶりを傍から見ていると畏敬や尊敬の念よりも可愛がりたい気持ちが湧いてくる。何より、ミュミュ本人が気にしてないのでソレルはプリシラがいない時、ぞんざいな言葉遣いで接していた。


「ふむぅ。それは素晴らしいの。シィの考えを分かっとくのは二人にとって大切なの。ミュミュをそこに加えようって思ったのは当然なの」


 キラキラと大きく目を輝かせて、腕を組んで大きく首を上下に振る。そんなミュミュに「勿論です!」と笑ったグレイスは、一転。眉間に深い皺が寄った。


「今回の議題は―――プリシラ様が何故オール子爵と仲良くなさるのか、です」


 重々しい口調でグレイスは本題を告げた。ソレルも腕を組んで険しい顔になっている。


「ッ!! あのいけ好かない男なの!!」


 グレイスが口にした名前にミュミュの視線は鋭くなる。


「そうです、オール子爵のことです。いつもは私達の話を優先してくれるのに、何故プリシラ様は止めてくださいと私達が言ったのに止めて下さらないんでしょうっ!?」

「そうなの!シィは他の事はいつもミュミュの事を優先してくれるのにあいつの事は聞いてくれないの!」


 頬を膨らませ、赤くさせたミュミュが叫ぶ。まさにその通りです!とグレイス。ですよね、と同意するソレル。


 まあ、つまりそういうことである。


 ―――ジャード・オール子爵


 突如としてプリシラの心を攫った老紳士。攻略キャラ、マモーナス・オールの父親。基本、プリシラは攻略キャラに会いたくない、と言っている。なのに、その攻略キャラの父親というマモーナスに会う可能性が高い人物と仲良くするなどどういうことだ、と彼らは言いたいのである。


「陛下は分かるんですけどね~? ほら、アレと婚約破棄させて貰えましたし。それと陛下は何ていうか」


 気まずげに言葉を濁すソレル。プリシラの事に関しては空気を読めない、いやむしろ敢て読まないグレイスはソレルが暈した所を言った。


「女性の心を掴む術を心得てるわよね。プリシラ様がステキだって言うのがよく分かるもの」


 それでも陛下だからか、グレイスの言い方は柔らかい。そして陛下に関しては、心配りが凄い、とソレルもグレイスも納得している。

 ルシファーと陛下は顔がよく似ている。普通なら大嫌いな男ルシファーと同じ顔なら嫌いになりそうなものだが、常識などプリシラに通じる訳ない、と振り回され続けた侍従二人は気にしていない。

 ルシファーとの婚約破棄は当然だと思うが、侍従二人の陛下へのポイントが高い点はルシファーの再教育を始めた点だった。おかげでプリシラの元にルシファーが何かちょっかいを出すことなく、更に再教育にカクタスを置いたとジャスパーから教えてもらい、ソレルとグレイスは陛下への評価を右肩に上げた。


「あいつは何だか怪しいの! ソレルもグレイスもそう思うのよ?」


 ソレルは「グレイスが反対してるんで」と言う。が、指名されたグレイスは気まずげな顔になった。


「……正直私は違うんです。ちょっと警戒する感じはします。でもそこまでではなくて。気にしなくていい程度なので、プリシラ様が子爵と仲良くするべきじゃないって根拠が薄くて……むしろ、ここだけの話、王妃様の方が危ないです。命の危険はないんですが何故か危ないって感じがします……」


 グレイスはミュミュに自身が感じたことを言う。王妃の方が危ない、と。だがミュミュは王妃に会ったことが無い。その為、何ともいえなかった。


「王妃様が? 可笑しな感じは受けなかったけどな」


 ソレルは会ったが、陛下とお似合いだという感想しかなかった。少し考えが足りない気もしたが外見は非常にお似合いの二人だった。プリシラが興奮して素敵だったと言うのにも納得していた。


「命の危機じゃないのよ。だからプリシラ様に言ってないんだから。いつか言うつもりではいるけど……聞いてもらえるのかしらね……だって」


 グレイス本人が、あり得ない、と思っている。だから躊躇って言っていない。王妃から受ける直感は、命の危機という感じではない。あれはむしろ。


「……王妃様から色魔と同じ感じを受けるなんてそんなおかしなことってないわよね……」


 自分の感覚を信じるなら、つまり、王妃がプリシラの貞操を狙っているということになる。だがまさか、そんなことはあり得ない。ソレルはグレイスの呟きに当惑した顔になった。


「は? 王妃様から色魔と同じ感じがする? ”危ない”ってそういう意味で? あの王妃様が?」

「だから躊躇ってるのよ。子爵様が危ないって言うより、ずっと直感が訴えてくるんだけど、でもそんな馬鹿なことがある?」


 もしここにカクタスかエビネランがいれば、グレイスに「お前の感覚を信じろ」と言っただろう。だがいない。その為、彼らは王妃の外見に惑わされた。純真清純無垢な外見のインパクトは早々覆るものではない。

 人間、見た目が8割だ。

 自身の直感を信じているグレイスも、まだ若く、常識が邪魔をした。

 人生には己の尺度では測れないことがある、という真理を彼らは思い出せなかった。

 その最たる生物の"精霊"が目前にいるにも関わらず。


「ないだろ。あの王妃様が。アレの母親だからそんな気がしたんじゃないか?」

「そうよね、あり得ないわよね。ちょっと神経質になってるのかしらね」


 二人が納得する様子をミュミュは黙って聞いていた。終わったと見て、すぐに話を戻す。


「ミュミュはね、プリシラはね、ジャードを後々こてんぱんにする為に今仲良くしてると思うの」


 は?と二人は頭上に疑問符を浮かべた。


「いつかあの男を裏切って『馬鹿ね。私が貴方を信じると思ったの? ありえないわ!』って言って、あいつの背中をヒールで踏みつけるの! それで『オホホホホ!!! わたくしが女王様よ!』って高い声で笑って、それで……」

「ちょ、ちょっと待ってください! ミュミュ様!!」


 妄想を興奮して語るミュミュへ、ソレルが待ったをかける。

 非常に似合いそうだが、その妄想は無い、とソレルは思う。あり得ない。似合いそうだが。その場合、攻撃手段はベルフェゴールから貰った毒物だろうか、と思って、いやいや何を考えてるんだと彼は首を振った。


「今のお嬢様を見て、裏切ることを前提に動いているとは到底思えませんよ。それより、攻略対象の親と仲良くするのを目的にしているというのは? 陛下とも王妃様とも仲良くしてますし」

「……攻略対象者の親と仲良くして何か意味がある? ただ子爵が好きってだけっていう方がまだ説得力があるわよ」


 ソレルの案にグレイスが反論する。ミュミュは自身の妄想に水をさされて、少し頬を膨らませた。

 なお、グレイスはミュミュの妄想に口は出さなかった。だが触れなかったことこそ、彼女の答えだ。


「いや、でも男達と仲良くしたくないんだから親と仲良くしておけばある程度融通が聞くだろ」

「むしろ、プリシラ様を気に入って、息子の嫁にってなるんじゃないの? そんなのプリシラ様は望んでない筈よ。あの方がベルフェゴール様やカクタス様から離れるつもりがあるわけないもの」


 ソレルは沈黙する。グレイスの発言に確かに、としか思えなかった。

 家族の言を無視してジャードと仲良くするプリシラ。

 正直、今までのプリシラを思えば奇行としかえない。ルシファーに夢中になっていた時以来だ。はた、とソレルは目を見開く。グレイスは先程何と言っただろうか。『ただ子爵が好きってだけの方がまだ説得力がある』。そう言わなかったか?


「……まさか、本気でお嬢様は子爵に恋をしたんじゃ……」


 その可能性に思い至り、顔を青褪めさせるソレル。


「何言ってるのよ。それこそ、あり得ないわよ。だって、結婚されてるし、歳幾つ離れてると思ってるの?」

「だが、お嬢様が家族の言を無視したり、聞かなかったりしたのはルシファー殿下に惚れてる時以来だろ! あの時も、旦那様達がもっとおしとやかにするべきだとか色々言ってたの総無視してたし、ベルフェゴール様を大好きな癖して邪険にしてただろ!」

「そっ、それは……そう、ね」


 ソレルの内容に一理ある、と顔を青褪めさせるグレイス。


 二人の間には嫌な空気が流れ始めた。まさか、と思うが考えれば考えるほどあり得そうな気がしてくる。


 突然、きらきらと瞳を輝かせ、ジャードへ話をせがむプリシラ。急に親しみを込めて名を呼び始めたプリシラ。

 ソレルの頭に再生される姿は恋する少女に見えなくも無い。


 同様にグレイスの頭にも、嬉々としてジャードからの手紙を受け取り返事を書くプリシラやジャードの話をするプリシラが再生される。

 そしてソレルと同じ感想を抱く。


 まさかそんないやでも。


 そんな考えが頭を締め、更に確信に変わりそうになっていた―――その時。


「―――ミュミュはシィがお嫁に行ってもついていけるの。だからお嫁に行っても全然構わないの!」


 妄想を語ってから黙り込んでいたミュミュが胸を張って空へ浮かび上がった。

 グレイスとソレルの間に漂っていた重い空気が霧散する。代わりに、二人はふわふわするミュミュを呆気にとられてみた。突然の申し出についていけない。そんな二人にミュミュは全く気づかない。むふふ、と言いたげに優越感たっぷりの表情で腕を組み、ミュミュはグレイスとソレルを見下ろした。


「シィがお嫁に行くなら、二人はさよならするのよ? でも、ミュミュはシィの精霊なの。だからミュミュは当然ついていけるの! だからミュミュはシィがお嫁に行ってもいいの!」

「……いや、待ってください。何でそんな話になってるんですか? ミュミュ様。お嬢様が嫁に行くってどこから……」

「ありえません!」


 常識人ソレルが突っ込みを入れる。だが、それをグレイスに遮られた。


「プリシラ様がお嫁に行かれる時は勿論私も参ります!!」

「おい、そういう話じゃなくて」

「えー? グレイスも来るのよ? シィがお嫁に行く時なのよ?」

「プリシラ様には専属の侍女が必要です。私がついてきます! ソレル、別にあんたは来なくていいわよ」

「いや、行くけどな!? お嬢様が俺らなしで生きてける訳ないだろ! ……じゃなくて!」


 ソレルが大きく突っ込みを入れた。聞きたいのはそこじゃない!とソレルが言えば、グレイスもミュミュも彼を無視してプリシラが嫁へ行った場合を議論し始めた。


「―――あら、何の話?」

「「「―――ッッ」」」


 三人とも息が止まったかと錯覚をおこした。


 声のした方を振り向けばプリシラが不思議そうに首を傾げる姿があった。隣にはベルフェゴール。お互いの手を握っている。二人がここにいるということは、何時の間にかお昼近くになっていたらしい。グレイスとソレルは直ぐにプリシラの侍従の顔になった。


「プリシラ様。お帰りなさいませ」

「ベルフェゴール様もお帰りなさいませ。お嬢様、楽しめましたか?」

《シィー! ベルお兄様ぁー!》


 精霊姿になって飛んでいくミュミュに、プリシラの疑問はうやむやになった。まあミュー可愛いわ、と笑うプリシラと、そうですね、と微笑むベルフェゴール。





 お嬢様の会はこうしていつも結論を出さぬままに終わるのである。


と言うわけで、お嬢様の奇行について皆様から感想を頂いていたので議論してもらいました。さて真相はいかに?





とりあえず、ここまでです。

まだ続きを書いていないので、もしかしたら今度こそエタるかもしれません。今までは何とか続き書いてましたけど……。


毎回毎回、完結押して後々再開をして申し訳ありません。


でも、皆さん。

わたなにの場合、真面目に書けるところまでと思ってるので結構マジでエタる予感いっぱいだってことを肝に命じてください。

いつだってギリギリの綱渡りです。

お気に入り登録増やしたいとかじゃないんです……プロット本当にないから……ご迷惑かけます。


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